タナベコンサルティングの設備工事研究会は、「生産性と企業価値の向上に向けた社内改革に挑む」をテーマに掲げる業界研究のプラットフォームである。
価格競争の激化や後継者不足、働き方改革など、設備工事業界が直面するさまざまな課題に対し、先進事例を学ぶことにより知見を深めつつ、会員同士の議論も生かし、改善に向けた方向性と自社が打つべき施策について検討を行う。
第3回は、DXやM&Aを通じて新たなビジネスへの活路を切り開いてきた企業を紹介。日新電機が取り組むDX推進の全体像について、執行役員情報システム部長の高橋浩史氏にご講演いただいた。
開催日時:2026年1月22日(京都開催)
はじめに
日新電機は、1917年の創立以来、日本の電力インフラを支える重電機器メーカーとして、受変電設備・調相設備・監視制御システムなどの領域で独自の技術を磨き続けてきた。
同社が掲げる企業理念は、「日新電機グループは、社会と産業の基盤を支える企業活動を通じて、環境と調和し活力ある社会の実現に貢献します。」であり、この理念が事業活動の軸となっている。個別仕様を前提とした受注生産を強みに、20〜30年に及ぶ長寿命設備を通じて、産業・公共の両面で日本の電力基盤を支える存在であり続けている。
近年、急増するセット販売の増加や熟練人材の減少といった構造課題に対し、同社は営業・技術・設計・計画・製造・保守の全工程を再設計する三位一体のDX改革に踏み出している。特に、人材こそ変革の中核と捉え、データ分析・AI活用・業務改善を実践的に学ぶ「DXカレッジ」をはじめとする独自の育成体系を整備し、現場に根ざしたDX人材の育成に力を注いでいる。
技術×人材×仕組みの三要素を同時に進化させる姿勢は、次世代の電力・エネルギー社会を見据えて企業を再構築しようとする同社の意志を示している。
日新電機本社外観
業務革新:商談から保守までのシームレス連携・一元管理
日新電機の業務革新における最大の強みは、営業・技術・設計・計画・製造・保守という全工程をつなぐ「情報のシームレス連携」を徹底し、上流から下流までを一つの連続したプロセスとして再設計した点にある。
同社は、営業活動と設計・生産が分断され、仕様確定の遅れや操業計画の読み違いによって全体効率が損なわれる従来の構造を、根本から断ち切った。
具体的には、営業が「ナビゲーションシステム」を用いて初動提案を即時に生成。そのデータが技術・計画・調達へと前倒しで連携されることで、長納期部材のフォーキャストや操業枠の確保が早期化された。さらに、操業状況や部門負荷を可視化したことで、従来は属人的な対応に依存していた「業務の詰まり」の発生源が明確になり、継続的な改善によりスループットの拡大を実現しつつある。
結果として、単に個々の部門の働き方を変えるのではなく、企業全体としての“捌く力”そのものを構造的に引き上げた着眼点が、今回の革新の最大の特徴である。
日新アカデミー研修センター
生産革新:可視化による部分最適から全体最適への跳躍
同社の生産革新の本質は、単発の効率化施策ではなく、設計・製造・検査を一気通貫する「生産システムそのもののアップデート」にある。
導入されたモーションキャプチャによる動線分析、3Dデータを活用した溶接箇所のハイライト表示、AIによる類似図面検索などの技術は、従来は職人の経験値に依存していた工程を可視化し、標準化・再現可能な形式へと変換するプロセスである。
可視化された情報は、単なる分析材料にとどまらない。組立ナビゲーションや進捗・稼働監視といったシステムに組み込まれることで、生産計画・現場運用・品質管理の「三位一体運営」を実現している。
こうしたアプローチにより、熟練者の判断に依存していたナレッジが組織全体のナレッジへと転換され、新人戦力化のスピードも向上した。部分最適だけでは実現できない「工場全体としての最適解」が機能し始めているのだ。
講演風景
事業革新: DXで顧客密着型ビジネスを進化
日新電機が進める「LCEモデル※」は、同社が長年培ってきた顧客密着型のビジネスを、DXによって大きく進化させた取り組みである。これは、従来の「製品を納めて終わり」という発想を超えるものだ。
(※LCE:Life Cycle Engineering)
IoT基盤で設備の稼働状況を可視化し、劣化診断や予兆検知といった高度な分析機能を組み合わせる。これにより、保守サービスは価格競争に巻き込まれる単なる作業から、顧客の操業リスク低減、ダウンタイム最小化、エネルギー効率向上という「成果価値」を生み出す業務へと昇華できる。
また、ポータルサイトを通じて稼働データ・診断結果・交換推奨時期を一元的に提供することで、顧客側の意思決定の質も向上する。
製品寿命が20〜30年と長い重電機器領域において、「継続利用を前提とした収益モデル」を確立しつつある。同社は、メーカーでありながら顧客の設備運用の最適化まで責任を負うライフサイクル企業へと進化している。
日新電機の「中長期計画」で掲げる5つの事業基盤強化
出所:日新電機ホームページ
日新電機株式会社 執行役員 情報システム部長