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研究リポート
設備工事研究会
設備工事業界の経営課題を乗り越え、生産性の向上策と付加価値の確保に
成功している企業を研究し、社内改革に挑みます。
研究リポート 2026.04.13

平野電業に学ぶ「採用母集団の創出」という選択 ~クライマー採用と職業教育で「競合しない市場」をつくる~ 平野電業

第4回の趣旨
タナベコンサルティングの設備工事研究会は、「生産性と企業価値の向上に向けた社内改革に挑む」をテーマに掲げる業界研究のプラットフォームである。
価格競争の激化や後継者不足、働き方改革など、設備工事業界が直面するさまざまな課題に対し、先進事例を学ぶことにより知見を深めつつ、会員同士の議論も生かし、改善に向けた方向性と自社が打つべき施策について検討を行う。
第4回は、ユニークな採用・育成の仕組みにより、人材難という業界課題に正面から挑み続けてきた企業を紹介。平野電業が取り組む人財戦略の全体像について、代表取締役の平野誉士氏と、人事部クライマー採用担当の谷光英氏にご講演いただいた。

開催日時:2026年3月13日(富山開催)


平野電業株式会社
代表取締役 平野 誉士氏(左)
人事部 クライマー採用担当 谷 光英氏(右)


はじめに

平野電業は、送電線・鉄塔工事を中核とし、発電所から地域へ電気を届ける電力インフラの要を担う企業である。1965年の創業以来、「大空に呼吸する」送電線工事を原点に、高度な技術力と厳格な安全管理が求められる架空送電線路建設工事を担ってきた。

 

電力供給が滞れば、生活や産業、医療といった社会機能に重大な影響を及ぼす。それゆえ、同社の事業は社会や人命をかげながら支える生活インフラの中核に位置付けられている。

 

地震や地滑りなどの災害時には、休日・夜間を問わず、安全を最優先としながら早期復旧に努めてきた。その象徴的な実績が、北陸電力の500kV(50万ボルト)能登幹線における大規模な災害復旧工事である。複数の鉄塔が損傷・崩壊したこの災害において、同社は広範囲にわたる電線撤去および鉄塔建設・復旧工事を安全第一で完遂し、北陸電力より感謝状を受領している。

 

こうした復旧対応を可能にするのは、仮設工事から基礎、組み立て、架線までを一貫して担う施工体制と、現場条件に応じて柔軟に対応する総合力という同社ならではの強みだ。

 

同社は、送電線工事という高い専門性を通じて、社会的使命への自覚と誇り、社員のやりがい、そして技術力の継承を重視し、地域社会に貢献し続けるインフラ企業として歩みを進めている。

  社是「流水成道」

出所:平野電業講演資料







「採用母集団創出戦略」

富山県は若年層の地元就職率が比較的高い一方で、建設業へ人材が流入しにくいという構造的課題がある。「働く場所」として地元は選ばれても、「職業」として建設業が選ばれにくいのが現実だ。

 

このマクロ環境を前提とすれば、従来と同じ採用活動を続けても成果は出ない。そこで同社が行ったのが、「採用母集団拡張戦略」である。

 

ポイントの1つ目は、鉄塔工事を単なる電気工事として捉えるのではなく、「電気×高所作業」という特性で再定義した点だ。多くの電気工事会社が電気業務の経験者を奪い合う中、同社は高所作業への適性や身体能力に目を向け、クライマー人材を積極的に受け入れてきた。電気の知識は入社後の育成で補完できるが、高所への適性は後天的に獲得しにくいという合理的判断に基づくものだ。結果として、過去5年間で20名のクライマー採用を実現し、新たな採用層の開拓に成功している。

 

2つ目は、採用ターゲットを大学生に偏らせず、高校生、さらには小学生にまで広げた職業教育に取り組んでいる点である。これは、短期的な人員確保を目的としたものではない。仕事の社会的意義や魅力を早期から伝えることで、「将来的な志望者の母集団そのものを育む」ための長期的な取り組みである。

 

戦略の結実:新たな仲間と施工能力の確保

出所:平野電業講演資料



物理的安全を守るために、心理的安全性を築く

電力インフラを扱う同社にとって、安全はあらゆる価値に優先される。同社が重視しているのは、「物理的な設備対策やルールの整備だけでは、真の安全は守れない」という認識だ。

 

命を守る現場では、「危ない」「無理がある」「違和感がある」といった兆候をどれだけ早く共有できるかが結果を大きく左右する。そのため同社は、心理的安全性の確保こそが、物理的安全を成立させるための前提条件だと捉えている。

 

年齢や役職に関係なく声を掛け合い、意見しやすい風通しの良い環境を意図的に整えることで、仲間の「無理」をチームとして止められる状態を目指している。安全を個人の注意力や経験に委ねるのではなく、チームワークとして組織化する発想である。

 

また、建設業に色濃く残る「見て盗め」「背中で覚えろ」といった文化を見直し、対話と調和を重視する組織へと変革することが、結果として事故の未然防止や安全水準の底上げにつながっている。同社において心理的安全性は、単なる職場環境の理想論ではなく、安全管理の現実的な手段として明確に位置付けられているのだ。



採用して終わらない、確実な「定着策」の仕組み化

送電線・鉄塔工事は高所作業を伴い、常に危険と隣り合わせの仕事である。そのため同社では、先述した心理的安全性に加え、社員一人一人と深く向き合う仕組みを重視している。

 

上下関係にとらわれない個別のキャリア面談や1on1ミーティングを通じて、仕事への不安や将来像、競技との両立などを率直に話せる機会を確保。1人で課題を抱え込まない設計としている。

 

また、クライマー人材の定着を支える特徴的な取り組みとして、福利厚生の一環としたボルダリング施設の整備が挙げられる。同社は、社員の「クライマーとしてのアイデンティティー」を切り離すのではなく尊重し、競技活動を継続できる環境を会社として用意している。また、大会参加への支援や、競技と業務の両立へ配慮することで、「仕事か競技か」の二択を迫らない姿勢を明確にしている。これにより、高所作業に適性を持つ人材が、自分らしさを保ったまま働き続けられる環境を整えている。

 

さらに、送電線工事が社会に果たす役割を日常的に共有することで、仕事の厳しさを受け止める納得感が醸成され、結果として確固たる定着を支えている。

 

ボルダリングジム「レトラス」の外観・内観

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