食品価値創造研究会は「E・A・T」※をコンセプトに、先進事例の研究を進めている。第2回は『老舗企業に学ぶ「守るべきもの」と「変えるべきもの」』をテーマに4つのセッションを進めた。1日目の株式会社文明堂東京様では「古い組織の変え方 婿経営者編」をご講演いただき、予測不能な時代をしなやかに楽しむ姿勢こそが、古い組織を動かすリーダーの条件であるということを学んだ。 ※「E・A・T」= Engineering(技術進化)・Association(新結合)・Transformation(改革・転換)
開催日時:2026年4月9日(東京開催)
はじめに
株式会社文明堂東京は、1900年(明治33年)に長崎で創業した文明堂の流れをくみ、1922年(大正11年)に東京へ進出した老舗菓子メーカーである。カステラを中心に、三笠山、カステラ巻、バームクーヘンなど和洋菓子の製造販売を手掛け、長年にわたり親しまれてきたブランドとして広く知られている。宮内省御用達の歴史を持ち、贈答用菓子の代表格として高い信頼を築いてきた一方で、日常使いの商品にも幅広く展開し、直営店、百貨店、駅ビル、空港、オンラインショップなど多様な販路を広げてきた。
近年も全国数十か所の販売網を生かしながら、伝統の味を守るとともに時代に応じた商品開発とブランド発信を進めている。「誰かを想う、あなたのために。」というお客様への約束のもと、老舗の価値を受け継ぎながら、手土産・贈答文化を支える企業である。

1900年に長崎で創業し、1922年東京へ進出した老舗菓子メーカー
歴史を知ることが、変革の出発点になる
宮﨑氏は同社先代社長のご息女と結婚されたことをきっかけとし、同社に入社した。入社時、最初に大切にしたこととして、古い組織を変えるには、まず「変える前に深く知る」ことが不可欠という点であった。宮﨑氏は外から来た婿経営者として、いきなり自身のやり方を持ち込むのではなく、会社の歴史、創業家の歩み、暖簾分けの経緯、そしてカステラという商品そのもののルーツまでを丁寧にたどった。
その中で文明堂は、地域ごとの独立性や意思決定の速さという強みを持つ一方で、ブランドの不統一や制度疲弊といった課題も抱えていることが見えてきたという。つまり改革とは、過去の否定ではなく、歴史の中で積み上がった強みと限界を見極め、次の時代に合う形へ再編集することなのである。古い組織ほど、変革の出発点は「理解」にあることが示されている。

カステラ、三笠山、カステラ巻など、長年にわたり親しまれている製品を展開
理念を軸とし、不確実な時代でもぶれない組織を作る
組織変革が進行する中では、内部だけでなく外部環境に目を配ることも重要である。不確実で正解の見えにくい時代ほど、経営判断の拠り所として「理念」が重要になってくる。震災や災害、コロナ禍、国際情勢の変化など、予測不能な環境の中では、場当たり的な対応だけでは組織はぶれてしまう。
そこで同社は、「最良の原材料」「最高の技術」「真心のサービス」「お客様を一回限りのお客様にしない」といった価値観を再整理し、理念を単なる理念とするだけではなく判断基準として活用した。
さらに理念を人材像や人事評価、経営計画と結び付けることで、日々の行動と経営の方向性を一致させていった。その結果、コロナを機に贈答中心から「日常をつなぐ」役割へと業態転換する際も、理念に根差した変化として推進している点が大きな学びとなる。

判断基準としても用いられている、文明堂東京グループの理念
組織変革は、伝える努力と小さな実践の積み重ねで実る
最後に、組織変革は大きな号令ではなく、伝える努力と小さな実践の積み重ねによって進行していくことを認識することが重要である。宮﨑氏は婿経営者の特徴として、しがらみの少なさゆえの客観性と、血縁ではないからこそ必要になる「伝える努力」を挙げていただいた。
実際に玄関掃除、研修づくり、話し方の改善、現場との対話など、泥臭い実践を重ね、失敗しながら信頼を築いていったという。社員が理解してくれない、スピーチが受けない、社内に対立があるといった問題に対し、逃げずに工夫を続け、向き合い続けることが重要である。
「誠実・謙虚・前向き」を自ら体現しつつ、予測不能な時代をしなやかに楽しむ姿勢こそが、古い組織を動かすリーダーの条件だということを学ぶことができた。

贈答用だけでなく、スポーツのための補食用カステラである「V!CASTELLA」など、
時代の変化に即した新商品開発が推進されている
株式会社文明堂東京 代表取締役社長