タナベコンサルティングの設備工事研究会は、「生産性と企業価値の向上に向けた社内改革に挑む」をテーマに掲げる業界研究のプラットフォームである。
価格競争の激化や後継者不足、働き方改革など、設備工事業界が直面するさまざまな課題に対し、先進事例を学ぶことにより知見を深めつつ、会員同士の議論を生かし、改善に向けた方向性と自社が打つべき施策について探求する。
第1回は、急速に変化する外部環境において持続的な成長を実現すべく、パーパス・企業理念を基軸とした「ヒト・組織の戦略的変革」を行っている企業を紹介。パーパス・企業理念の現場浸透施策や、外部・内部環境に則した先進的な人材育成に関する取り組み事例について、三宝電機の代表取締役社長である嘉納秀憲氏にご講演いただいた。
開催日時:2025年9月26日(大阪開催)
はじめに
三宝電機は、大阪市北区に本社を構える総合設備エンジニアリング企業である。1948年に創立し、工場やビル、クリーンルームなどの電気、空調、給排水、衛生設備に関する企画・設計・施工・メンテナンスを幅広く手掛けている。
また、製造業や医療業界をはじめとする多様な分野でインフラ整備を支え、特に工場設備における豊富な経験と技術を生かした合理化や省エネ提案で高い信頼を得ている。
さらに、製造拠点への常駐型サービスを提供することにより、現場における効率化や新たな価値創造に貢献。全国的なロイヤルカスタマーや協力会社とのネットワークを活用した幅広いサービスも展開する。
展開エリアは国内のみならず、海外ではインドネシアやマレーシアに拠点を構えており、今後は海外におけるさらなるエリア拡大も視野に成長を遂げている。
企業理念に根差した「企業使命」の策定~「社員が誇りを持てる会社」への変革~
嘉納氏が2022年に社長に就任した当時、建設業界の景気悪化などの外部環境の急激な変化により、業績が伸び悩む状況にあった。さらに、中堅社員の大量離職や部門間の対立といった内部課題も重なり、嘉納氏は抜本的な構造改革の必要性を痛感した。
その際、企業理念に立ち戻ることが不可欠であると考え、まず行ったのが役員研修である。「企業理念の実践の重要性」を再認識し、役員陣との方向性を統一した。そして、企業理念の中でも「社員を大切にすること」を重要項目として捉え、「『社員が誇りを持てる会社』への変革」を「企業使命」として策定し、持続的な成長に向けた改革へとかじを切った。
また、企業使命を形骸化させないために、マンダラチャートを用いて重要な項目を明確化。企業使命を中心に、それを具体化した8つのCSF(重要成功要因)とアクションプランを軸に、段階的かつ継続的に変革を遂げている。
三宝電機の企業理念・企業使命と、それに基づき作成されたマンダラチャート。マンダラチャートの中心部分は企業使命である「社員が誇りを持てる会社」を定め、CSFとアクションプランを具体化している
出所:三宝電機
新生工務部の発足や教育体系の再構築をはじめとした組織・人材戦略の推進
同社が企業使命の実現に向け、特に注力したのが働き方改革(工務部の再構築)と、それに伴う教育施策の強化である。
工務部を設立した当初の目的は、ミドルオフィス機能としての工事部門の包括的な支援とそれによる生産性改革であった。だが、実態は現場の雑用程度にとどまっており、所属する社員としても、会社としても将来性がないと判断し、立て直しを決意。新生工務部の発足に向け、工務部のミッションと役割を再定義し、改革を進めた。
将来的に目指す姿として、「工事は現場管理業務に集中し、雑多な業務などは移管できる業務最適化 」を掲げ、その実現に向けた積極的な人材育成支援(教育体系の再構築や工務部と工事部のローテーション実施など)により、現場支援機能の強化を図っている。
本社内には「技術開発センター」を設立。クリーンルーム・ドライルームを設置し、それらの関連機器開発、環境・設備診断、環境シミュレーションなどの研究・開発を実施。また、教育用キュービクルを設置し、社員、協力会社に教育訓練を提供している
出所:三宝電機
「誠実で明るい企業文化」の形成と採用強化に向けたブランディングの推進
「社員が誇りを持てる会社」の実現に向け、心理的安全性の向上や良好な社内風土の醸成などの改革も進めている。自社のコア・コンピタンス(強み)として、「誠実で明るい企業文化」を形成すべく、相互の尊重と理解促進、失敗を許容する環境整備が必要であると考え、社内報や社内SNSを積極的に活用。
特に、社内報『全力TALK w/U』においては、社員自ら主体的に発信を行い、全国各拠点を対象に、かつ多様性に富むメンバー個人に注目した構成で、相互理解や自身の存在価値を実感できるコンテンツを整備している。これらのインナーブランディング活動の推進により、社員エンゲージメント向上に寄与している。
また、女性活躍推進をはじめとした社内活動や、多様性に富んだ社員により培われる企業文化を特長として、外部メディアを活用し、積極的に発信することでアウターブランディングも強化。企業知名度の向上を通じた人材採用の強化にもつなげている。
「誠実で明るい企業文化」を形成するための主な取り組みとして、社内報『全力TALK w/U』を創刊。全国各拠点のさまざまなメンバーが取り上げられ、高い関心を呼んでいる
出所:三宝電機
三宝電機株式会社 代表取締役社長