タナベコンサルティングの設備工事研究会は、「生産性と企業価値の向上に向けた社内改革に挑む」をテーマに掲げる業界研究のプラットフォームである。
価格競争の激化や後継者不足、働き方改革など、設備工事業界が直面するさまざまな課題に対し、先進事例を学ぶことにより知見を深めつつ、会員同士の議論を生かし、改善に向けた方向性と自社が打つべき施策について探求する。
第5回では、北海道美唄市を拠点に雪を活用したエネルギー事業を展開する雪屋媚山商店にご登壇いただいた。豪雪という地域特有の制約条件を前提に、「雪はコストではなく資源である」という視点に立ち、雪冷房を起点としたエネルギー利用の高度化と、データセンターや養殖事業への展開といった新たな産業創出の取り組みについて、代表取締役の本間弘達氏にご講演いただいた。特に、気候条件そのものを起点とした事業設計や、排熱まで含めたエネルギーの循環活用、さらにはそこから生まれる付加価値の連鎖は、従来の設備工事業の枠を超える実践事例である。
開催日時:2026年5月19日(札幌開催)
はじめに
雪屋媚山商店は、北海道美唄市を拠点に、雪を冷熱エネルギーとして活用する事業を展開する企業である。2012年に設立され、日本で唯一民間の雪冷房専門の設計・コンサルティング会社として、雪という地域資源を実装レベルで事業化してきた。
同社の根底にあるのは、「見方を変えれば味方になる」という発想である。冬には厄介者として扱われる雪も、夏に利用すれば価値を生む資源となる。この考え方をもとに、雪を貯蔵し、冷房や食品保存に活用する技術を確立してきた。
さらに特徴的なのは、この技術を起点に事業領域を広げている点である。2009年に提唱されたホワイトデータセンター構想では、雪による冷却とIT機器の排熱を組み合わせることで、農業や養殖といった分野への展開が進められている。近年では、排熱を活用した「雪うなぎ」の養殖など、新たな地域産業の創出にもつながっている。
同社は、単に設備を設計・施工する企業ではない。地域の気候条件そのものを価値として捉え、それを起点に新しい事業や産業をつくり出している点が大きな特徴である。気候とエネルギーを掛け合わせることで、従来の設備業の枠を超えたビジネスモデルを実装している点は、今後の業界の方向性を示唆している。
「雪うなぎプロジェクト」
出所:雪屋媚山商店講演資料
気候を「制約」から「資源」に変える視点
雪屋媚山商店の取り組みから得られる第1の学びは、「気候を経営資源として捉え直す視点」である。一般的に、雪や寒さといった気候条件はコストや制約として扱われる。しかし同社は、その前提をそのまま受け入れるのではなく「雪は本当にただのコストで終わってしまうのか」。この問いから、雪を冷熱エネルギーとして活用するという発想が生まれている。
この発想転換により、雪は単なる負担から、毎年安定的に供給される資源へと変化した。さらにその価値は、単なるコスト削減にとどまらず、環境負荷低減や新しいサービスの創出といった形で顧客価値へと転換されている。
重要なのは、この考え方が他地域にも応用可能であるという点である。暑さや寒さ、湿度、風など、従来はリスクとして扱われてきた気候要因も、見方を変えることで新たな価値の源泉となり得る。また、地域に根ざした企業ほど、このような資源に気付きやすく、自社ならではの強みに変えられる可能性が高い。
競争優位は、与えられた条件の中で最適化することではなく、「条件の意味を変える」ことから生まれる。

雪貯蔵庫外観(左) 、雪貯蔵庫内の様子(右)
設備工事業から「雪エネルギー活用省エネコンサルティング」への進化
第2の学びは、雪屋媚山商店が設備工事業の単なる施工から「雪エネルギーを活用した省エネルギー提案」へと役割を広げている点である。従来の設備工事業は、顧客から与えられた要件に基づき設備を設計・施工する、いわば下流工程で価値を発揮する役割を担っていた。
一方で同社は、雪エネルギーを活用した省エネ提案を行っている点に特徴がある。例えば、雪を冷熱エネルギーとして活用することで、空調にかかる電力消費を大きく抑えることができる。このような提案は、単に設備の仕様を最適化するのではなく、「エネルギーの使い方そのもの」を見直すことにつながっている。「雪エネルギーを使ってどれだけ省エネが可能か」を検討し、その上で最適な設備のあり方を導き出している点に価値がある。
このように同社は、設備工事という下流工程にとどまらず、省エネ提案を起点とした上流工程へと役割を広げることで付加価値を高めている。

雪冷房システム図
出所:雪屋媚山商店講演資料
技術を“つなぐ”ことで広がる「サーキュラーエコノミー型ビジネス」
3つ目の学びは、「1つの技術を起点に、価値を循環させることで新しい事業が生まれる」という点である。雪屋媚山商店の取り組みは、雪冷房という単一技術にとどまらず、その周辺で生じるエネルギーを活用し、複数のビジネスへと展開している。
代表的な例が、データセンターから発生する排熱の活用である。本来は廃棄される熱を農業や養殖に再利用し、「雪うなぎ」の養殖として事業化している。この取り組みは、雪冷熱による冷却と排熱による水温管理を組み合わせることで成立している。
ここで重要なのは、冷やす・温める・生産するといった一連の流れが、エネルギーとして循環している点である。単に設備を導入するのではなく、複数の用途をつなぐことで価値を最大化している。この構造は、まさにサーキュラーエコノミーの考え方に近い。
さらに、この循環は設備領域にとどまらず、加工・販売へと広がり、地域ブランド化にもつながっている。こうして、エネルギーと産業、地域経済が一体となって価値を生み出している。本事例は、「つくる」だけでなく、「つなげて循環させる」ことでビジネスモデルが広がることを示している。

雪を中心としたサーキュラーエコノミー
出所:雪屋媚山商店講演資料
株式会社雪屋媚山商店 代表取締役