食品価値創造研究会は、「E・A・T」※をコンセプトに先進事例の研究を進めている。第4回は、北海道函館市を舞台に、地域資源と外来文化を掛け合わせながら独自の価値を築いてきた地域や企業の実例を学ぶ機会とした。
1日目の有限会社ペシェ・ミニョンでは、自社ブランドである「スナッフルス」を軸として、地域資源をどのように価値へ転換し、事業成長へつなげていくかを学んだ。
※「E・A・T」= Engineering(技術進化)・Association(新結合)・Transformation(改革・転換)
開催日時:2026年8月4日(北海道開催)
はじめに
有限会社ペシェ・ミニョンは、1992年創業の函館市乃木町に本店を構えるフランス菓子専門店である。伝統のフランス菓子に大胆な発想と繊細な技術を組み合わせ、ケーキや焼き菓子、マカロンなど多彩なラインナップを展開している。
店内にはサロンを併設し、季節の中庭を眺めながら生菓子を味わえる空間を提供している。また東京・丸の内にも焼菓子専門店を展開し、全国へブランド価値を広げている。
同社の代表取締役の中澤氏は、2007年に夫である創業者の急逝により代表取締役に就任。創業者が培ったブランドの軌跡、そして代表取締役交代後の経営の変遷に至るまで、地域有数の洋菓子店からブランド戦略を学んだ。
また、工場と直営店である乃木店の視察を通じて、洋菓子づくりと店舗体験の真髄に触れ、地域資源を活用し外来文化との融合による新たな価値の創造について研究を進めた。
地域資源と外来文化の結合が新たな価値を生む
函館は、西洋文化と地域資源を結びつけながら独自の魅力を築いてきた地域である。重要なのは、地域にあるものをそのまま見せるのではなく、異なる視点や形式と掛け合わせることで、新しい価値として再編集している点にある。
ペシェ・ミニョンは、地域素材そのものの良さではなく、それをどう顧客価値へ翻訳するかを経営の軸としている。地域の原材料や背景を、フランス菓子という形式で提供することで、新たな意味や魅力を生み出し、顧客にとって分かりやすい価値へと転換している。
商品化とは、素材を使うことにとどまらず、その素材が持つ意味を、どのような形で伝わる価値として編集するかという営みでもある。地域資源を生かすとは、地元のものを使うこと自体ではなく、それを選ばれる商品へどう変換するかに本質がある。

チーズオムレットをはじめとした人気商品
体験価値を設計する
顧客が評価するのは、商品単体だけではない。店舗に足を運んだときの印象、空間の雰囲気、接客、時間の過ごし方も含めて、企業の価値は形づくられる。ペシェ・ミニョンでは、菓子の品質だけでなく、フランス菓子の世界観を感じられる空間づくりも重要な要素となっている。
これは、単に商品を販売するのではなく、訪れた体験そのものを価値として提供しているということであり、ブランド形成の上でも大きな意味を持つ。地域企業が選ばれる存在になるためには、商品以外も含めた顧客体験全体を設計する視点が欠かせない。

函館の街並みに溶け込んだ店舗設計
地域企業の事業ポートフォリオ設計
地域に根差した小規模事業者であっても、価値の磨き方と展開の判断次第で商圏を広げることは可能である。ペシェ・ミニョンが、地域密着の菓子店でありながら東京出店やeコマース展開へ進んでいることは、その好例である。
重要なのは、単に規模を広げることではなく、自社の強みがどの市場で通用し、どのチャネルなら価値を損なわずに届けられるかを見極めることである。地域性を制約ではなく強みに変え、磨いた価値を適切な形でより広い市場へ届けることが、持続的な成長につながる。
有限会社ペシェ・ミニョン 代表取締役