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研究リポート
設備工事研究会
設備工事業界の経営課題を乗り越え、生産性の向上策と付加価値の確保に
成功している企業を研究し、社内改革に挑みます。
研究リポート 2026.06.08

事業基盤の強化に向けた変革ロードマップ 〜エンゲージメントが生み出す「安全・安心」と人財育成の進化〜 北ガスジープレックス

第5回の趣旨
タナベコンサルティングの設備工事研究会は、「生産性と企業価値の向上に向けた社内改革に挑む」をテーマに掲げる業界研究のプラットフォームである。
価格競争の激化や後継者不足、働き方改革など、設備工事業界が直面するさまざまな課題に対し、先進事例を学ぶことにより知見を深めつつ、会員同士の議論を生かし、改善に向けた方向性と自社が打つべき施策について探求する。
第5回では、北海道ガスの100%子会社として道内のガス工事・エネルギーソリューションを担う北ガスジープレックスにご登壇いただいた。2024年度に頻発した重大インシデントと若手社員の離職という2つの失敗を正面から開示しながら、その根底にある共通課題と、エンゲージメント向上を軸とした事業基盤再構築の取り組みについて、代表取締役社長の大関伸二氏と、事業基盤統括部・総務企画部を兼務する眞田善紀氏にご講演いただいた。

開催日時:2026年5月18日(札幌開催)



はじめに

北ガスジープレックスは1972年、北海道ガスの工事管理会社として設立され、2022年に創業50周年を迎えた。北海道ガスグループ唯一のエンジニアリング会社として、ガス導管工事・建物内工事・エネルギーソリューション(GHP・空調など)の事業を展開し、2025年度の売上高は70億円超と18年ぶりの最高水準を記録した。

 

同社は安定した業績の一方、長年、親会社の委託工事が売り上げの多くを占める構造に危機感があった。北海道ガスに長年勤務した大関氏は、2022年の就任以来、①利益率向上、②事業ドメイン拡大、③エンゲージメント向上、④事業基盤強化(安全安心、技術技能継承、協力会社の人材確保、協力会社の支援)の4本柱を推進してきた。

 

大関氏は、「半分以上を北海道ガス以外で稼げなければ本当の自立とは言えない。一本足で立つリスクを軽減するために50%を目指す」と語り、自立した「提案型エンジニアリング企業」への転換を志した。

 

ところが2024年、道路陥没・ガス供給支障・労働災害が相次ぎ、同時期に若手社員の離職も増加した。この苦い経験から辿り着いた仮説が、「安全確保も人材定着も、根底にあるのはエンゲージメントである」というものだ。

  出所:北ガスジープレックス講演資料

出所:北ガスジープレックス講演資料






一本足経営からの脱却と事業ドメインの再定義

同社は長年、北海道ガスの委託工事を担ってきた。大関氏は、この構造を「親会社の変化に連動するリスク」と捉え、就任と同時に方向性の見直しに着手した。

 

同社が掲げる目標は明確である。付加価値の高いソリューション提案で価格競争から脱却し、2030年までに外販比率(北海道ガス以外からの売り上げ)を現状の約30%から50%へ引き上げる。具体的には、GHP(ガスヒートポンプ)のリプレイスやコ・ジェネレーション設備の提案、キュービクル小型化を組み合わせた省エネ提案、都市土木・熱導管工事への参入など、事業ドメインを段階的に拡張している。

 

この方向性を後押ししたのが、2018年の胆振東部地震によるブラックアウトである。停電時でも自立給電できるGHPへの引き合いが急増し、電力消費量の削減と高圧受変電設備の小型化・集約までをセットで提案する「ワンストップの省エネソリューション」が顧客から評価されている。

 

「工事を受ける会社」から「顧客課題を解くエンジニアリング会社」への転換。この変革は、親会社依存からの脱却と自律的な顧客創造力の構築が不可欠である。

 

