タナベコンサルティングの建設ソリューション研究会では、地域密着型企業が自社の成長と地域の持続的発展を両立させるための経営戦略をメインテーマとし、先進的な取り組みを実践する企業から学ぶ。
第5回は、新潟県南魚沼市に本社を構える株式会社島田組の代表取締役・島田奏大氏をゲスト講師に迎え、「建設業から地域未来創造業へ」をテーマにご講演いただいた。人口減少が進む地方において、建設業の枠を超えたまちづくり事業や地域の人事部の設立など、地域を丸ごと経営する戦略と実践についてお話しいただいた。また、建築学生向けデザインコンペ「ホワイトノートデザインアワード」、空き家マッチングサービス「しまラボ」、民間主導の「地域の人事部(YUKIGUNI-ISSIN)」、エリアマネジメント事業などさまざまな取り組みについてもお話いただいた。
開催日時:2026年5月28日(新潟開催)
はじめに
1920年(大正9年)、上越線(のちのJR上越線)の建設に伴うバラスト材の供給事業を起点に創業した株式会社島田組。新潟県南魚沼市の浦佐駅前に本社を構え、現在は4代目の島田奏大氏が代表取締役を務める。従業員数82名、年間売上高約25億円の地域密着型総合建設業である。
売上の約半分をJR関連の鉄道工事(土木・建築・軌道メンテナンス)が占め、残りを公共工事と民間工事・住宅事業で構成する。創業から100年以上にわたり鉄道インフラを支えてきた技術力と信用を基盤に、近年は「地域未来創造業」への転換を掲げ、建設の枠を超えたまちづくり事業を次々と展開している。
同社の鉄道事業は、JR上越線の軌道メンテナンスをはじめ、夜間・トンネル内での保守作業など、人目に触れにくい現場で地域インフラを支えている。こうした日々の仕事が高校生の通学や通勤、人とものの往来を当たり前に成り立たせており、島田氏はその社会的価値を社員に伝え続けることを経営の要に据えている。

株式会社島田組 社屋
自社の強みを「地域経営」に転用する発想
島田氏は、人口減少により地域市場が縮小する中、「仕事が降ってくるのを待つ」建設業のままでは会社は消えていくと危機感を抱いた。そこで、100年先も選ばれる「会社」だけでなく、100年先も選ばれる「地域」を自ら作る必要があると考え、「地域未来創造業」への転換を進めている。
同社が転用した自社の強みは4つ。①長年培った地域の信用、②外部パートナーとの連携力、③建設現場で鍛えたプロジェクトマネジメント能力、④建設以外の人材を集め育てる機会の創出である。これらを組み合わせ、建築学生向けデザインコンペ「ホワイトノートデザインアワード」、空き家マッチングサービス「しまラボ」、民間主導の「地域の人事部(YUKIGUNI-ISSIN)」、エリアマネジメント事業などわずか1年で複数の新規事業を立ち上げた。
建築学生向けコンペ「ホワイトノートデザインアワード」では、説明会に全国から約40名が参加し、20名超が設計を応募。県内大学の建築系教員との関係構築という大きな成果も得た。空き家マッチングサービス「しまラボ」は、空き家探しから資金・事業・採用支援までを一気通貫で担い、国の実証事業にも採択された。

哲学の言語化と体験が組織を動かす
島田氏は「会社は、人としてどうあるべきかという哲学を地域に実装する場である」と社員に伝え続けている。コーポレートメッセージ「上を向いて挑む」を掲げたものの、当初は「ピンとこない」という声が多かった。そこで、創業からの歴史や大切にしてきた価値観を社員へのヒアリングを通じてまとめた「フューチャーブック」を制作。全社総会でこれを読み合わせ、個人の行動目標に落とし込むワークを実施した。全社総会後のアンケートでは、かつて「理念の解釈にばらつきがあった(過去の課題として)」「上を向いて挑むがピンとこない」という声が多かったが、ワーク後は「自分にとっての意味が腹落ちした」「明日から具体的に挑戦したい」という前向きな声が増えた。理念浸透には地道な反復が不可欠だと島田氏は語る。
加えて、雪まつりの企画・運営など「まちの人に喜ばれる体験」を社員と共に重ねることで、言葉だけでは伝わらない理念を肌感覚で浸透させている。島田氏は「言葉以外のところで肌で感じる機会を継続して作ることが大事」と語る。その結果、社員が自ら「島田組はまちづくりの会社です」と語り、地域に必要な空き家再生事業にも「街にとっていいことだから自分がやります」と手を挙げるようになった。

フューチャーブック
鉄道事業を起点にした地域拡大戦略
島田氏が描く成長戦略の核は、コア事業である鉄道工事を足がかりにしたエリア拡大である。50年後・100年後に新潟県内で人口が残るのは新幹線駅のある長岡市と新潟市のみという分析を踏まえ、将来的な構想として、段階的なエリア展開を視野に入れている。実際にJRやパートナー企業から「担い手不足のため他エリアでも仕事をしてほしい」と要請を受けており、需要と戦略が合致している。
進出先ではまちづくり事業と地域の人事部を展開し、採用・育成の基盤を構築。将来的には後継者不在で困っている地域の事業を引き継ぐことも、地域に必要な機能を残す選択肢として視野に入れている。「稼ぐエリアで稼ぎ、将来性のある南魚沼に投資する」という二拠点経営の構想は、地方建設業が地域とともに生き残るための実践的なモデルケースといえよう。
地域の人事部「YUKIGUNI-ISSIN」は、行政主導が一般的な中、島田組と電気設備系サブコンの民間2社による共同出資で立ち上げた珍しい事例である。2026年6月からはミドルマネージャー候補を複数社で出し合い、越境的な対話を通じて視座を高める育成プログラムを始動。次世代の経営幹部を育成する社内プログラムを進めている。
島田組 代表取締役