ビジネスモデル イノベーション研究会では、「イノベーションと成長に向けた戦略的融合」をテーマに、さまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問する。そのビジネスモデルを構築している経営者・経営幹部の方から直接講義いただくとともに、現地視察を通してビジネスの現場に、経営転換を「体感」する機会を提供している。
今回は埼玉県川越市に訪問し、コロナ禍経済の中、観光戦略を根本的に再構築することによって、地域と来訪者がともにうるおう仕組みを創造し続けているDMO川越の講義と視察から、中堅・中小企業にも応用可能な経営転換の秘訣を学んだ。
開催日時:2026年3月4日(東京開催)
はじめに
埼玉県川越市。江戸の風情を残す蔵造り町並みと、約380年の歴史を持つ川越まつりで知られる観光地である。DMO川越は地域経済の活性化と課題解決に取り組んでいる。
川越市の観光客は42年間で約4.4倍に増加し、2019年には年間775万人を記録した。しかし、91.6%が日帰り、70%が4時間未満の滞在であり、訪問エリアは蔵造りエリアに集中していた。ごみの散乱や交通混雑が拡大し、地域住民が守り育ててきた共有資源の維持管理負担が地元関係者に集中していたのである。コロナ禍で観光客が激減した際、住民からは「町が静かで過ごしやすい」という声が上がった。この矛盾が川越を問い直すきっかけとなり、住民・事業者・来訪者との対話を経て、「量から質へ」という経営転換を実現させたのである。

川越の観光スポット小江戸の街並み
観光客の「質」を定量データで可視化し、戦略の根拠とする
多くの観光地が「客数」を追う一方で、DMO川越は早い段階から「客の質」に着目した。データをとると、来訪者の9割が日帰り、滞在時間も4時間未満が7割を占めるという構造的課題が浮き彫りになったのである。この事実に基づき、同組織は戦略を単なる「集客」から「滞在時間の延長と消費単価の向上」へと抜本的にシフトさせた。
岩堀氏は「勘だけに頼る経営は限界を招く」と述べる。これは、企業経営でいえば、売上高だけでなく粗利構造とオペレーショナル負荷で意思決定することにひとしい。測る指標を変えることが、戦略を「集客」から「設計」へと転換させるのである。自社にとって事業の真の課題は何であるか、定量的・定性的に問い直すプロセスこそが、持続可能な経営戦略の第一歩となるのである。

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商いの垣根を越えた「利他的共創」が独自の景観価値を生む
川越の商店街が実践する「商いの垣根を越えた共創」は、商業競争の論理を根底から転換するものである。ゴミ対応では自店のみならず他店の分も引き受ける相互扶助を徹底し、行列や食べ歩き対応も商店街全体で協働して課題に向き合っている。景観につながる店づくりにおいても「まちの文脈にあった商いのかたち」というコンセプトで統一感を保ちながら個性を表現している。
個の利潤追求を抑え、地域の歴史・文化に調和する「らしさ」を追求した一軒一軒が連なることで、圧倒的な景観価値が創出された。「まちの一部」として振る舞う利他的な商いこそが、町全体として独自のブランド力を生むのである。短期的な個社利益を超え、地域との共創に自らを適応させることで、持続可能な競争優位性が成立する。

ほかのお店のごみも引き取り活動(左)
ファン化させる取り組みの1つであるふるさと納税でまつり体験を企画(右)
(出所:岩堀氏講演資料より一部抜粋)
「こころえ」と「つながり人口」で関係者を段階的に巻き込む
DMO川越は、住民・事業者・来訪者を交えたワークショップを通じて「川越観光のこころえ」を策定した。共通の「みんなのこころえ」と個別の「わたしのこころえ」により、川越らしさを守り育てるための行動基準が生まれたのである。
訪問回数4回以上が約半数を占めるリピーター層に注目し、「こころえ」への参加をきっかけに関係性を深化させるプロセスを検討中。来訪者を、ファンからサポーターへと段階的に昇華させるのである。このプロセスの中で、例えばふるさと納税や川越祭りへの参加など、訪問者の関心に応じた多様な参画機会を用意する。「つながり人口」という中間段階を戦略的に設計することで、資金・情報・マンパワーが地域に循環し始める。顧客を「ブランド共創者」へ転換させることで、持続可能な競争優位性が成立するのである。

住民との対話を通し関係者を巻き込んだまちづくり
(出所:岩堀氏講演資料より一部抜粋)
一般社団法人DMO川越 事務局長