建設業界・設備工事業界では、担い手の不足や賃金上昇、後継者難が深刻化している。自社単独で採用・教育・業務管理の基盤を整え、事業を維持・成長させることが難しくなる中、「規模と範囲の経済をどう生み出すか」が大きな課題だ。
今回、2研究会合同で、技術サービス領域でグループ経営を進めるマイスターエンジニアリングを訪問。第1部では、同社代表取締役社長の平野大介氏から、複数の企業がそれぞれの強みを保ちながら成長する「技術サービス連邦」と、M&Aを通じた事業承継の考え方について伺った。第2部では、同社人財開発部長兼広報室室長の秋元章吾氏から、未経験者を技術者へ育てる研修制度をはじめ、人財育成を継続させる仕組みについて学んだ。
企業の連携と人財育成を両輪に、個社の「なりわい」を業界の「産業」へと高める取り組みについて考察していきたい。
開催日時:2026年9月28日(関東開催)

マイスターエンジニアリングのME技術センター(千葉県佐倉市)
はじめに
マイスターエンジニアリングは、1974年に創業した技術サービス企業である。大阪のホテルプラザの施設管理を起点に、建物設備の管理から産業機械のメンテナンス、技術者の派遣へと事業領域を広げてきた。現在は、電気・防災・土木・プラントなど、インフラを支える幅広い技術サービスを展開している。
2021年以降、16社がグループインするなどM&Aを加速させており、2026年3月期時点で、グループ23社、連結従業員数3176名、連結売上高約415億円に達している。M&Aは事業拡大が目的ではなく、個社の自立性を尊重しながら、グループの力で採用・人財育成を軸に成長を支える「技術サービス連邦」の構築を目指しており、この構想のもと、企業価値の向上を続けている。
売上高・従業員数推移
出所:マイスターエンジニアリング会社案内
「統合」ではなく「連邦」で個社の力を束ねる
同社が目指す「技術サービス連邦」とは、各社が独自の屋号や現場の運営方法を維持しながら、採用・教育・経理・総務・財務などの共通機能についてはグループで強化・共通化するというものである。平野氏はこれを、「州ごとの自治を尊重しつつ、国全体で横断的な機能を持つ米国」に重ねる。
M&Aにおいては、買収後すぐに制度や文化を画一化する「統合」を目指すのではなく、まずは相手企業を理解し、人と組織の信頼を築くことを重視する。「譲渡企業の経営者には『会社こそわが人生、社員こそ宝』という思いがある。我々はそれを尊重し、株式、すなわち『DNA』をお預かりするのだ」と平野氏は語る。
個人商店が集まるだけでは、流通網や設備を持つスーパーマーケットの効率性には対抗しにくい。平野氏が語る「なりわいから産業へ」とは、細分化された技術サービスの業界において、個社の技術や地域に根差した強みを損なわずに、グループの資本や共通基盤を生かして、業界全体の持続性を高める構想である。

マイスターエンジニアリング 代表取締役社長 平野 大介氏
暗黙知を言語化し、未経験者が学べる道筋をつくる
秋元氏は、技術者の育成において「背中を見て覚える」やり方だけに頼ることの限界を指摘する。未経験者を採用するのであれば、何を、どの順番で学ぶのかを具体的に示し、教える側にとっても育成に取り組みやすい環境を整える必要がある。
同社では、配属前に約2カ月の研修を実施する。単独の会社では実機や研修スペースを用意できなくとも、今回訪問したME技術センターのように、グループの研修施設を共同で活用すれば、育成のスピードアップにより体系的な教育を提供できる。
配属後は、現場で学ぶ「Field」と座学で学ぶ「Forum」を組み合わせた「F&F」による育成を行う。重要なのは、現場での経験を本人任せにせず、成長の目標や振り返りと結び付けることだ。本人の学びと育成者のコメントの繰り返しにより、OJT(オンザジョブトレーニング)を継続的な学習のサイクルにする。暗黙知を一律に教え込むのではなく、学ぶ側が次に何を身に付ければ良いか分かる地図を用意することで、育成を「仕組み化」できるのだ。

マイスターエンジニアリング 人財開発部長 兼 広報室室長 秋元 章吾氏
育成を経営マターにし、継続できる仕組みにする
この「仕組み」は、設計するだけでは機能しない。秋元氏は、「育成の状況を経営会議などでモニタリングすることが重要」と解説する。これを支えるのがITの活用である。育成の状況を可視化し、事業や組織ごとの進捗を確認できれば、停滞している部分への支援や改善につなげやすくなる。また同社は、日報やフィードバックをスマホから入力できるようにするなど、現場の働き方に合わせて負担を減らす工夫も進めている。
グループ企業が増えるほど、共通の基盤を生かして人を育てる意義が大きくなる。採用、教育、育成状況の把握をグループで支えることができれば、各社の成長を後押しするだけでなく、グループ内での協創による新たな価値発揮や、技術者の活躍につなげられる。
今回の訪問で見えたのは、「人を採用し、育て、活躍し続けてもらう仕組み」を経営の中核に据えるという視点である。企業の自立性を生かす連邦経営と、育成を継続する仕組み。その両輪こそ、業界の持続的な成長に向けた道筋になる。

ME技術センターにおける研修施設。受変電設備の点検の基礎を学び、試験機で訓練し、実機での作業に臨む