PR/広報研究会では、企業価値向上のために「経営機能」としてPR活動を推進することをテーマに、経営に「インパクト」を生み出すPR戦略や、企業のブランディング戦略に沿ったPR戦略などを成功事例から学ぶ。
今回は、高品質なクッキーを中心に国内外で菓子を製造・販売するヨックモックより「企業価値を最大化させるためのブランド体験」について、またハーブやアロマを扱うライフスタイルカンパニーである生活の木より「自然の恵み&香りによるブランディング」をテーマにご講演いただいた。
開催日時:2026年2月26日(東京開催)
ヨックモック
マーケティング部 ブランドコミュニケーショングループ
グループ長 三宅 香菜子氏(左)
リーダー 松本 純氏(中央)
リーダー 寺島 沙織氏(右)
はじめに
ヨックモックは1969年の創業以来、代表商品「シガール」を軸に日本の贈答文化に寄り添い続けてきた洋菓子ブランドである。創業者が食品卸業から製造販売業へと転換した際の「おいしさへの責任を自ら担う」という決意は、今日も同社の根幹に脈打っている。創業から半世紀を超えた現在、同社は2029年の60周年、さらにその先の100年企業を見据えて、ブランドの再定義と新たな顧客層の開拓に挑んでいる。お菓子は「人と人の想いをつなぐ存在」と信じ、日本の贈答文化に寄り添いながら、青山にブランド拠点を集約。ヨックモック本店、UN GRAIN、ミュージアムを通じて、価値を体験として立体的に発信している。単なる商品販売にとどまらず、文化・体験・美意識を通じてブランドを立体的に展開するこの戦略は、PR活動を経営機能として位置づける同社の姿勢そのものを体現している。

アン グラン(UN GRAIN)では上質な空間とお菓子を提供している(左、出所:ヨックモック提供)
視察では、店内の造りやお菓子作りに込めた思いをシェフから伺った(右)
商品訴求に依存しない「ブランド体験」による差別化
ヨックモックは、親子3世代をターゲットとした「オールギフトシーン戦略」を掲げ、人と人との思いをつなぐブランドを目指している。代表商品「シガール」は高い認知を得ている一方、儀礼ギフトの慣習が薄い30代を中心とした新規層には、選ばれていないという課題がある。そこで同社は、商品訴求だけに依存しないブランド体験の再設計に踏み込んだ。ミニャルディーズ(ひと口サイズの小さな菓子)専門店「アン グラン」や「ヨックモックミュージアム」を東京・青山に構え、菓子に加えて空間、接客、アート、教育プログラムといった“非商品領域”をブランド価値として発信していることが具体例として挙げられる。単発施策で売り上げを追うのではなく、「積み重ねがブランドをつくる」という長期視点で差別化を図り、体験を通じたブランド資産(美意識・文化・記憶)の形成を狙っている。

ヨックモックミュージアムでは、「展覧会」のほかにカフェや教育プログラムを展開しており、アートを通じたさまざまな体験ができる(出所:ヨックモック提供)
周年施策を共感につなげるコミュニケーション設計
ヨックモックの55周年施策のポイントは、周年を単なる記念行事で終わらせず、ブランド価値を再定義し、顧客との関係を深める機会として位置付けていた点である。デジタルキャンペーン「#ヨックモックってどんな味?」では、顧客一人一人の思い出を募集し、アニメーションで具現化することで、ブランドとの原体験を“自分ごと”として捉え直すきっかけをつくった。さらに「ブルーギフトトラック」では、全国3都市で商品の体験機会を創出し、既存顧客には新たな魅力を、新しい顧客層にはブランドとの出会いを提供した。周年施策を通じて、歴史あるブランドを懐古的に語るのではなく、今の生活者との接点に置き換えて伝えることで、ヨックモックらしさを現代にふさわしい形で発信していた点が特徴的であった。

55周年のPR施策では、「#ヨックモックってどんな味?」をお題にユーザーのエピソードを投稿してもらい、認知を拡大させた(出所:ヨックモック提供)

リアル施策では「ブルーギフトトラック」で全国巡回サンプリングと体験導線を設計し、話題化から購買へ波及させた(出所:ヨックモック提供)
「未来の売り上げをつくる」経営機能としての広報
同社の広報活動の本質は、単に露出量を追うことではなく、「質」の高いニュースの源泉を掘り起こし、それを未来の売り上げにつなげる経営機能として運用している点にある。「アン グラン」では、生産者、職人、食器、コーヒー、装花、サービススタッフなど商品周辺まで視野を広げ、語られる文脈を意識してストーリー化することで、オウンドメディアやメディア露出の“質”を高めている。そうして見出した素材を、生活者やメディアにとって意味のある物語へと編集しているのである。さらに、SNS・PR・店舗を一体で捉えるIMC(統合型マーケティングコミュニケーション)の考え方に基づき、露出量だけで良し悪しを判断せず、理解・共感・想起・好意といったアウトカムの蓄積を経て購買へ至る流れを設計している点も特徴的である。広報を“今の露出”ではなく、「未来の売り上げをつくる投資」として位置付ける姿勢こそ、経営にインパクトを生むPRの本質だといえる。

ヘラルボニーとのコラボでは「クッキーのアトリエ」を共創し、焼き立てクッキーとアート体験で若年層との接点を拡大(出所:ヨックモック提供)