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研究リポート
デザイン経営モデル研究会
経営に『デザインの力』を活用して、魅力ある自社らしいブランドづくりを実践している素敵なデザイン経営モデル実践企業の取り組みの本質を視察先講演と体験で学びます。
研究リポート 2026.04.16

目立つ黒子への挑戦 ゼロからイチをカタチに リボン食品

第4回の趣旨
タナベコンサルティングの第4期デザイン経営研究会では、社内の新しい取り組みを頓挫させず、ゼロからイチを生み出し、カタチにし、組織への定着および成長までを描く「デザイン力」のコアスキームを研究している。
第4回は、経営方針の転機を迎えた際に、積極的に変革に向けて大きな挑戦をする決断をした、老舗食品メーカーと老舗スポーツクラブの2社をお招きし、それぞれの実践事例と変革後の変容について講演いただいた。
リボン食品の代表取締役社長・いかだ由加子氏からは、「理念なき理念経営」「黒子経営」「思いやり経営」「家族的経営」など、同社で受け継いできた経営哲学とその実践について、父である現会長への想いと併せて語っていただいた。人間を大事にする経営の在り方に胸を打たれた参加者も多く、あらためてAI時代の経営の在り方について考えさせられる回となった。

開催日時:2026年3月18日(大阪開催)



伝統と革新を取り込む老舗メーカー

1907年創業のリボン食品は、2026年に創業119年を迎える大阪発の老舗食品メーカーである。マーガリンをはじめとする油脂類やパイ生地などをBtoBで供給し、土産菓子・デパ地下洋菓子・ホテル・レストランなど幅広い業種に納品している。

 

売上高は約72億円、正社員120名、アルバイト・パートを含めると約400名規模を誇る。事業の9割をBtoBが占める一方、顧客の先にいるエンドユーザーの喜びや課題を肌で理解するという目的のもと、1割はBtoC事業にも取り組んでおり、その経験をBtoBの品質向上や提案力強化に還元するという独自の循環モデルを構築している。

 

今回の講師は4代目社長の筏氏である。もともとホテルマンを志し、米国の大学でホスピタリティーを専攻。ハイアットリージェンシーで勤務するなど、長年ホスピタリティーの分野でキャリアを積んだ後、リボン食品の経営を引き継いだ。製造業にホスピタリティーの視点を取り入れ、「伝統と革新」を軸に独自の経営スタイルを実践している。

  リボン食品のBtoB事業の主力製品である、業務用マーガリンやパイ生地、焼成品

リボン食品のBtoB事業の主力製品である、業務用マーガリンやパイ生地、焼成品



「理念なき理念経営」——言語化より体現が先

リボン食品には明文化された経営理念が存在しない。それでも「思いやり」「ホスピタリティ」「半歩先」などの理念ワードは社内に深く根付いており、社員インタビューをすると自然に浮かび上がってきた。筏氏はこれを「パズルの枠に当てはめるのではなく、レゴのピースで自由に組み立てる経営」と表現する。

 

理念はつくることが目的ではなく、日々の行動を通じて体現することこそが本質であるという考え方は、形式的な理念策定に終始しがちな組織への警鐘でもある。各社員が理念ワードを自分なりに解釈し、組み合わせることで、多様な発想と行動が生まれる。この設計思想は、時代に合った柔軟な文化づくりの在り方を示す好事例である。

 

世代が変わるたびに「真心をリボンに託して」「目配り・気配り・心配り」「ホスピタリティー第一」と、表現は異なりながらも、根底に流れる価値観は一貫しており、言葉を固定せず時代と担い手に合わせて更新し続けることが、理念を生き続けさせる秘訣であることが分かる。

  Fat Witch Bakery NY本店からリボン食品が事業承継した、ニューヨーク土産として人気のブラウニー専門店「Fat Witch New York(ファットウィッチニューヨーク)」

Fat Witch Bakery NY本店からリボン食品が事業承継した、ニューヨーク土産として人気のブラウニー専門店「Fat Witch New York(ファットウィッチニューヨーク)」


