物流経営研究会は、物流現場に眠る人的資産・構造資産・関係資産を仕組み化し、属人的な強みを利益に結び付く「価値創造ストーリー」へと転換することを重視している。
第1回は、経済産業省の新井和樹氏をお招きし、2024年問題の現状や物流効率化法の全体像、国の判断基準や、特定事業者に義務付けられる中長期計画の作成、特定荷主に求められる物流統括管理者(CLO)の選任など、施行状況を踏まえた実務対応について講演いただいた。
開催日時:2026年9月11日(東京開催)
はじめに
2024年度からトラックドライバーに時間外労働の上限規制(年960時間)が適用され、対策を講じなければ2030年には34.1%(9.4億トン)の輸送能力不足が懸念されている。経済産業省が2026年2月に実施した荷主アンケートでは、約1割の荷主が時間外労働規制を理由に輸送を断られた経験を持つと回答した。新井氏は、能登半島地震の被災地支援で「物が届かない」現実に直面した経験を語り、同様の事態が平時にも起こり得るとの強い危機感を示した。物流効率化法は、物流を持続可能なものとするために同省としても本格的に取り組むという姿勢の表れであると述べた。
出所:「経済産業省による対荷主向けアンケート結果(抜粋)」
荷主に「自ら変える姿勢」を問う物流効率化法
前述のとおり、2024年問題による輸送能力不足が懸念される。物流の停滞は物流事業者の努力だけでは防ぎきれず、貨物を発送し、受け取る荷主の商慣行にこそ課題がある。物流効率化法はこの構造に踏み込んだ制度である。
2025年4月に全ての荷主・物流事業者へ努力義務と国の判断基準が適用され、2026年4月には取扱貨物重量9万トン以上の特定荷主等に中長期計画の作成・定期報告が義務化された。取り組みが不十分な場合は指導・助言に加え、勧告・命令の規定もある。
新井氏は本法について「荷主自身が物流の実態を把握し、自ら変える姿勢を持つことが重要」と述べた。荷主の変化が促される今こそ、物流事業者にとって対等な対話と提案の好機である。

荷主向け!物流効率化法の概要
出所:経済産業省ホームページ
手段ではなく「目的」を問う判断基準
国が策定した判断基準は「積載効率の向上」「荷待ち時間の短縮」「荷役等時間の短縮」の3領域で構成され、リードタイムの確保やトラック予約受付システム、パレット等の活用が例示されている。
新井氏は、特定事業者であってもバース予約システムの導入自体が目的ではなく、到着時刻を分散できていれば手段は問わないとの見解を示した。一方、荷役の効率化については、パレット等の輸送用器具の活用が有効であることを、自身の現場経験を交えて紹介した。
判断基準の本質は、ツール導入ではなくドライバーの拘束時間削減という目的の達成にある。現場実態から出発する改善は、ノウハウを仕組み化する知的資産経営の視点とも重なる。

荷主向け!物流効率化法の概要
出所:経済産業省ホームページ
事業特性に応じて自ら描く中長期計画
特定荷主には最長5年間の中長期計画の作成・提出が義務付けられ、初年度は2026年10月末が期限である。法は一律の取組を課すのではなく、国の判断基準を基に各社が事業特性に応じて取り組みを具体化する建付けである。
新井氏は、進捗確認が可能な具体的取り組みと実施時期を年度ベースで明記することなどの注意点を示した。また、計画を物流事業者へ丸投げせず、荷主自身が物流事業者と対話しながら練り上げるべきものだと強調した。
計画作成を義務対応で終わらせず、自社物流を可視化し経営計画へ接続する機会とすべきである。荷待ち時間等の計測・可視化は、現場ノウハウを仕組みへ昇華させる知的資産経営の第一歩である。物流事業者にとっては、制度を追い風に「運ぶだけ」から脱却し、荷主に選ばれるパートナーへ転換することが問われている。

中長期的な計画の作成
出所:国土交通省ホームページ
経済産業省 商務サービスグループ 物流企画室
物流専門官(物流効率化法担当)