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研究リポート
PR/広報研究会
クロスメディア時代を生き抜くために欠かせない「PR/広報」の本質的価値と、顧客体験価値向上に成功している企業の事例を通して、最適なコミュニケーション手法を研究します。
研究リポート 2026.05.20

広告に頼らず受注を伸ばす地域工務店のブランディング戦略 ― DX・地域プロジェクトの活用 ― あいホーム

第2回の趣旨
タナベコンサルティングのPR/広報研究会では、経営に「インパクト」を生み出すPR戦略~企業のブランディング戦略に沿ったPR戦略を策定し、企業価値向上にむけた「経営機能」としてPR活動を推進する~をテーマに、その実現を成功事例から学ぶ。
今回の講義の前半は、地域でのブランド力強化やDX推進など、独自の集客・ブランディングPR戦略に注力する、あいホームの「広告に頼らず受注を伸ばす地域工務店のブランディング戦略」、後半は日本を代表するコスメセレクトショップ、株式会社粧苑すきやの「メタ認知思考~一段上から客観的に捉える能力~」について解説いただいた。

開催日時:2026年4月23日(仙台開催)



はじめに

1959年に創業した株式会社あいホームは、本社(宮城県富谷市)を中心に事業展開する地域密着型の住宅会社だ。新築住宅の建築・販売をはじめ不動産仲介、賃貸、メンテナンス、エクステリア工事など幅広く手掛け、確かな存在感を築いている。コロナ禍の2020年、3代目社長に就任した伊藤謙氏は激しい環境変化(新型コロナの感染拡大、ウッドショック、資材高騰など)と直面しながら、経営の立て直しに向けて試行錯誤を重ねてきた。

 

例えば、施工現場や組織運営におけるDXの推進、全社員参加型でのブランドスローガン策定(「最高のホームをつくろう。」)といった取り組みを進めた。同氏はこれらの経験から、今の時代はDXも、ブランディングも、組織も、集客も全てが「広報」の対象であり、広報戦略を経営マターとして再設計する必要がある、との結論を得たという。

  あいホーム本社敷地内の住宅展示場視察の様子。

あいホーム本社敷地内の住宅展示場視察の様子。






DXを社内改革で終わらせず、「選ばれる理由」に変える

同社の取り組みで注目すべきは、DXを単なる業務効率化にとどめず、顧客に「選ばれる理由」へ昇華させた点である。全社員へのスマートフォン支給、ビジネスチャットツールの導入、クラウドストレージの活用、顧客情報の見える化、電子契約、リモート施工管理などの施策は、現場の生産性向上に加え、情報共有の迅速化、安全性向上、顧客対応力の強化にもつながっている。

 

また、伊藤氏が自らライブ動画配信で就活生への情報発信や面接を行い、採用した社員が中核人材として活躍しているという。同社にとってDXは、地域の工務店が抱える人手不足や属人化、施工品質のばらつきといった課題に対する具体的な解決策であり、新規性、社会性、信憑性を備えた発信テーマでもある。つまりDXは社内改革の実務であると同時に、「地域の工務店でもここまで進化できる」という企業姿勢を伝える広報資産でもある。

  伊藤氏自らライブ動画配信で就活生に発信し、採用広報を企業理解が深まる接点へと進化させた。

伊藤氏自らライブ動画配信で就活生に発信し、採用広報を企業理解が深まる接点へと進化させた。



性能ではなく「意味」で選ばれる

住宅性能を高めれば顧客が増えるはずだ――。伊藤氏はその仮説で断熱性や耐震性を強化したが、期待したほど集客に結び付かなかったという。そこで気付いたのが、顧客は機能価値だけでなく、自分にとっての〝意味〟で商品や企業を選ぶという事実である。以降、同社はブランド開発に着手し、全社員へのインタビューや匿名アンケートを重ねて「最高のホームをつくろう。」というブランドスローガンを策定した。

 

ブランドを経営判断の軸にしたことで、ウッドショックなどの値上げ局面でも単なる価格転嫁ではなく、保証やサービスを含めた付加価値提案へと転換できた。中小企業にとってのブランディングとは、見栄えを整えることではなく、選ばれる理由を社内外で共有する経営手段だと捉えることができる。

  ブランドスローガン(左)を策定後、現在は商品別のリブランディングを進行中(右)。各商品の価値・魅力を見直す良いきっかけになっているという。

ブランドスローガン(左)を策定後、現在は商品別のリブランディングを進行中(右)。各商品の価値・魅力を見直す良いきっかけになっているという。



人とAIに選ばれる、信頼起点の集客戦略

同社の集客戦略の核にあるのは、大量広告ではなく、信頼の接点を増やし続ける発想である。銀行支店長や住宅ローン担当者とのミートアップ、自治体首長との対談、「企業版ふるさと納税」を活用した地域ネットワークづくりなど、リアルな関係構築を通じて紹介の流れを生み出してきた。近年は、Googleマップ上での口コミをはじめとするデジタル上の信頼蓄積を重視し、「AIにモテる」状態を目指している点も興味深い。

 

今は顧客は家族や友人の助言と同じくらい、インターネット上の評価やAIの回答を信頼する時代である。加えて、地域の文化的・歴史的建物を活用した空き家再生プロジェクトは、同社への新たな認知を生み、メディア露出や将来顧客との接点拡大にも寄与している。これからのPR戦略で問われるのは、広告量ではなく、人にもAIにも信頼される情報と関係性をいかに蓄積できるかであると言えよう。

  「シンボリックな空き家再生」として、最も歴史ある神社の隣や有形文化財の空き家を活用した民泊事業を始めるなど、新たな認知・顧客接点の場となっている。

「シンボリックな空き家再生」として、最も歴史ある神社の隣や有形文化財の空き家を活用した民泊事業を始めるなど、新たな認知・顧客接点の場となっている。

PROFILE
著者画像
伊藤 謙 氏

株式会社あいホーム
代表取締役社長