タナベコンサルティングの人的資本研究会では、事業ポートフォリオの最適化に加え、人材ポートフォリオの構築、付加価値を創出する人材の確保・育成、ならびに組織デザインの高度化といった観点から、経営戦略と人材戦略の一体的な推進を重要課題として、「人的資本投資」をいかに効果的に進めていくべきかについて、先進企業の取り組み事例を通じて研究を行っている。
第3回は、AI活用による人事機能の進化と、コーポレートウェルビーイングを基盤とした組織パフォーマンス向上のあり方や取り組み事例などをご講演いただいた。
開催日時:2026年6月15-16日(東京開催)
はじめに
ピースマインドは、1998年の創業以来、EAP(従業員支援プログラム)を軸に、働く個人への相談支援、職場改善、組織分析、ハラスメント対策、復職支援までを一体で手掛けてきた。1,400社超を支援してきた歩みが示すのは、心の健康が福利厚生の周辺論点ではなく、企業の成長力そのものを左右する経営テーマだという事実である。
人手不足、離職、管理職負担、低エンゲージメントが同時進行する今、求められるのは制度の追加ではない。給与や処遇だけでは人が定着しにくい時代において、安心して力を発揮できる状態を戦略としてつくるコーポレートウェルビーイング経営が、持続的成長の土台になる。

ピースマインドのビジョン(講義レジュメより引用)
人的資本経営は、人的資本戦略とコーポレートウェルビーイング戦略の両軸で捉える
人的資本経営を機能させるには、採用、育成、配置、評価といった人事施策だけでは不足する。従業員一人ひとりの心身の健康、職場の心理的安全性、組織全体の制度や文化までを一体で整えてこそ、持てる力を発揮できる。日本企業においては強いストレスを感じる労働者が68.3%、エンゲージメントは世界最低水準の7%にとどまる。
給与や勤務地といった条件だけでは選ばれにくい時代だからこそ、人を集める戦略と、人が働き続けたくなる環境をつくる戦略を分けずに考えることの重要性が高まっている。
ウェルビーイングを福利厚生の延長で扱うのではなく、事業戦略と接続した経営テーマとして位置付ける視点が不可欠である。

※講義レジュメより引用
健康投資はリスクを減らす守りであると同時に、企業価値を高める攻めの投資である
心の健康への投資は、コストではなく、見えない損失を減らしながら価値創造を促す経営投資である。プレゼンティーズム(何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力が低下した状態)による損失は、日本企業における健康関連コストの77.9%に相当すると試算されている。一方で、ワークエンゲージメントが高い従業員は生産性が13~20%高く、健康経営に積極的な企業ほど採用力や定着力でも優位に立ちやすい。
さらに、ハラスメントや職場の人間関係悪化は、高ストレス化だけでなく、管理職の時間損失や組織の沈黙を招く。心の健康投資は、不調、欠勤、離職を防ぐ守りであると同時に、利益率と企業価値を押し上げる攻めの施策となるのである。

※講義レジュメより引用
成功の分岐点は、会社から支援されている実感をどう生み出すかにある
施策を整えても、従業員が「会社は自分を支えてくれている」と実感できなければ効果は定着しない。POS(Perceived Organizational Support)とは、会社が自分の貢献を認め、ウェルビーイングを気にかけてくれていると社員が受け取る度合いを指す。
上司からの支援感は、エンゲージメントやパフォーマンスと正の関係を持つことが示されており、現場での対話とマネジメントの質が成果を左右する。だからこそ、相談窓口の設置だけでなく、管理職支援、ストレス分析、育児・介護・治療との両立支援、女性の健康課題への対応まで含め、支援が日常の実感として伝わる運用設計が重要である。

EAPを活用したPOSの施策例(講義レジュメより引用)
ピースマインド株式会社
代表取締役社長・共同創業者