物流経営研究会は、物流現場に眠る人的資産・構造資産・関係資産を仕組み化し、属人的な強みを利益に結びつく「価値創造ストーリー」へと転換することを重視してきた。
第1回は、クラウドWMSをはじめとする物流システムを提供し、自社でも物流拠点を運営する株式会社ダイアログより、常務取締役 COOの米谷諒氏を講師に招聘。「ベテランの頭の中を、会社の資産に変える」をテーマに、AIを活用して属人化した判断やノウハウを可視化・標準化する方法と、物流データを経営に生かすためのデータ基盤について講演いただいた。
開催日時:2026年9月10日(東京開催)
はじめに
ダイアログは、クラウドWMS「W3シリーズ」を中心に、物流業務のデジタル化を支援する企業である。幅広い業種に導入実績を持ち、累計導入企業数は900社を超える。また、川越、流山、所沢、南港、尼崎の5拠点で自社の物流センター「Yellow Tail DC」を運営し、自社開発のシステムを実際の現場で日々検証している点も特徴である。
物流現場では、配車や人員配置、荷主への提案、トラブル対応など、企業の利益や顧客満足度を左右する重要な判断が、特定のベテランの経験や勘に委ねられている。しかし、その人材が退職すれば、長年培われた知識や判断基準も失われかねない。本講演では、AIをベテランの代替ではなく、ベテランの判断を言語化し組織に残すための道具として位置づけたうえで、AI活用とデータ基盤構築の具体的な考え方が示された。
ダイアログはIT企業でありながら、グループに物流企業(Yellow Tail)を保有し、ロジスティクス× ITに自社で磨きをかけ続けている
出所:Yellow Tailホームページ
AIをベテランの代替ではなく知恵の翻訳者にする
AI活用というと、ベテランの仕事をそのままAIに代替させることを想像しがちである。しかし、現時点のAIに例外への対応や最終的な責任まで任せることは難しい。重要なのは、ベテランが経験にもとづいて行っている判断を言葉にし、誰もが活用できる形に変えることである。
例えば配車では、ベテランは車格や免許、道路事情、荷主の特性、ドライバーとの相性、翌日の予定、残業時間など、複数の条件を瞬時に組み合わせて判断している。本人にとっては「なんとなく分かる」ことであっても、対話を通じて判断の条件や順序を一つずつ言語化できれば、業務マニュアルやAIに与える「スキル」として再現可能になる。AIは、ベテランの知恵を会社の資産へ翻訳する役割を担う。

出所:米谷氏講演資料
作業のAIから、判断と経営のAIへ段階的に進める
AIには、文字起こしや帳票の読み取りを担う「作業のAI」、波動予測や異常検知、シフト・在庫・配送の最適化を担う「判断のAI」、拠点別・荷主別の採算予測や投資判断を支援する「経営のAI」がある。上位のAIを実現するには、日々の業務データが蓄積され、整理されていなければならない。
講演では、294本の日報をAIで分析したところ、改善提案が記載されていたのは60本(20.4%)にとどまったという事例が紹介された。まずは日報の集計や音声の文字起こしなど、取り組みやすい業務からデータ化を進める。そして、蓄積したデータをもとに、作業、判断、経営へと段階的にAI活用の領域を広げることが重要である。

出所:米谷氏講演資料
WMSを倉庫管理から経営データ基盤へ進化させる
WMSはこれまで、入出荷や在庫を正確に管理するための業務システムと捉えられてきた。しかし、ハンディ端末の操作履歴や作業実績をデータとして蓄積すれば、WMSは経営判断を支えるデータの発生源になる。
物流の実態を把握するには、入出荷や在庫などの実行データだけでなく、人員・車両・設備などの資源データ、荷役料・保管料・人件費などの採算データ、荷主からの問い合わせや要望といった関係データも結び付ける必要がある。これらを横断的に分析し、拠点別・荷主別の生産性や収益性を可視化できれば、物流現場の改善だけでなく、適正な価格設定や荷主への提案にも活用できる。WMSを経営インフラへ進化させることが、価格競争から抜け出す基盤となる。
AIはあくまでツールである。資産はすでにベテランの頭の中とWMSの中にある。すでに持っているものを言語化・構造化・標準化することが今後も選ばれ続ける会社になるための重要な要素となる。倉庫を「預かる場所」から「データを生む場所」へと視点を変えていかなければならない。

ダイアログが提供する「W3 Data Platform」は既存のあらゆるシステムのデータを繋ぎ、AIのデータ基盤として活用することができる。
出所:ダイアログホームページ
ダイアログ 常務取締役COO