食品価値創造研究会は「E・A・T」をコンセプトに、先進事例の研究を進めている。15周年を迎える今期は「事業ポートフォリオ転換」をテーマに掲げ、新規事業開発、デジタルの活用、M&A・アライアンスなどの新たな価値創出と新たな経営技術を獲得することを目指している。
第1回は1日目の学校法人中村学園様には「AI時代の新人的資本経営の実現に向けた挑戦」をご講演いただいた。2日目の株式会社やまやコミュニケーションズ様からは講演や工場視察、めんたいこ作り体験を通じ、自由闊達に開発する文化を実現するための4つの挑戦の取り組みを学んだ。
※「E・A・T」=Engineering(技術進化)・Association(新結合)・Transformation(改革・転換)
開催日時:2026年2月17日(福岡開催)はじめに
学校法人中村学園は、創立者である中村ハル氏が69歳で創設した学園であり、創立72年を迎える。大学院・大学・短期大学に加え、中高・幼稚園を擁し、栄養・教育・ビジネス等の分野を展開する総合学園である。
学校法人としては珍しく教育事業以外に給食受託事業を約200拠点・約1,200名規模で運営し、名だたる大手企業の社員食堂などを受託している。得られた収益は学校法人へ還元され、経済的に恵まれない学生への奨学金等に活用されているそうだ。
また、学園グループで調理師・製菓専門学校の運営や、海外(ソウル)での日本食や製菓を学ぶ学校の展開を通じ、実学を基盤とした人材育成を推進している。卒業生はミシュランガイドのスターシェフを多数輩出し、様々な分野で活躍を広げている。
本視察の目的は、同学園が展開する「食・教育・ビジネス」を三位一体で循環させるモデル、ならびに産学官連携による人材育成・採用の新しい仕組みを学び、自組織の人材戦略・地域連携・食に関する取組の高度化に資する示唆を得ることである。
学園祖 中村ハル先生 出所:中村学園講演資料
出所:中村学園講演資料
食・教育・ビジネスの3系統による事業ポートフォリオの深化
同学園では食・教育・ビジネスの3系統が相互にフィードバックする構造により事業の持続性を同時に高めている。
給食受託は「現場を持つ学校」という独自性を生み、現場で蓄積した経営・オペレーション知見を教育カリキュラムへ迅速に還元している。また、学生は食堂運営への参画、生ごみの堆肥化から栽培に至る食の循環を実体験している。
教育面では、企業・自治体との対話に基づきフード・マネジメント学科のカリキュラムを構成し、将来の食産業に必要な能力要件を体系化している。社会人向けには食MBAリカレント教育プログラムを開講し、2026年4月には修士課程フードビジネスプログラムを開設するなど、食のマネジメント人材の生涯学習を制度化している。
ビジネス面では、受託拠点の拡大と品質保証によりブランド力を高め、その収益を奨学金等の非営利目的に着実に循環させる仕組みを整備している。
食MBAで養成する人材像
AI時代の新たな人的資本経営
少子高齢化が進行し、調理師免許取得者数が大幅に減少する中で、一人あたりの生産性を高める人的資本経営への転換が不可欠である。
同学園は、創業者の残した「人間の頭の良し悪しや学力の優劣よりも何よりも人物が出来ていることが基本である」という言葉を受け継ぎ、これからの時代において、AIに使われない人材、「本物を育む」ことを方針に掲げられている。
具体的には、学生は年次に関わらず企業経営者の講義や実課題に触れ、現場での実践学習から学びを得ている。そして、企業は教育カリキュラムを理解した学生を採用できる枠組みを構築しており、「学校を企業のHR部門」と捉える産学官連携が採用の安定性を高めている。
中高一貫の前工程をグループ内に持ち、ぶれないパーパスの共有により志願者基盤を強化している点も、人的資本経営における学ぶべきポイントである。
出所:中村学園「70周年記念サイト」
創立者 中村ハル氏の志を受け継ぐ
創立者 中村ハル氏は、魚や肉、そして生産者への感謝、食べる人への愛情という、食の根源的な倫理観を掲げた。60代から約20年間で5つの学校設立という飽くなき挑戦心と、「努力の上に花が咲く」という信念は、世代を超えて学園のパーパスに昇華されている。
給食受託事業の収益を奨学金等に充当する設計、フードロス削減や食の循環、ファーマーズマーケットや子どものおつかい体験といった地域・一次産業との協働は、志を社会価値へ具体化した実践である。
また、世界的な教育機関を意識しつつも日本は負けていないという自負のもと、国内教育機関の認知度向上と海外発信を進める姿勢は、志をグローバルな公共性へ拡張する試みである。
インバウンドで高まる日本食の認知を教育・事業の国際展開へと結び付ける視座は、創立者 中村ハル氏の志を現代に即して実践するものであり、60代で創立したそのパワフルさを組織として受け継いでいることの証拠である。
出所:中村学園講演資料及びHP
出所:中村学園講演資料及びHP
学校法人中村学園 理事長