今日、物流業界は「2024年問題」に代表される労働時間上限規制への対応、人材不足、燃料・人件費の上昇、車両・設備価格の高騰など、複雑かつ多岐にわたる課題に直面している。従来の「A地点からB地点へ物を運ぶ」という単一機能の提供だけでは、多重下請け構造の中での価格競争を余儀なくされ、収益性の低下がさらなる人材確保難を招く「負のスパイラル」からの脱却は極めて困難な状況にある。企業が持続的な成長を遂げるためには、既存の枠組みにとらわれず、顧客のバリューチェーンにおける自社の介在価値を再定義し、選ばれる存在へと変革することが必要である。
第10期の物流経営研究会は、「物流業のビジネスモデル変革に挑む」をテーマとし、独自戦略による高収益化と組織変革を実現した先進事例を研究する。今回は、『「運送に付随する仕事」から「運送が付随する仕事」へ』を掲げ、事業領域の拡張(ALL IN戦略)によって大手メーカーとの直接取引や若手人材の採用成功を実現しているKUBOXTを視察。単なる運送会社から、工事・設置・人材派遣までをワンストップで担う技術サービス企業へと進化を遂げた同社の実践から、労働力不足時代における「理念に基づく事業変革」と「人が集まる組織づくり」を学ぶ。
開催日時:2026年2月5~6日(広島開催)
「物流×人×仕組み×未来」で価値提供
KUBOXTは、広島県広島市に本社を置く、1963年設立の企業である。かつては一般的な運送事業者であったが、2015年の社名変更(旧:久保運送)を機に、事業の定義をを刷新。運送の枠を取り払い、「物流×人×仕組み×未来」で変化を進め、クレーン、設置工事、電気工事、倉庫、整備、人材派遣などを一気通貫で提供する「ALL IN」を確立した。
同社の根底にあるのは「そこまでやる!」という徹底した現場精神である。顧客の潜在的な困り事に対し、運送の枠を超えた技術力で応えることで、金庫扉の設置や大規模コンサート機材輸送といった高難度案件や、大手メーカーとの直接取引を獲得している。今回は、労働力不足時代においても「人が集まり、育つ」同社の経営戦略について、代表取締役社長の久保満氏に講演いただいた。
KUBOXT本社。貨物用エレベーターを完備している(写真左)
「運送が付随する仕事」への転換による高収益モデルの構築
多くの運送会社が「運ぶだけ」のコモディティー化と多重下請け構造に苦しむ中、同社は事業の定義を根本から覆した。「ALL IN」の経営姿勢で、「運送に付随して設置もやる」のではなく、「設置・工事・電気配線といった高付加価値な仕事に、運送が付随している」という状態まで業務領域を拡大している。
例えば、大手ハウスメーカーや電力会社の案件においては、輸送だけでなく、現場でのクレーン作業、据付、配線接続までを自社社員のみで完結させる体制を構築した。
これにより、顧客は複数業者への発注管理や品質リスクから解放され、同社は「代わりの利かないパートナー」として適正利益を確保できる。この高収益構造こそが、後述する人材投資や設備投資の原資となっている。
出所:KUBOXT講演資料
「企業ブランド」の確立による採用力強化
「運送会社=きつい・人気がない」という業界のレッテルを打破するため、同社は「KUBOXT」というブランドの確立に注力した。社名変更、ロゴの刷新、スタイリッシュなユニフォームの導入は、単なる見た目の変更ではなく、「我々は単なる運送屋ではない、技術者集団(プロ)である」というアイデンティティーを社員と社会に浸透させる戦略であった。
採用においては、学歴やスキル・経験ではなく「理念への共感」を最優先とし、地道に学校へ足を運び信頼関係を構築している。また、来訪者に対しては作業の手を止めて全員であいさつするなど、社風そのものを「商品」として売り込んだ。
その結果、高卒求人倍率が極めて高い広島エリアにおいても、学校側から「この生徒を預かってほしい」と推薦される関係性を築き、新卒・若手人材の採用に成功している。
幅広い荷物に対応した拠点「広島FACTORY」
「人が育つ」を可視化する人材資本経営の実践
「仕事を通じて成長できる」という実感こそが、若手社員の定着と意欲向上の鍵であると捉え、徹底的な環境整備を行っている。単に労働時間を短縮するだけでなく、業務に必要な資格(クレーン、電気工事士、施工管理など)の取得費用を全額会社が負担し、スキルアップを推奨。若手であっても、資格と意欲次第でベテラン以上の収入を得られる評価制度を運用している。
また、2024年問題以前から、長距離ドライバーのために個室の宿泊施設や大型浴場を自社拠点の要所に整備するなど、「社員を大切にする」姿勢を形にしてきた。
これらの取り組みが、社員が自発的に「次はあの資格を取りたい」「もっと難しい仕事に挑戦したい」と手を挙げる企業文化の醸成へつながり、会社全体の技術力向上と業績拡大に直結している。
KUBOXT本社に掲げられている社是・社訓
株式会社KUBOXT 代表取締役社長