ヒーローキャラクターとSNSを活用した地域密着広報の成功事例 大賀薬局
広報戦略においては、広報活動を単発の情報発信ではなく、「企業価値を高める経営機能」として捉え、再設計する視点が重要である。PR/広報研究会では、その企業価値向上に向けた広報戦略の成功事例として福岡県の企業2社から話を伺った。
1社目の株式会社丸信は、シールやラベルの印刷・包装資材の製造を手掛ける企業である。地方に立地するBtoB企業という、広報では不利な条件下で成果を上げている。2社目の株式会社大賀薬局は、ドラッグストア・調剤薬局・化粧品専門店を展開する企業。同社は“ヒーロー”を活用した広報活動を展開し、全国の注目を集めている。それぞれ2社から具体的な取り組みについて講演をいただいた。
開催日時:2026年6月15日(福岡開催)
はじめに
1902(明治35)年に創業した株式会社大賀薬局(福岡市博多区)は、福岡を中心に九州エリアで調剤薬局やドラッグストアなど121店舗(2026年6月現在)を展開する小売り企業である。同社は「残薬問題」の解消をはじめ、地域に根差した健康教育や予防提案、未来の薬剤師育成など地域貢献活動に力を入れている。
残薬問題とは、飲み残しや飲み忘れで患者の手元に余る処方薬が年間推計約500億円にも上り、多額の医療費が無駄な出費になっているという問題だ。同社は子どもから大人まで幅広い世代に向け、自社オリジナルのヒーローキャラクターや社員ユーチューバー、SNS動画の活用に加えて、学校への出前授業やイベントショー、地域プロジェクトなどを通じて残薬問題を分かりやすく伝える広報活動を展開。エンタメ要素を取り入れた健康予防の啓発活動も実施し、「薬を増やすのではなく、減らす薬局」を目指している。
大賀薬局のコーポレートヒーロー「薬剤戦師 オーガマン」
「薬剤師ヒーロー」で相手起点の双方向コミュニケーションを図る
『薬飲んで、寝ろ。』の決めぜりふで、薬を最後まで飲む大切さを教える「薬剤戦師オーガマン」。前例のない薬剤師ヒーローがデビューしたのは、同社の大賀崇浩社長が就任した2019年。幼少期から特撮ヒーローに憧れていた同氏が、残薬問題に立ち向かうコーポレートヒーローのキャラクターを思いつき、反対する役員陣を説得して実現させた。
オーガマンは同氏自らが変身し、子どもたちに正しい薬の飲み方を教える「薬育活動」や薬剤師の認知度向上と衛生習慣の啓発活動、地域と連携した健康づくりなどに貢献するという設定。福岡発の特撮テレビ番組『ドゲンジャーズ』(九州朝日放送)のメンバーとしても活動し、九州各地の企業ヒーローと共に地域活性化に取り組んでいる。
また薬の残量を確認できるオリジナルお薬手帳「やくいく手帳」の配布や、オーガマンと同社の広報兼薬剤師ユーチューバー、“ワディP(ポップ)“こと和田浩嗣氏のイベントによる薬育活動「やくいくプロジェクト」を展開。家庭内の行動変容にもつながっている。

大賀崇浩社長の著書『町の薬局を県内最大手に導いた ヒーローマーケティング』(幻冬舎)とイベント運営スタッフ
社員のYouTuber起用と独自コンテンツの投稿が大きな反響を呼ぶ
同社はYouTubeやSNSの活用においても、単に薬剤師の紹介や商品説明を発信するのではなく、エンタメ性を持たせて視聴者との接点を増やしている。同社が2018年に開設したYouTube公式チャンネル「大賀よかっちゃんねる」(登録者数約5万人)では、同社の薬剤師でメインMCを務める和田浩嗣氏が音楽・ダンス動画や解説動画などを配信。例えば「薬剤師あるある」など共感型コンテンツは大きな反響を呼び、薬剤師を志す求職者や現場で従事者の視聴者との距離を縮める役割を果たしている。
またX、instagram、TikTokなどのSNSを通じてショート動画やコンテンツを投稿し、薬育活動や人材採用、メディア広報、イベント告知など多面的に活用している。同氏によると、ヒーローブランディングの活動やSNSの取り組みなど広報活動の根底には、企業が伝えたいことではなく「相手が知りたいこと」を「受け取りやすい形に変換」して届けることだという。また社員の人柄や挑戦する姿勢など「人が見えるアカウント」が重要と説く。認知度だけでなく採用やインナーブランディングにも効果が波及するためだ。

和田氏のYouTube活動リーフ。幅広い活動が大賀薬局の認知獲得につながっている
蓄積されたノウハウ(経験)は、次のチャンスになる
和田氏は、ショート動画の量産、媒体ごとの役割分担、動画の冒頭2秒の設計、ヒット企画の横展開など、再現性あるノウハウを蓄積して運用している。同社はSNS上の広報活動を単発の再生数稼ぎのための話題づくりに終わらせず、「認知→興味→指名→来店→採用→売り上げ」と事業成果につなげる導線設計として捉えているところに特徴がある。
ショート動画で認知を獲得し、視聴者を長尺動画や自社サイトへ送客しながら関係値を深めていく。その結果、店舗の集客や売り上げの向上だけではなく、採用コストの削減、社員の定着率の向上など、広報部門単体での業績貢献を実現している。
和田氏は研修で訪れた米国の薬剤師の活動と考え方を学び、「誰かが導いてくれるのを待ってはいけない」という価値観を得た。それが転機となり、自ら積極的にSNSやイベントで情報発信を行うようになった。最初は草の根的な発信でも、経験が蓄積されることで企業独自の資産となり、新たな企画・ビジネス・連携を生み出す源泉になっている。

大賀薬局の店舗視察風景。ファサードから店内のトイレの配置に至るまで、徹底した利用者目線の設計がなされていた
株式会社大賀薬局
広報 兼 薬剤師YouTuber