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研究リポート
建設ソリューション成長戦略研究会
人件費・資材の高騰、地方の衰退など、外部環境の変化に合わせて提供価値を進化させている企業を研究し、建設業界の発展に寄与する機会を作っています。
研究リポート 2026.09.11

ひとづくり・まちづくり
地域密着のブランド企業へ
カネタ建設

はじめに

株式会社カネタ建設は、1933年(昭和8年)に創業した、新潟県糸魚川市における業界屈指の老舗企業である。祖業は製材業であり、木と関わってきた歴史は93年に及ぶ。

 

同社の永続的な成長・発展の要因は、事業の多角化にある。建築工事、不動産、訪問介護、居宅介護、福祉用具、介護タクシー、家政婦紹介業、運動型デイサービス、フィットネスジムなどを展開し、年商14億円、従業員数70名(役員除く)の企業規模となっている。

 

また、売上の約50%はストック型受注に近い構成となっており、安定した事業基盤を築いている。組織・人材面では、従業員構成比が男性57%、女性43%となっており、女性が活躍できる場を多く設けている点も特徴である。

 

事業展開においては、経営理念と「Our Mission」を軸とし、住宅品質基準として地域トップクラスの省エネ基準を早くから採用してきた。その結果、高性能住宅の施工実績は106棟(2014年~2026年3月)にのぼり、新築住宅市場が低迷する地元においても成長を続けている。

 

今回は、同社が「ひとづくり・まちづくり」を通じて、地域密着型のブランド企業を築き上げたポイントを3点に整理して紹介する。






官民連携組織(3M)の取り組み

森林資源を生かしたまちづくりと産業育成を目指すMidori Mirai Meeting(通称3M)は、森林資源に関する川上(林業)から川下(設計・建設)、さらには自治体(糸魚川市や新潟県)に至るまで、現在17社4団体が参加している「官民連携組織」である。

 

特に商品開発の面では、地域資源の価値を生かした独自性ある展開が進められている。

 

例えば、重ね梁・合わせ梁の研究では、無垢材の美しさや心地よさを生かしながら、構造計算や耐震設計、高性能仕様によって強度を確保するという考え方を形にしている。

 

また、これまで業界で敬遠されがちだった「黒芯」も、「不揃い」ではなく自然が生み出すコントラストとして捉え、デザインに活用している。

 

さらに、糸魚川杉を使った高断熱ドアは、YKK APと3Mの連携によって商品化されたもので、YKK APにとって初の地域連携商品でもある。

 

森林資源を生かしたまちづくりと産業育成

森林資源を生かしたまちづくりと産業育成



森林資源を生かしたまちづくりと産業育成(教育・レジャー開発)

「森の教室」は、森を楽しく体験しながら、糸魚川の森林資源の価値と地域循環の考え方を親子に伝える企画である。

 

企画のポイントは、親子向けの体験型学習(座学ではなく実際に森に入って学ぶ)/「森を身近に感じる」導入設計(四輪バギーで森林に入るなどワクワク体験ができる)/学びと遊びのバランス(学習・作業・遊び・食体験の組み合わせ)/森林保全の必要性を考える(森林の役割と維持管理の大切さを伝える)/地域材の活用・地材地建にの入口なっている(地元の木を使う価値や地域の家づくりへの理解)/地域経済循環の啓発にもなっている(地域の中で経済を回すという考えを子どもや親世代に伝える)ことである。

 

一見すると住宅会社による親子向けイベントだが、実際には地域教育の役割を担い、地域資源のブランディングにもつながっている。森への理解から木の価値、さらに地域材活用の理解へとつなげていく点が、この企画の特徴である。

 

商品開発・ブランディング 教育・レジャー開発

商品開発・ブランディング / 教育・レジャー開発



新潟県内初となる市独自の住宅認定基準
「ISSH(糸魚川サステナブルスタンダードハウス)」の創設

カネタ建設は、糸魚川杉を「特別な木材」として遠い存在にするのではなく、市民が見て、触れて、学び、日々の暮らしに結びつけられる身近な存在として伝えてきた。

 

完成見学会では、糸魚川杉の床や外壁、木の質感を実際に体感できるようにし、家そのものを“体験メディア”として活用している点が特徴である。

 

