•  
物流経営研究会のメインビジュアル
研究リポート
物流経営研究会
”物流は世の中を支えている”にもかかわらず、他業種と比較して長時間労働、低賃金です。第7期は高収益ビジネスモデル、人財確保・デジタル化への取組を全6社と参加企業から学びます。
研究リポート 2026.04.20

路線事業脱却を目指して エスラインヒダ

第2回の趣旨
物流経営研究会は、価格競争に陥りやすい収益構造の脆弱性と、顧客依存度の高さという業界共通の課題に向き合い、ビジネスモデルの再設計によって高収益体質へと転換することをテーマに掲げている。路線事業を主軸に置く中堅・中小物流企業にとって、荷量の構造的減少と収益悪化は避けがたい現実であり、事業ポートフォリオの多様化は喫緊の経営課題である。
今回は、岐阜県飛騨地区を拠点とするエスラインヒダ専務取締役の上谷泰弘氏に、「路線事業脱却を目指して」をテーマに講演いただいた。研究会メンバーは、路線事業に依存した体制から脱却するために、同社がどのように自社の強みと地域の特性をに生かし、いかに新規事業を展開してきたか、その実践と課題を学んだ。

開催日時:2025年12月4~5日(岐阜開催)



地域の特性と掛け合わせた新規事業を開発

エスラインヒダは、エスライングループの一員として、岐阜県飛騨地区を中心に路線事業を展開している地域物流企業である。高山市を拠点とする同社のエリアは、長良川の鵜飼や高山祭など歴史・文化資源に恵まれた観光地である一方、かつて地域経済を支えた家具・アパレル産業の衰退が著しく、路線事業の荷量は長期的な減少傾向にある。かつて売上構成の7割以上を占めていた路線事業の比率は、現在では40%台にまで低下している。

 

こうした構造変化に対し、同社は10年以上前から「路線インフラを生かした新しい物流への取り組み」を模索してきた。路線事業を簡単に撤退できない以上、そのネットワーク・集配機能・拠点を資産として捉え直し、地域の特性と掛け合わせた新規事業を積み上げてきた。今回の講演では、ホームサービス事業とタイヤ保管事業を中心に、その具体的な展開と現在進行形の課題が共有された。

  エスラインヒダは、エスライングループの中でも、岐阜を中心とした愛知から富山の地域を中心に事業を展開

エスラインヒダは、エスライングループの中でも、岐阜を中心とした愛知から富山の地域を中心に事業を展開
出所:エスラインヒダ講演資料






路線インフラを「資産」として再定義した事業展開の発想

同社が新規事業を構想する際の起点となったのは、路線事業が有する幹線便・集配機能・集配センターという3つの機能を、「負の遺産」ではなく「活用可能な経営資産」として捉え直す発想の転換であった。

 

幹線便に貸切輸送を組み合わせ、昼間に稼働率が下がる集配センターを保管・加工拠点として活用。固定化された集配機能には特化型配送サービスを重ねる構造を構築している。

 

こうした考え方に基づき、同社は飲料配送や家電の搬入・設置業務を路線機能と組み合わせて受託し、繁閑差の大きい地域特性を踏まえた稼働率の平準化を実現してきた。

 

既存インフラを制約ではなく差別化の源泉と捉えるこの発想は、資産ベースで競争力を高めるアプローチとして注目に値する。

  路線事業」を掲げた同社は、自社の強みを振り返り、新たな取り組みを展開した

路線事業の課題に直面したことで、「脱 路線事業」を掲げた同社は、自社の強みを振り返り、新たな取り組みを展開した
出所:エスラインヒダ講演資料



ホームサービス事業による「生活密着型」ビジネスモデルの構築

引越し業務は従来から部分的に手掛けていたが、同社はこれを「ホームサービス」と再定義し、住まいに関わるトータル物流サービスとして体系化した。背景には、営業活動を通じて自社の地域認知度が想定以上に低いと感じたことがあったという。

 

そこで、飛騨地区のご当地キャラクター「ひだっち」をトラックに掲示するなど、地域密着型のブランド訴求に着手した。併せて、家電・家具の搬入設置を担う専門スタッフを引越しチームに組み込み、設置作業まで完結できる体制を構築。家財の一時保管や家具移動、イベント関連業務へも展開し、集配機能を活用しながら生活領域へと顧客接点を広げている。

 

このモデルは、追加投資を抑えつつ、地域オンリーワンの収益構造を目指す合理的な取り組みといえる。

  ホームサービス事業は徐々に事業領域を広げ、「家中トータル物流サービス」へと発展

ホームサービス事業は徐々に事業領域を広げ、「家中トータル物流サービス」へと発展
出所:エスラインヒダ講演資料



タイヤ保管事業に見る「地域特性×路線機能」の事業化プロセス

タイヤ保管事業「あずけタイヤ」は、引越し作業中にスタッドレスタイヤの保管場所に困る顧客の声を拾ったことを契機に始まった。個人向け預かりサービスとして口コミで広がり、のちにディーラーからの打診を受け法人向けへ展開。現在は複数のディーラーと取引し、約8,500セットを管理、1万セットを目標としている。

 

同社の強みは、路線の集配機能を生かした毎日・1セット単位の配送対応にあり、小口・高頻度対応が高く評価されている。在庫管理システムの導入や独自カバーによる品質管理も進める一方、繁閑差による人員確保は今後の課題である。

 

既存ネットワークと地域特性を掛け合わせた本モデルは、地方物流企業にとって再現性の高い新規事業の好例といえる。

  顧客の声から生まれた「あずけタイヤ」は、地域ディーラーの課題解決にもつながったことで、複数のディーラーを巻き込んだ事業となってた

顧客の声から生まれた「あずけタイヤ」は、地域ディーラーの課題解決にもつながったことで、複数のディーラーを巻き込んだ事業となってた
出所:エスラインヒダ講演資料

PROFILE
著者画像
上谷 泰弘 氏

エスラインヒダ 専務取締役