食品価値創造研究会は「E・A・T」※をコンセプトに、先進事例の研究を進めている。第2回は『老舗企業に学ぶ「守るべきもの」と「変えるべきもの」』をテーマに4つのセッションを進めた。
2日目は西麻布「No Code」オーナーシェフの米澤文雄氏と、株式会社TasteLink代表取締役の戸門慶氏による対談が行われた。トップシェフの視点から考える食品メーカーの付加価値とブランドづくり、そして料理人の新しい在り方について学んだ。 ※「E・A・T」= Engineering(技術進化)・Association(新結合)・Transformation(改革・転換)
開催日時:2026年4月10日(東京開催)
はじめに
本対談は、NYの三ツ星レストラン「Jean-Georges」などで腕を振るい、西麻布「NoCode」を率いるオーナーシェフの米澤氏に対し、料理人出身でシェフの知見を企業に届ける「TasteLink」を展開する戸門氏がインタビューを行う形式で進められた。
料理人として「おいしさ」を極める米澤氏の研ぎ澄まされた現場視点や哲学を、外食ビジネスに精通した戸門氏がナビゲーターとして引き出すことで、一流のシェフが食材を評価する基準や、企業との協業のポイントが紐解かれた。
生産者の思いを乗せた日本の食品メーカーの高いポテンシャルを、ただの「良いモノ」で終わらせず、いかにして国内外で通用する市場価値(ブランド)へと昇華させていくべきか、その具体的かつ実践的なヒントを得ることができた。

西麻布「No Code」
価値を構成する「味・価格・ストーリー」のバランスと関係性構築
一流の料理人が食材を使いたいと判断する最大の基準は「食べておいしいこと」であるが、そこに「価格」と生産者の「ストーリー(思い)」が乗ることで初めて強固な価値となる。日本の食材や基礎調味料は世界最高峰のレベルにあるが、日本人は真面目ゆえに自己評価が低く、その価値を世界へ十分に発信しきれていないという課題がある。背景として、多くの生産者は「作ること」の専門家であり、ブランディングやマーケティングにまで手が回らない現状がある。
価値を最大化するには、オリジナルラベルの採用や生産工程の共有など、つくり手のこだわりを可視化し、共感を引き出す工夫が欠かせない。こうした構造的課題を打破し、優れた商品を顧客に響く圧倒的なストーリーへと昇華させるのが、権威ある第三者たる「シェフ」というフィルターの存在なのである。

米澤文雄シェフ
「誰に・どう届けるか」で変わる付加価値とブランド力
食の付加価値は、五感で味わう要素に加え、パッケージやターゲットの選定によって大きく変化する。同じ品質の食材であっても簡易包装か桐箱に入るかによって顧客が受け取る印象は大きく変わる。また、自分用には買わない1万円の高級トマトジュースであっても、“贈答用”オケージョンとしてターゲットを変えることで、新たな需要と高い付加価値が生まれる。
JALの機内食やZENBなどとの企業コラボレーションにおいては、単一食材の主張ではなく、ビーガン対応など時代に合わせたトータルでの体験設計が求められる。企業という大きな枠組みだけでは描き切れないストーリーも、プロの料理人が入り、その価値を翻訳・再構築することで、消費者に深く刺さるブランドへと昇華させることができる。

米澤シェフが手掛けたJALファーストクラスの機内食
厨房を飛び出す「Chef+(シェフプラス)」という新しい在り方
これからの料理人は、朝から晩まで厨房に立ち続けるだけでなく、多様な関わり方を持つことが、ビジネス上のリスク分散と業界全体の価値向上につながる。米澤氏は、週の半分を自店舗に、残りを他社のレシピ開発やプロデュースに充てる働き方を実践している。
豊島「海のレストラン」では、あえて「シェフを置かない(若いスタッフでも高品質な料理を提供できる)」設計思想を取り入れ、地方における新しい飲食ビジネスのフォーマットを確立した。さらに、障害を持つ子どもとご家族を貸し切りレストランへ招待するなど、食を通じた社会課題へのアプローチもライフワークとしている。
料理人の技術とマインドを「Chef+」として店外へ拡張していく姿勢こそが、次世代の食産業を持続的に牽引する秘訣であることが学べた。

NY BISTRO by NO CODEのメニュー
「No Code」オーナーシェフ米澤文雄氏とTasteLink戸門慶氏による対談シーン