社屋見学の様子。オフィスのリフォームやフリーアドレス導入など、職場環境改善にも取り組む(左)、オフィスの様子。モニターで現場の状況をリアルタイムで確認が可能(右)

社屋見学の様子。オフィスのリフォームやフリーアドレス導入など、職場環境改善にも取り組む(左)、オフィスの様子。モニターで現場の状況をリアルタイムで確認が可能(右)



失敗を直視する組織文化と、「事後対策」から「予防保全」への転換

2024年度、同社は道路陥没・ガス供給支障・労働災害という複数の重大インシデントを経験した。取締役の眞田氏は、「2022年度に労災ゼロを達成したことで、実力と勘違いしてしまった」と率直に述べる。ゼロ達成後に安全活動のアップデートが止まり、他部門の事故事例を他人事として捉える風土が温存されたことが、翌年の事故頻発につながったと分析している。

 

特に象徴的だったのが、同じ部門で発生した2件のバルブ操作ミスによるガス供給支障だ。1件目への対策として横断組織の立ち上げやチェックシート整備を行ったにもかかわらず、2件目が同じ構造で発生した。ベテラン同士の過信、簡単な作業ゆえの重要性の軽視、水平展開の甘さが重なった結果だという。

 

この経験から同社が導いた結論は、「事後対策から予防保全」への転換である。全社員へのガス基礎知識研修、保安対策会議の設置、過去の事故カレンダー共有、現場パトロール、協力会社を交えた安全ワークショップなど、組織としての予防体制を構築している。安全品質を「個人の注意」ではなく、「組織の設計」で担保するという視点は、設備工事業全体に通じる本質的な学びである。

 

北ガスジープレックス株式会社 取締役 眞田 善紀氏

北ガスジープレックス株式会社 取締役 眞田 善紀氏



採用成功・定着失敗から見えた「育成の個人依存」と、エンゲージメント向上への転換

同社はダイレクトリクルーティングの導入、採用ホームページの整備、処遇の充実などに取り組み、2021~2025年の5年間で新卒・キャリア合わせて54名を採用した。しかし、同期間の自己都合退職は29名にのぼり、うち30歳代以下が20名を占める結果となり、眞田氏は「採用には成功したが定着には失敗した」と説明した。実態把握のため、20〜30歳代前半の在籍社員8名にインタビューを実施したところ、「評価基準が見えない」「フィードバックが不足している」「処遇改善を自分事として理解できていない」などの声が挙がった。育成が現場の個人に委ねられ、組織として機能していなかったことが根本原因であると分析した。

 

さらに、この構造は前述の重大インシデントと「現場任せ・個人依存」という共通点があるとして、同社は、安全・人材育成の両領域における問題の本質は「エンゲージメント」ではないかという仮説を立てた。

 

大関氏はエンゲージメントを、①経済的なつながり(処遇)、②働きやすさ、③会社との絆、④仕事との絆、⑤仲間との絆、⑥上司との絆と定義し、「この6つをバランスよく高めなければ、どれか1つが崩れた時に全体が揺らぐ」と語る。そこで、AI適性検査の活用、バディ・メンター・1on1による伴走体制、社内留学制度など、育成を組織の仕組みとして設計し直し、今後はNPS(ネットプロモータースコア)を活用し、内定者から入社後の時系列でエンゲージメントを可視化・管理する構想も描く。

 

安全も人材育成も、同社は変革の途上にある。さまざまな取り組みを経て、2025年度に事故件数が過去最少を記録したが、眞田氏は「これもたまたまかもしれない」と話す。失敗から真摯に学びを得て、安全の品質を揺るぎないものにしようとする同社の姿勢と覚悟、制度や施策以前に、組織が問題を「自分事」として引き受ける文化こそが変革の土台であることを示している。

 

出所:北ガスジープレックス講演資料

出所:北ガスジープレックス講演資料

PROFILE
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大関 伸二氏

北ガスジープレックス株式会社 代表取締役社長