タナベコンサルティングの「PR/広報研究会」では、企業経営に「インパクト」を生み出すようなブランディング戦略に沿ったPR活動を策定し、企業価値の向上に向けた「経営機能」としてPR活動を推進することをテーマに、その実現を成功事例から学ぶ。
沖縄で開催した第4回は、オリオンビール株式会社より「沖縄から世界へ、オリオンビールのブランディングと広報活動」について、また美浜アメリカンビレッジ(北谷町)の街づくりを手掛ける株式会社デポアイランドより、「お客様に告知してもらうデザイン、町づくり」をテーマにご講演をいただいた。
開催日時:2026年8月27日(沖縄開催)
はじめに
オリオンビール株式会社は、沖縄県豊見城市に本社を構える大手ビールメーカーである。
米国統治下の1957年に「沖縄ビール株式会社」として設立(その2年後に一般公募で現社名へ変更)以来、沖縄県内では圧倒的な販売シェアを維持し続けている。2025年には沖縄の製造企業で初めて東証プライム市場に上場し、県を代表する企業に成長した。
「沖縄から、人を、場を、世界を、笑顔に。」をミッションに掲げる同社は、沖縄県民や県外・海外の観光客に酒類の販売やリゾートホテルでのサービス提供を通じ、沖縄と共に持続的な成長を実現する「循環成長型ビジネスモデル」に取り組んでいる。
「沖縄から世界へ」という設計思想を軸に、人が集う時間や感情そのものを商品価値へ転換する同社のブランド施策は、他の地域発ブランドにおいても大いに参考となる。次に、同社から得た学びを3点に分けて整理してみた。
オリオンビールのブランド体験の質向上を目指し、2025年にリニューアルした名護工場の見学施設「オリオンハッピーパーク」。思わず写真を撮りたくなる“映えスポット“を多数設置するなど、体験価値向上への仕組みが施されている(画像出所:オリオンビールホームページ)
ブランド価値を高める体験価値の機会創出
同社のブランド形成で特徴的なのは、創業初期に早くも「体験できる場」づくりを実践してきたことである。1962年、当時男性が多かったビールの愛好者を女性層へ広げるため、女性向けビアパーティー「レディに贈るオリオンビールの夕べ」(後に「オリオンビアフェスト」に改称)を開催して大成功を収めた。以降、現在まで謝恩イベントや音楽フェスなど、ビールを売るだけでなく体験してもらう機会を自ら創出してきた。
これはビールというモノの訴求にとどまらず、「誰と、どこで、どのように飲むか」という時間価値まで含めてブランド化していることを意味する。沖縄で過ごす心地よい時間、仲間と笑い合う場、旅先で味わう開放感といった体験がオリオンビールの記憶と結び付き、結果として強いブランド想起を生んでいる。ブランド価値は商品機能だけでなく、顧客がブランドを実感する機会の総量と質によって育まれるということだ。特に地域ブランドはその土地ならではの体験を設計し、継続的に提供することが競争優位の源泉になる。

2026年4月に開催された音楽フェス「オリオン・アイランド・ウェーブ」のキービジュアル。ビールを飲むだけでなく、オリオンビールの世界観を体験してもらうことが狙いだ
(画像出所:オリオンビールホームページ)
「沖縄らしさ」を軸とした商品リニューアル
オリオンビールの商品リニューアルは単なるデザイン変更や風味の改良にとどまらない。「沖縄らしさ」を商品に翻訳するという挑戦の連続だ。同社はCI刷新(1989年)、「オリオンドラフトビール」のデザイン変更(2001年)、「オリオン ザ・ドラフト」のパッケージ変更(2026年)まで一貫して沖縄起点でのリニューアルを進めてきた。
とりわけ印象的なのは、伊江島産大麦ややんばるの水など県産素材の活用と沖縄県民の嗜好に合わせた味づくり、ブランドメッセージ「OUR HAPPY HOUR」の導入である。沖縄を装飾として用いるのではなく、原材料、味覚、体験、メッセージまで商品価値に落とし込んでいる。ブランドのリニューアルとは、見た目を変えるだけではなく、自社の存在意義を顧客に再提示する営みなのである。

同社は沖縄と共に成長を目指す「循環型成長モデル」を提唱している
(出所:オリオンビール決算説明会資料)
ブランド想起へのアプローチ
同社はブランド体験の提供とブランド想起の向上に粘り強く取り組んでいる。マス広告、店頭、日常接点、体験施策などを組み合わせた「360度包括的なコミュニケーション」により、生活者との接点全体の設計を進めている。県外・海外展開では、沖縄で過ごした特別な時間の思い出とともにオリオンブランドを想起してもらうため、空港広告やポップアップ(期間限定店舗)、IPコラボなどを通じて継続的な想起につなげている。
同社の一連の施策から学べるのは、強いブランドは「知られる」だけでなく、「思い出され、選ばれる」状態まで設計されて初めて成果につながるということである。大手企業に比べて広告予算が限られる中、それでも生活者の支持を獲得できる背景には、顧客接点でブランド体験を絶やさずに磨き続けてきた一貫性がある。ブランドとは、継続的な顧客接点の積み重ねの中で創り上げられるのである。

2024年には渋谷の地下空間に宮古島の海をイメージしたイマーシブ型バーを期間限定でオープン。
「沖縄で過ごす特別な時間」という体験価値を提供することで沖縄旅行の記憶や感情とブランドを結び付け、継続的なブランド想起を生み出そうとしている
(画像出所:オリオンビールホームページ)
オリオンビール株式会社