食品価値創造研究会は、「E・A・T」※をコンセプトに先進事例の研究を進めている。第4回は、北海道函館市を舞台に、地域資源と外来文化を掛け合わせながら独自の価値を築いてきた地域や企業の実例を学ぶ機会とした。
2日目の株式会社五島軒では「140年の歴史と新時代の成長戦略」をテーマに、伝統を守りながらも、地域資源を街全体の価値向上につなげるアソシエーションについて学んだ。
※「E・A・T」= Engineering(技術進化)・Association(新結合)・Transformation(改革・転換)
開催日時:2026年8月5日(函館開催)
はじめに
株式会社五島軒の歴史は明治時代までさかのぼる。長崎・五島列島にいた宗平次(のちの五島栄吉)は、土方歳三のもと旧幕府軍として蝦夷地を目指した。そして箱館(函館)の地で戊辰戦争最後の戦いである箱館戦争を戦ったが敗北した。その後も、新政府軍の残党狩りに追われたが、今でいうロシア領事館にあたるハリストス正教会に逃げ込み、九死に一生を得、そこで刀を包丁に持ち替えてロシア料理を学んだことが同社の起源となる。
そして、終戦10年後の明治12年(1879年)に名を五島栄吉と改め、店主の若山惣太郎とともに“ロシア料理とパンの店『五島軒』”を創業した。それからも函館の地でレストラン、菓子、総菜など、食を通した地域振興活動をつづけ、今年2026年で創業147年目を迎えてもなお、顧客の絶えない地域の名店として名を馳せている。

五島軒の歴史ストーリー
140年の歴史を“資産”として再編集する
同社は長い歴史を単なる伝統として残すのではなく、今の顧客に伝わる価値へと言い換えてきた。
『140年の歴史があるからこそ表現できる現代との繋がりを伝える』『函館との関わりを、地域になくてはならない存在価値へと昇華する』といった歴史に意味を与えることで競争力とし、さらにそれを現代の表現に再編集することで独自のブランド力を高めてきたと言える。
そして、料理に関しても「カレーはブイヨンから、スープはコーンをすりつぶすところから」をモットーとしながら、“現代の適正な価格価値”を提供し続けている。

五島軒の起源であるロシア料理
“食の会社”のまま、新しい顧客層を取り込む
人気漫画の連載完結記念である「ゴールデンカムイ展(函館会場)」には、「苦労はするが無理はしない。課題はあるが“知恵”と“勇気”で乗り越える」という考えで参画。 『概念コラボ』を通して、食という本業の中で新市場を開拓していった。
ゴールデンカムイ展を一時的な話題づくりではなく、これまで接点の薄かった若い女性アニメファン層を取り込んだ。
本業を守りながら顧客の幅を広げたこと、SNSを通してさらなる波及効果を生んだことは、自社らしさを崩さずにマーケティングを成功させたと言える。

ゴールデンカムイ・食の再現
“地域の名店”から“地域を動かす存在”に役割を広げる
ゴールデンカムイ展の成功により函館全体を盛り上げる側に回ったことで、地域のハブ・象徴的存在としてのポジションを強めた。さらには、権利者側に「この街は積極的に作品を盛り上げてくれる」という印象を与えたことは、地域振興に大きく寄与した。
❶行政が予算を付けて関わる
❷公共性のある民間組織が事務局を担当する
❸市内の企業有志が参画する
この3つのポイント、特に見落としがちな❷の役割をしっかり押さえられることが、“地域を動かす存在”として期待される所以であり、地域を牽引する、なくてはならない基盤企業としての存在価値なのである。

函館の観光入れ込み推移
株式会社五島軒 代表取締役社長 5代目