タナベコンサルティングの設備工事研究会は、「生産性と企業価値の向上に向けた社内改革に挑む」をテーマに掲げる業界研究のプラットフォームである。
価格競争の激化や後継者不足、働き方改革など、設備工事業界が直面するさまざまな課題に対し、先進事例を学ぶことにより知見を深めつつ、会員同士の議論も生かし、改善に向けた方向性と自社が打つべき施策について検討を行う。
第3回は、DXやM&Aを通じて新たなビジネスへの活路を切り開いてきた企業を紹介。清弘エンジニアリングの成長の軌跡について、2代目社長である井畑忠氏に、自身の経歴と数々の事業展開・経営判断を基にご講演いただいた。
開催日時:2026年1月23日(京都開催)
はじめに
清弘エンジニアリングは、1968年の創業以来、「省エネ・環境負荷軽減への取り組みを重視し、水・熱・空気を操る高度な技術力をもって、より良い地球環境を次代に残すこと」を目指し、確かな技術力と地域に根ざした姿勢で主に工場設備領域における安全と発展を支えてきた。
現在では、全国に事業所を展開。グループ全体の売上高は、直近5年間で約60億円から150億円以上と急激な成長を遂げている。
事業の中核は、電機・食品・化学メーカーなど大手企業との直接取引だ。工場の空調・配管・ダクト・電気設備の設計から施工、メンテナンスまでをワンストップで提供。省エネや環境負荷軽減への取り組みを重視し、技術力で日本の製造業の生産環境を力強く支えている。
事業性を鑑みた戦略的投資
井畑氏は就任直後、飲食事業や海外への営業所展開など、先代との差別化を意識した戦略を試行した。しかし、そこから約10年後、井畑氏自身が「第2フェーズ」と位置付ける時期においては、3~5年の準備期間を経て、太陽光発電、人材派遣会社の設立、そしてM&Aを軸とした事業拡大へ本格的に参入した。
情報収集、人脈形成、データ検証を重ねた上での投資判断は、着実な成果を生んだ。太陽光事業では10億円以上の投資を約10年で回収し、以降は年間を通じた安定収益を確保。人材派遣会社も4年目から軌道に乗り、年商10億円を超える優良事業へと成長している。
経営者の「やりたいこと」だけではなく、「会社存続のために必要なこと」を見極めた戦略的投資が、持続的成長の基盤となった。
出所:清弘エンジニアリング講演資料
本業に対するこだわりと周辺事業のシナジー設計
「工場特化型」、かつ、「元請提案型」への転換。これは、井畑氏が社長就任以来、一貫して抱き続けてきたこだわりの一つだ。「1000万円の下請け案件より、100万円の元請け案件を」――。この信念を軸に形成された本業の強みを生かし、関連する周辺事業を展開することで、大きな相乗効果(シナジー)を生み出している。
特に、前述の人材派遣会社は、当初グループ専属の人事部門として立ち上げられた。まず、自社の人材確保という課題を解決し、そのノウハウとリソースを生かして外部への人材派遣を行うことで収益化に成功している。また、太陽光事業においても、パネルメーカーとの関係性を生かし、設置・メンテナンス事業へと展開した。
こうして、粗利30%以上・経常利益率10%以上という高収益モデルを維持しながら、本業の課題(人材不足、収益の安定化)を解決する事業ポートフォリオを確立し、グループ全体の競争力を高めている。
出所:講演の様子
事業拡大としてのM&AとPMI成功の要諦
人材と経営資源の確保を果たした後の「第3フェーズ」では、M&Aによる地域拡大を積極的に推進した。しかし、M&Aは成立してからが真のスタートである。
特に、セイコーグループの「イズム」を醸成する上では、買収先の旧経営陣といかに統合を図れるかが重要なポイントとなる。これまで、主に設備工事会社を対象に10社以上のM&Aを手掛けてきたが、「1つとして同じ枠組みで進められる案件はなかった」と井畑氏は語る。PMI(経営統合プロセス)をいかに個社ごとに最適化して進めていくかが、M&A成功の要諦である。
研究会の質疑応答では、苦い経験についても語られた。変革に抵抗する旧役員に対し、時には強い言葉で対応を迫る厳しい決断もあったという。一方で、制度や文化を急激に変えると、現場のハレーションや、社員の離職を招くリスクもある。この「変革の緩急」をどう調整・判断するかが、M&Aにおいて極めて重要である。
出所:清弘エンジニアリング講演資料
株式会社清弘エンジニアリング 代表取締役