こうした普及活動の背景にあるのが、3Mの提唱を受けて糸魚川市が制度化したISSH(イッシュ)住宅である。ISSH住宅は、「地材地建(地域内経済循環)」と「高性能化(省エネ・健康)」を両立する家づくりの基準として整備され、認定住宅向けの独自補助金も創設された。

 

市外メーカーに流出していた需要を地元工務店へ取り戻すことを目的に進められ、住宅着工数が減少する中でも、3年で市内シェア20%を獲得するまでに成長している。

 

さらにカネタ建設は、糸魚川産材の価値を、地域の気候風土に合った住まいづくりや住まいへの愛着、つくり手の顔が見える安心感とともに、断熱・気密・耐震といった住宅性能を交えてわかりやすく伝えている。

 

また、「地元の木を、地元の人が伐採し、製材し、建てる」というストーリーを前面に打ち出し、「森の教室」などの親子向け体験イベントを通じて、森林、製材、建築、暮らしまでのつながりを伝えることで、糸魚川杉の利用が地域経済の循環につながることを実感できる広報を展開している。

 

ISSH 認定基準

ISSH 認定基準

 

糸魚川杉を使ったモデルハウス

糸魚川杉を使ったモデルハウス



ファン感謝祭「オレンジフェア」の取り組み

当社が地域密着ブランド企業へと成長した最も重要な取り組みが、ファン感謝祭「オレンジフエア」である。「オレンジフェア」は、22年間にわたり全社員参加の手づくりで継続しており、現在では人口の1割にあたる3,000人超が集まる地域の一大イベントとなっている。

 

この取り組みは単なるイベントでなく、若手社員がリーダーを務める「人財育成」の場であり、子どもたちに建設業の魅力を伝える場、そして都会へ離れた人と地域をつなぐ「同窓会」の場としての役割を担っている。

 

①若手社員の「リーダーシップ」と「チームワーク」の醸成
オレンジフェアは、イベント会社に一切頼らず、建設資材などを活用して企画から設営まで完全自前主義の手づくりで行っている。毎回、入社2~3年目の若手社員がリーダーを務め、企画・運営の全てをまとめ上げる。

 

当日は全社員で運営を行うが、この時、上司や先輩社員は「部下」に徹する。若手社員が全社員を動かす経験を積むことで、実践的なリーダーシップとチームワークが育まれる舞台となっている。

 

ファン感謝祭「オレンジフェア」の取り組み

ファン感謝祭「オレンジフェア」の取り組み

  オレンジフェア2024 オレンジフェア2025 オレンジフェア2026

オレンジフェア2024 / オレンジフェア2025 / オレンジフェア2026

 

②社員の「仕事への誇り」と「使命感」の醸成
このイベントは、社員が自ら楽しみながら創意工夫を凝らし、「私たち(働く大人の姿)を見てください」とアピールする場でもある。

 

子どもた ちに向けて、建設業で働く大人たちの姿を見せることで、社員自身の仕事に対する誇りや、地域に貢献してしているという使命感を育むことにつながっている。

 

③将来の人財確保「鮭の川登り(地元就職へ)」
オレンジフェアは、子どもたちに「このまちは楽しい」という原体験を提供している。安全な水遊びを提供し、区間行事の代替や大人の同窓会としての機能も果たすことで、地元への愛着(望郷の起爆剤装置)を生み出している。

 

実際、「子どものころにオレンジフェアで遊んでいた」という若者が大人になって当社に入社し、今度は自分がオレンジフェアのリーダーを務めるという「鮭の川登り」のような好循環が生まれている。

 

このように、オレンジフェアは「若手社員の育成(リーダーシップ・チームワーク)」「社員のモチベーション向上(誇り・使命感)」「将来の採用活動(建設業の魅力発信・地元就職へ)という、カネタ建設の「人」を中心とした経営戦略を体現する最も重要な取り組みである。

 

市民の健康な暮らしを追究し地域課題に根差した「ひとづくり・まちづくり」地域から必要とされる取り組みで信頼を重ねる」

PROFILE
著者画像
猪又 直登 氏

株式会社カネタ建設 代表取締役