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研究リポート
人的資本研究会
人材を投資により生産性を高められる「資本」として捉え、人的資本と活育サイクル(採用・育成・活躍・定着)の視点で事例研究を進めます。
研究リポート 2026.05.15

理念を核とした人材育成と価値創造 ~100年企業への道筋~ 関ケ原製作所

第2回の趣旨
タナベコンサルティングの人的資本研究会では、事業ポートフォリオの最適化に加え、人材ポートフォリオの構築、付加価値を創出する人材の確保・育成、ならびに組織デザインの高度化といった観点から、経営戦略と人材戦略の一体的な推進を重要課題として、「人的資本投資」をいかに効果的に進めていくべきかについて、先進企業の取り組み事例を通じて研究を行っている。
第2回研究会では、経営理念から経営戦略、人事施策に至るまでを一貫したストーリーとして結び付ける「連動性」をテーマに、社員の主体的な実践を通じた成果創出と、その連動性を具現化する「価値創造システム」の設計について検討を行った。具体的には、企業の価値観に基づく求める人材像の明確化、質と量の両面を踏まえた人材ポートフォリオの構築、市場競争環境を踏まえた独自戦略に基づく人事KPIの策定等を取り上げ、議論を深めた。

開催日時:2026年4月21日(中部開催)



はじめに

予測困難な経営環境や深刻な人材不足が常態化する中、企業が持続的に企業価値を高めていくためには、事業戦略と連動した「人的資本投資」が不可欠である。一方で、多くの企業においては日常業務への対応に追われるあまり、理念の浸透や本質的な人材育成が後回しとなりがちであるのが実情である。

 

岐阜県に本社を構え、超大型・超精密な一品物製品を手掛けるニッチトップメーカーである株式会社関ケ原製作所も、過去には激しい需要変動の影響を受け、生産優先を余儀なくされる時期を経験した。その結果、組織の求心力低下という課題に直面することとなった。同社がこの局面を乗り越えることができた背景には、普遍的な信念である「人間ひろば」への原点回帰と、社員満足をわずかに優先する「バランス経営」の確立があった。

 

同社は、企業理念を単なるスローガンにとどめることなく、日常の行動レベルにまで落とし込み、全社的な「活育サイクル(採用・育成・活躍・定着)」を自律的に回す経営を実践している。本稿では、100年企業を見据え、理念を核とした持続的な価値創造を実現する同社の取り組みについて、その要諦を明らかにしていく。

  創業の精神「会社はみんなのもの」、私たちの精神「限りなく人間ひろばを求めて」、この人を大切にする原点回帰が同社の成長を支えた。

創業の精神「会社はみんなのもの」、私たちの精神「限りなく人間ひろばを求めて」、この人を大切にする原点回帰が同社の成長を支えた。






社員満足を起点とするバランス経営の確立

同社は当時、需要変動への対応を最優先とする中で、社内コミュニケーションの希薄化という課題にも直面していた。現場の疲弊が進むにつれ、本来大切にされるべき創業の精神や企業理念と、日々の職場の実態との間に乖離が生じていたのである。

 

こうした状況を打開すべく、トップ交代を契機に「原点回帰」を経営の柱として掲げた。その具体策として再定義されたのが、「ひろば(社員満足)51%、事業(顧客満足)49%」という独自の「バランス経営」である。これは、社員が精神面および職場環境の両面で満たされてはじめて、顧客の期待を超える価値を提供することが可能になるという、同社の明確な経営哲学を示すものであり、「人を大切にする経営」を最優先に掲げる同社の強いメッセージが込められている。

 

社員にとっての安心感や組織への信頼、エンゲージメントを高める重要な基盤となり、その結果、理念の再浸透を通じて社員一人ひとりの自律的な行動が促され、持続的な事業成長と新たな顧客価値の創出へと結実している。経営戦略と人材戦略を連動させていく上での第一歩は、揺るぎない理念に立脚した社員満足の追求にあると言える。



次世代リーダー主導による行動規範の「自分事化」

理念を掲げるだけでは、現場における日常的な行動には必ずしも結び付かない。同社においても、過去の中途採用の増加や生産優先の環境下において、理念の浸透が弱まるという課題を抱えていた。そこで同社は、理念とものづくりを現場レベルで結び付ける行動規範として、「セキガハラウェイ」の策定に着手した。

 

特筆すべき点は、本行動規範を経営陣や人事部門がトップダウンで策定したのではなく、次世代リーダー育成の場である「社長塾」に参画する若手・中堅社員が中心となって作り上げた点にある。次世代を担う社員自らが、自社の歴史や理念に込められた思いをひもときながら、「自分たちはどうあるべきか」について徹底的な議論を重ね、言語化を行った。

 

社員自身が試行錯誤を重ねて生み出したプロセスを経たことで、言葉には確かな重みが宿り、現場において強い納得感と共感を生み出した。この「やらされ感」のない自律的なアプローチこそが、理念の形骸化を防ぐ重要な要因である。自ら策定に関与した行動規範であるからこそ、社員一人ひとりが経営の当事者として意思決定を行う意識が醸成され、「自分事化」が促進され、持続的な価値創造の基盤となっている。

 

次世代人材が参加する社長塾のメンバーにより、わが社の歴史、理念の背景や想いを紐解き、行動規範として「セキガハラウェイ」を明文化。読み合わせや全社員研修などで浸透を図ってきた。「言っていること」と「やっていること」が揃い、社内の一体感が高まった。

次世代人材が参加する社長塾のメンバーにより、わが社の歴史、理念の背景や想いを紐解き、行動規範として「セキガハラウェイ」を明文化。読み合わせや全社員研修などで浸透を図ってきた。「言っていること」と「やっていること」が揃い、社内の一体感が高まった。



理念を核とした人材戦略と事業戦略の連動

同社の人材育成は、「学び舎(人間力育成)」「技術村(技能伝承)」「文化村(地域・家族との交流)」の三つの柱によって構成されている。これらが単発の施策として個別に機能するのではなく、すべてが「人間ひろば」というブレることのない理念を中心に有機的につながり、相乗効果を生み出している点が、同社の最大の強みである。

 

単に技能の習熟を図るのではなく、人としての軸や周囲との信頼関係といった人間力を併せて高めることで、自律型人材(匠人材)が育成される土壌が形成されている。その結果、理念を核とした活育サイクルが全社的に自走する状態となり、かつて課題とされていた離職率は1%未満へと大幅に低下した。

 

さらに、人材の成長は、防衛関連事業や次世代インフラ分野など、他社には容易に対応できない高難度・高付加価値案件の受注拡大にも直結している。経営戦略(事業ポートフォリオ)と人材戦略(人材ポートフォリオ)が理念を介して高度に連動することで、持続的な企業価値向上を実現する100年企業としての道筋が示されている。

  ものづくりマイスター、技能委員会、能力開発大会など、成長支援、技能承継におけるさまざまな取り組みが高付加価値実現を支えている。

ものづくりマイスター、技能委員会、能力開発大会など、成長支援、技能承継におけるさまざまな取り組みが高付加価値実現を支えている。

PROFILE
著者画像
安田 知興 氏

株式会社関ケ原製作所 執行役員