タナベコンサルティングの第4期デザイン経営研究会では、社内の新しい取り組みを頓挫させず、ゼロからイチを生み出し、カタチにし、組織への定着および成長までを描く「デザイン力」のコアスキームを研究している。
第4回は、スポーツクラブの経営変革と老舗食品メーカーの理念経営という異なるフィールドから2社をお招きし、それぞれの実践事例を講演いただいた。
ガンバ大阪の執行役員・竹井学氏からは、かつてリーグトップの地位を獲得したガンバ大阪の経営の失速と、再起の物語を赤裸々に語っていただいた。組織に蔓延していた縦割組織の弊害や挑戦意欲の低下、属人対応による限界など、複合的に絡み合っていた課題を丁寧に整理し、挑戦の文化を根付かせるところから再始動を図った手腕に注目いただきたい。経営のV字回復の立役者の一人ともいえる竹井氏の視点で、改革ストーリーを語っていただいた。
開催日時:2026年3月18日(大阪開催)
「危機感」「閉塞感」を新規事業立ち上げの目的にしていないか?
ガンバ大阪は、1980年に松下電器産業のサッカー部として発足し、1993年のJリーグ開幕から参加。2005年のJ1リーグ初優勝を皮切りに、2014年には三冠を達成するなど、国内外で輝かしい実績を誇るプロサッカークラブである。
2016年には市立吹田サッカースタジアム(現・パナソニックスタジアム吹田)が稼働し、収容人数約4万人を誇る専用スタジアムへと移転。チームの実力にふさわしい最高の舞台が整ったことで、集客や事業拡大への大きな期待が高まった。
現在は「日本を代表するスポーツエクスペリエンスブランド」を目指すブランドコンセプト「BE THE HEAT, BE THE HEART」を掲げ、競技・社会・事業の3つのミッションを柱に経営を推進している。
講師の竹井学氏は、2016年にガンバ大阪へ入社。集客マーケティングおよび経営企画をけん引し、2025年1月より現職。自身の豊富な現場経験と、「失敗談」と自称するリアルな体験をもとに、組織変革とビジョン浸透の実践について語っていただいた。
パナソニックスタジアム吹田のピッチ内(左)、VIPルーム(右)。
スタジアム自体は市民や企業の寄付によって建設されている。スタジアム内のサイネージには、別のスポーツイベントで使用したものを採用するなど、持続可能なスタジアムの在り方を体現している
目指す姿への共感が、組織変革の真の起点となる
新スタジアム完成後も、入場者数が2年連続で減少し続けたガンバ大阪では、急激な組織拡大によるマネジメント不足、部署の縦割り、硬直化した予算運用、ビジョンの不明確さなど、複合的な閉塞感が蔓延していた。
重要な示唆は、「このままではまずい」という危機感や閉塞感そのものを変革の目的にしてしまうと、組織は動かないという点だ。竹井氏は「危機感を先に語るのではなく、クラブとしてこうなりたいという目指す姿を示し、そこへの共感を起点にした」と強調した。変革の火種は、ネガティブな現状認識ではなく、ポジティブな未来像への共鳴から生まれることを示している。
危機感を前面に押し出すと、現場は萎縮するか対症療法に終始しがちだ。経営層が「なりたい姿」を明確に示し、スタッフ一人一人がその意味を自分事として捉えられるよう働きかけることが、持続的な組織変革の第一歩となった。
入場者数が減少していた時、社内には、「急激な組織拡大によるマネジメント不足」「部署縦割り」「硬直化した予算運用」など、成長する企業が陥りやすい閉塞感にさいなまれていた
出所:ガンバ大阪講演資料
部門間の「共通テーマ」と「KPIの再定義」が連携を生む
縦割組織にありがちな「他の部門のやることには口を出さない、出せない」という暗黙の了解が、同社にも蔓延していた。その結果、「重要な顧客接点の担当者」という共通点はあるものの、ホームタウン担当・チケット担当・ファンクラブ担当はそれぞれ独立した数値目標を持ち、縦割のまま業務を行っていた。
竹井氏は「スタジアムの集客アップ」という全部門に共通するテーマを掲げ、各部門が連携する仕組みを構築。新規来場者獲得→リピート定着→ファンクラブ入会→年間席購入というステップに沿って各部門の役割とKPI(重要業績評価指標)を再設計し、バトンリレーのように、チームとしてそれぞれの役割を認識できるような仕組みを生み出した。
「目標の共有」と「効果の見える化」によって部門間連携が自然に生まれ、2019年には史上最多の平均入場者数2万7708人を達成。2025年には3万人を超えるに至った。
全員が集客アップという同じゴールを見据えることで、組織全体として顧客と向き合う文化が育まれ、部門間の壁を自然に溶かす力となった。
前述の閉塞感から脱却するためにガンバ大阪として目指すべき姿を共有することで、チームとして一人一人の役割を認識し、一体感のある経営を推進していった
出所:ガンバ大阪講演資料
ビジョンの「浸透」には継続的な対話と問いかけが不可欠
2021年、クラブ創設30周年を節目に「Japan‘s Best Sports Experience Brand」というブランドコンセプトを策定した。その際、竹井氏は「策定・発表するだけでは何も変わらない」と断言し、全部署参加のワークショップを半年に一度、繰り返し開催した。
「あなたはこの実現のために何ができるか」という問いを社員一人一人に向け続けることで、従業員意識調査ではブランドコンセプトへの理解・実践意識が90%以上に到達。ビジョン浸透は一度の発信で完結せず、経営層が粘り強く問いかけ、対話を重ねる継続的プロセスであることを体現した事例といえる。
ビジョンは「掲げる」だけでは絵に描いた餅に終わる。現場スタッフが自分の言葉でビジョンを語り、日々の業務と結び付けて考えられる状態になって初めて、組織の推進力へと変わる。経営層の粘り強い対話姿勢こそが、その土壌を耕し続ける原動力となる。
創立30周年を機にリブランディングしたブランドコンセプト
出所:ガンバ大阪HP
ガンバ大阪 執行役員 経営企画担当