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研究リポート
食品価値創造研究会
AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート 2026.05.07

『老舗企業の挑戦~伝統と革新の後継者として~』 鈴廣蒲鉾本店

第6回の趣旨
今期の食品価値創造研究会では「食品業界の『E・A・T』を極め、新たな顧客価値を創造する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、食の“E・A・T”視点で先進企業から学びを得ることにより、食品業界の新しい時流をつかみ、新たな顧客価値を創造することを目指している。
第6回は、歴史・文化的資源が豊富であり、自然豊かで多様な産業が共存する「オールインワンなまち」神奈川県小田原市にて、創業100年を超える老舗企業を視察する中で学びを深めた。1日目は創業160年という歴史ある鈴廣蒲鉾本店様から、自社の価値を追求し、未来に向けた持続可能な経営を実践するためのE・A・Tの取り組みを学んだ。

開催日時:2025年12月11日(小田原開催)


食品業界の『E・A・T』

はじめに

鈴廣蒲鉾本店は、1865年(慶応元年)創業の神奈川県小田原市に本社を置く歴史ある企業である。同社は、かまぼこ製造を中心としながら、独自の直販モデルと多角的な事業展開で知られている。「老舗にあって、老舗にあらず」という社是のもと、伝統的な職人技や天然素材を守りつつ、時代の変化を見据え、常に変革していくことを自社の精神としている。また、「お魚たんぱくで世界を健やかに」というミッションに基づき、日本人の魚介類摂取量の減少という社会課題に対し、栄養価の高い魚肉たんぱく質を研究し、かまぼこの価値を高める取組みを実践されている。

 

複合施設「かまぼこの里」では、手作り蒲鉾の体験教室、地元の食材を活かしたレストラン「えれんなごっそ」やそば処「美藏」、クラフトビール「箱根ビール」醸造所などを運営しており、観光客に対して「かまぼこのある暮らし」という世界観と食文化を伝える重要な拠点となっている。この他にも、同社は事業を通じて地域社会や地球環境と深く関わりながら、絶えず事業を変革し続けている。

  かまぼこの里にある各施設

かまぼこの里にある各施設






本物を追求し続ける精神

鈴廣の根底には、「本物を追求し続ける」という一貫した思想がある。その象徴が2007年の「魚肉たんぱく研究所」の立ち上げである。職人の経験や勘に依存してきた蒲鉾づくりを、科学的に解明し再現可能な技術へと昇華させる試みは、老舗でありながら常に進化を志向する姿勢そのものと言える。魚種ごとの特性や加工条件を科学的に解明し、世界中の原料を調査することで、未利用・低利用魚の可能性も切り拓いてきた。また、鈴廣は原料仕入への強い信念がある。効率を優先してフィレを使うのではなく、鮮度・旨味の高い魚を厳選して1本ずつ仕入れ、小田原の清冽な伏流水で丁寧な血抜き(水さらし)を行うことで、魚本来の旨味と品質を最大限に引き出している。このような手間を惜しまない姿勢が、160年続く味と技術を支え、次世代へと受け継がれる「本物」を形づくっている。

  複数回の水さらしが白さを生み出す

複数回の水さらしが白さを生み出す(左)
職人の技で一つ一つ丁寧に板にかまぼこが盛られる(右)



三方よしのブランディング

鈴廣のブランディングは、「小田原・かまぼこ・鈴廣」の三者すべての価値を高める“三方よし”の思想を貫かれている。小田原という地において、恵まれた水・魚・森と職人文化を活かし、技術と食文化の街としての価値向上を目指している。 ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の本社や100%太陽光発電によるかまぼこ製造など、環境配慮の取り組みも豊かな小田原の街を持続可能なものにする一環である。 

 

次にかまぼこ業界に対しては、素材の研究や新たな需要創造により、かまぼこそのものの価値を高める取組みを実践されている。そして鈴廣自身は、160年の味とデザインを守りながらも、50年先を見据えて挑戦を続ける経営姿勢を貫いている。同社のブランディングには、自社の創業の地である小田原・かまぼこ業界・自社が皆でよくなるという思いと約束が込められている。

  ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の鈴廣本社。地下水を利用したエアコンや間伐材を使った床材、自然光の利用など、環境への配慮が見られた。

ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の鈴廣本社。地下水を利用したエアコンや間伐材を使った床材、自然光の利用など、環境への配慮が見られた。



常に変化し続ける経営

鈴廣は「老舗にあって、老舗にあらず」という社是のもと、環境変化を捉えながら自らを変革し続けてきた。昭和期にはモータリゼーションの進展をいち早く察知し、現在の風祭地区へ移転するなど、時代の変化を成長機会へと転換している。現在は直販比率を65%まで高め、顧客接点を自らの手で磨き続けている。

 

また、かまぼこを「特別な食品」から「日常のたんぱく源」へと再定義し、プロテインバーなどの新商品開発にも挑戦している。これは、単なる商品開発ではなく、「なぜ今、かまぼこを食べるのか」という理由を機能面からつくり出す試みである。160年続く企業でありながら、第4次創業期として需要創造と高付加価値化に挑む鈴廣の姿勢は、“変わり続ける”ことこそが不変であるという哲学を体現している。そして、この“変わり続ける”という姿勢こそが160年続く企業を支えてきたDNAの本質ではないだろうか。

  鈴廣が開発したフィッシュプロテインバーとサプリメント

鈴廣が開発したフィッシュプロテインバーとサプリメント

PROFILE
著者画像
鈴木 智博 氏

株式会社鈴廣蒲鉾本店 代表取締役社長