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研究リポート
食品価値創造研究会
AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート 2026.06.29

海苔業界の苦悩と山本海苔店の挑戦 山本海苔店

第2回の趣旨
食品価値創造研究会は「E・A・T」をコンセプトに、先進事例の研究を進めている。第2回は『老舗企業に学ぶ「守るべきもの」と「変えるべきもの」』をテーマに4つのセッションを進めた。1日目の株式会社山本海苔店様では「海苔業界の苦悩と山本海苔店の挑戦」をご講演いただき、伝統を守りながら革新を続ける経営、品質へのこだわりと産業活性化への考え方、老舗企業の長く繁栄してこれた秘訣、創業から続く歴代社長の挑戦の歴史を学んだ。

※「E・A・T」= Engineering(技術進化)・Association(新結合)・Transformation(改革・転換) 開催日時:2026年4月9日(東京開催)



はじめに

株式会社山本海苔店は、1849年(嘉永2年)に東京・日本橋で創業した海苔専門店である。乾海苔および乾海苔を原料とした加工食品の製造販売を手掛け、日本で初めて「味附海苔」を創製した老舗として広く知られている。宮内省御用達の歴史を持ち、長年にわたり贈答用海苔の代表的ブランドとして高い信頼を築いてきた一方で、家庭用・業務用商品にも展開し、百貨店、量販店、コンビニなどへ販路を広げてきた。

 

近年は品質管理体制の高度化にも注力し、HACCPやFSSC22000などの認証取得を通じて安全・安心な製造基盤を整えている。「よりおいしい海苔を、より多くのお客様に楽しんでいただく」という理念のもと、伝統を守りながら商品開発と市場開拓を重ね、海苔の価値向上と産業の持続に取り組む企業である。

  1849年日本橋で創業した海苔専門店の老舗企業(写真は昭和初期の本店)

1849年日本橋で創業した海苔専門店の老舗企業(写真は昭和初期の本店)






伝統を守りながら革新を続ける経営

老舗企業における伝統とは、単に創業当時のやり方を守り続けることではなく、時代の変化に応じて価値の提供方法を更新し続けることによって成立するという点である。同社では、二代目が味附海苔を発明し、さらに用途別の海苔の仕訳を行うなど、顧客にとっての使いやすさや新たな食べ方を提案してきた。

 

その後も、海苔の形の統一、百貨店との連携、コンビニ業界への進出など、各代がそれぞれの時代に合わせて販路や商品価値を広げてきたことが分かる。伝統とは“変化しないこと”ではなく、「おいしい海苔を届ける」という本質を軸に、提供方法を柔軟に変えていく営みそのものである。老舗が長く支持される背景には、変わらない理念と変わり続ける実践の両立があり、その積み重ねこそが企業の競争力を生み出している。

  味附海苔のご紹介

味附海苔のご紹介



品質へのこだわりが産業を支えている

品質へのこだわりは単なる商品差別化ではなく、海苔産業全体を持続させるための重要な経営判断であるということである。同社では、口どけの良さや香りの高さを重視し、「すぐ溶ける」海苔を良い海苔の基準としている。そのためには、短く若い、香りの良い海苔を適正な価格で仕入れる必要がある。

 

しかし、贈答用海苔市場が縮小し、高価格で販売できる市場が失われると、漁師は効率を優先して芽を長く育てざるを得ず、結果として品質が落ちてしまう。つまり、消費市場の変化は、製品の品質だけでなく生産現場の構造にも直結しているのである。

 

同社が高品質な海苔を追求し続けることは、自社ブランドを守るためだけではなく、良い海苔をつくる生産者が報われる環境を支えることにもつながっている。品質重視とは、自社の利益と産地の未来を両立させる、極めて社会的な経営姿勢である。

  山本海苔店のシンボルマークである「まるうめマーク」。同社の品質の証として使用され続けている。

山本海苔店のシンボルマークである「まるうめマーク」。同社の品質の証として使用され続けている。



長寿企業は理念と仕組みで成り立つ

同社が長寿企業として存続してきた背景には、優れた商品力に加え、それを支える理念と事業承継の仕組みが明確に整備されてきたことがある。同社では、本家と二つの分家が役割を分担して運営するなど、承継に関するルールが代々受け継がれてきたことが紹介された。

 

こうした仕組みは、親族経営に生じやすい対立や混乱を未然に防ぎ、経営の安定性を高める基盤となっている。また、かつて明文化された経営理念が存在しなかった時代においても、二代目の「良品廉価」や三代目の「品質第一」といった言葉が実質的な行動指針として機能し、企業文化として継承されてきた。

 

企業が次世代へ承継しながら時代の変化に対応し続けるには、商品やブランドの強さのみでは不十分であり、価値観を共有する理念と、それを持続的に運用する仕組みが不可欠であることを、同社の歴史が示している。

  時代の変化に対応した商品開発の事例

時代の変化に対応した商品開発の事例

PROFILE
著者画像
山本 貴大 氏

株式会社山本海苔店 代表取締役社長 次期七代目