筏氏の妊活や出産の経験から生まれたフェムケアフードブランド「Minotte(ミノッテ)」。変化の激しい産前~産後期をケアする「おだやか」シリーズ、健やかなカラダづくりを目指す「はつらつ」シリーズ、いつまでも元気でいたい方に向けた「かろやか」シリーズの3つを展開

筏氏の妊活や出産の経験から生まれたフェムケアフードブランド「Minotte(ミノッテ)」。変化の激しい産前~産後期をケアする「おだやか」シリーズ、健やかなカラダづくりを目指す「はつらつ」シリーズ、いつまでも元気でいたい方に向けた「かろやか」シリーズの3つを展開



理念を軸にした選択と集中—やめる決断が次の成長を生む

「理念なき理念経営」実践の象徴的なエピソードが、38年間続けた冷凍デザートケーキ事業からの撤退である。売り上げの3割を占めていたこの事業をやめる判断の根拠となったのは、前述の理念ワードである「高品質」「ニッチマーケット」「ユニークさ」であった。

 

大手が参入した時点でニッチではなくなり、価格競争に応じれば品質が損なわれ、ユニークさも失われる。理念に照らせばこの事業を続ける理由はないという、極めて明快な判断であった。

 

撤退後はその経営資源をパイ生地事業へ集中させ、全社一丸で知識を深めた結果、当初5年かかると見込んでいた売上回復をわずか2年で達成した。事業の継続可否を損益だけで判断するのではなく、自社の理念ワードに照らして「合うか合わないか」で判断するこの姿勢は、経営の選択と集中における一つの明確な指針を示している。

  2018年に新本社を竣工(左)。伝統と革新の表現が至るところになされている社内。左の壁はレンガ調で「伝統」を表現しており、右のアルミニウムの壁は近未来風で「革新」を表現している

2018年に新本社を竣工(左)。伝統と革新の表現が至るところになされている社内。左の壁はレンガ調で「伝統」を表現しており、右のアルミニウムの壁は近未来風で「革新」を表現している



令和流の「心のふれあいコミュニケーション」で顧客心理の洞察力向上

「ホスピタリティーは社内で発揮できなければ社外でも発揮できない」という信念のもと、多彩な施策で社員間の対話を促している。社員同士が自然に情報共有・相互フォローできる文化が、営業現場での顧客ニーズの引き出し力にも直結するという洞察は鋭い。

 

さらに、筏氏自らが全従業員へ手書きの誕生日レターを送り、工場にも足を運んで対話の機会をつくるという実践は、制度だけでは生まれない信頼関係の醸成につながっている。

 

社内の人間関係の質が、そのまま対外的なホスピタリティーの質に反映されるというこの考え方は、製造業・サービス業を問わず、あらゆる組織運営の根幹としてあらためて認識すべき視点である。

 

加えて、社内での何気ない会話や試食エリアでの雑談が、他部署の顧客課題への自然な気づきや提案力の向上につながっている事実は、コミュニケーションの場を意図的に設計することが、組織の知的生産性を高める上でいかに重要であるかを示している。

 

1Fの執務フロア。専門業務スタッフ以外はフリーアドレスになっている。また独自のルールとして、前日に座った席とは異なる席に座るようにしており、部門を超えたコミュニケーションを活発にしている

1Fの執務フロア。専門業務スタッフ以外はフリーアドレスになっている。また独自のルールとして、前日に座った席とは異なる席に座るようにしており、部門を超えたコミュニケーションを活発にしている


3Fの食堂エリア。「食に携わる会社なのでおいしく健康によい食事を取れることが経営上重要」という筏氏の信念が反映されている

3Fの食堂エリア。「食に携わる会社なのでおいしく健康によい食事を取れることが経営上重要」という筏氏の信念が反映されている

PROFILE
著者画像
筏 由加子 氏

リボン食品 代表取締役社長