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研究リポート
物流経営研究会
”物流は世の中を支えている”にもかかわらず、他業種と比較して長時間労働、低賃金です。第7期は高収益ビジネスモデル、人財確保・デジタル化への取組を全6社と参加企業から学びます。
研究リポート 2026.04.08

“力任せの経営”からの脱却と、理念経営による事業多角化 ティスコ運輸

第4回の趣旨
今日、物流業界は「2024年問題」に代表される労働時間上限規制への対応、人材不足、燃料・人件費の上昇、車両・設備価格の高騰など、複雑かつ多岐にわたる課題に直面している。 従来の「A地点からB地点へ物を運ぶ」という単一機能の提供だけでは、多重下請け構造の中での価格競争を余儀なくされ、収益性の低下がさらなる人材確保難を招く「負のスパイラル」からの脱却が極めて困難になる。 企業が持続的な成長を遂げるためには、既存の枠組みにとらわれず、顧客のバリューチェーンにおける自社の介在価値を再定義し、選ばれる存在へと変革することが必要である。
第10期の物流経営研究会は、「物流業のビジネスモデル変革に挑む」をテーマとし、独自戦略による高収益化と組織変革を実現した先進事例を研究する。今回は、「単に“運ぶ”会社」から「価値を“創る“会社」への転換を掲げ、理念経営の実装によって多角化を実現したティスコ運輸を視察。創業時の「力任せの経営」から脱却し、従来の経営理念を咀嚼(そしゃく)した羅針盤「TISCO COMPASS」の策定、新入社員から経営層まで各役職に求められるスキルを学ぶことができる「ティスコアカデミー」の運用など、理念経営の実践から、持続可能な成長戦略と組織づくりまでについて学ぶ。
開催日時:2026年3月5~6日(山形開催)



「運ぶ会社」から「価値を創る会社」へ

ティスコ運輸は、山形県山形市に本社を構える総合物流企業である。2000年の設立当初は、「朝から晩まで走り続ける」いわゆる“力任せの経営”で規模拡大を追求してきたが、ある経営者団体との出会いを機に「何のために経営するのか」という問いと向き合い、経営スタイルを一変させた。

 

現在は、代表取締役・菅原茂秋氏のもと、東北3県に拠点を展開。一般貨物輸送に加え、倉庫、流通加工、さらにはデジタルアーカイブ、人材サービス(シェア人事)など、物流の枠にとらわれない多角的な事業を展開している。

 

今回の研究会では、創業者の右腕として変革を支えてきた結城生馬氏と、人事戦略を統括する田村拓也氏より、理念経営に関する取り組みと、それを基軸とした新規事業と人材戦略について講演いただいた。

  ティスコ運輸の本社 ティスコ運輸の本社


全社員の羅針盤「TISCO COMPASS」の実装

かつての同社は、売上至上主義とも呼べる環境で、社員が疲弊し、定着率も低かったという。この限界を突破するために導入されたのが、経営理念「私たちは“運ぶ”を通して価値あるお役立ちを創造します」である。

 

特筆すべきは、社長への16時間にも及ぶヒアリングを経て、この経営理念を咀嚼し、社員全員に伝わる形で「TISCO COMPASS」という理念体系図として整理し、「単に“運ぶ”会社」から「価値を“創る“会社」への転換を促したことである。

 

また、「TISCO COMPASS」の一部である“Value“の実践度を人事評価の50%に設定している。経営理念を人事評価システムへ落とし込むことを通じて「理念に基づき行動したか」を最重要視することで、経営理念に基づいた組織風土へと根本から変革し、自律的に価値を創出する企業文化を根付かせている。

  従来の経営理念を咀嚼し、体系化した「TISCO COMPASS」出所:ティスコ運輸講演資料 従来の経営理念を咀嚼し、体系化した「TISCO COMPASS」
出所:ティスコ運輸講演資料



「現場の思いつき」を事業/サービスに変える社内起業エコシステム

同社の新規事業は、トップダウンだけでなく、現場の「気づき」や「やりたい」から生まれているのが特徴だ。「TISCO COMPASS」により「価値創造」のマインドが浸透した結果、社員は日々の業務の中で「これはお客さまのためになるか?」「もっと良い方法はないか?」を自問自答するようになった。

 

同社では、そのアイデアを社長に直接プレゼンテーションし、事業化の承認を得る「起業家育成制度」が整備されている。プロジェクトメンバーの選定から外部コンサルの活用、システム開発まで、事業を推進する権限が与えられるこの仕組みこそが、物流会社の枠を超えた多角化の原動力となっている。

  2100年になっても社会に必要とされる企業を目指す中期経営計画「Tisco-2100」の全体像 出所:ティスコ運輸講演資料 2100年になっても社会に必要とされる企業を目指す中期経営計画「Tisco-2100」の全体像
出所:ティスコ運輸講演資料

次世代リーダーを育む「ティスコアカデミー」

同社では、「困難な場面でも自ら道を切り拓き、価値を創造・提供することができる高付加価値人材を育成する」という人事理念のもと、教育投資を惜しまない。

 

その象徴が企業内大学「ティスコアカデミー」である。物流実務だけでなく、経営数字、マネジメント、新規事業開発などを体系的に学ぶことができる。この学びの場が、単なるドライバーや作業員ではなく、「経営者視点を持つ人財」を育成する土壌となっている。

 

実際に、アカデミーでの学びから生まれた新サービスが、人事部門のノウハウを外販する「シェア人事(レンタル人事サービス)」だ。学びが事業を生み、事業が人を育てる。この好循環(ビジョン型評価制度×教育×挑戦の機会)が、組織の持続的成長を支えている。

  ティスコアカデミー体系図 出所:ティスコ運輸講演資料 ティスコアカデミー体系図
出所:ティスコ運輸講演資料

PROFILE
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結城 生馬 氏

ティスコ運輸 常務取締役