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研究リポート
デザイン経営モデル研究会
経営に『デザインの力』を活用して、魅力ある自社らしいブランドづくりを実践している素敵なデザイン経営モデル実践企業の取り組みの本質を視察先講演と体験で学びます。
研究リポート 2026.02.25

バックキャストによる企業変革「破壊と創造」の実践 九州教具

第3回の趣旨
第4期デザイン経営研究会では、社内の新しい取り組みを頓挫させず、ゼロからイチを生み出し、カタチにし、組織への定着および成長までを描く「デザイン力」のコアスキームを研究している。
第3回2日目は長崎県大村市に本社を置く、九州教具株式会社に講演いただいた。九州エリアを中心に教育商材、ICT機器、ホテル経営、ミネラルウォーターの製造・販売など、さまざまな事業を展開している。創業以来、地域社会に根付いた信頼関係を築き上げ、現在も成長を続けている。
同社は、現状の事業の延長線上で経営戦略を描くのではなく、地域社会への貢献と事業収益性を両立する前提で、将来目指す姿を明確に描き、「やめること」を決めたことが成功の一因だと語る。今回はその生きた実例やビジネスモデルを、「バックキャストによる企業変革の実践」というテーマで学ばせて頂いた。
開催日時:2026年1月23日(福岡開催)


地域密着の"顧客課題解決"企業

1946年長崎県大村市中諏訪に本田文具店(九州教具)という小さな個人商店が開業した。その後、70年という長い年月を経て、本田文具店は長崎県一円を中心として福岡県へと事業を展開する企業グループとなった。

 

地域に密着し、お客さまの事業における課題解決のために最適なビジネスインフラを提案するQ-bicソリューションズ、安心・安全で充実した宿泊インフラを提供するQ-bicホテルズ、生活に欠かせない水をローリングストックというインフラにしてお届けするウエルネス事業。

 

これら多角的な事業展開の根底には、初代社長である本田嘉末が遺した社是「誠実にして正確を旨とし社会に貢献すべし」が流れており、それぞれの事業における意思決定や、社員の行動指針となっている。

 

同社は、「社会に貢献する企業」=「お客様のお役に立つ企業」と定義しており、お客様の課題=Questionを、迅速=Quickに、最適=Qualityに解決し、お役に立つ存在であることを目指し、Business-Infrastructure-Createカンパニーとして歩みを進めている。

  従来の文具販売から脱却し、資源を大胆にDX支援やホテル事業へ転換した同社の戦略的変革の成果を表している 従来の文具販売から脱却し、資源を大胆にDX支援やホテル事業へ転換した同社の戦略的変革の成果を表している




九州教具グループが目指す「地域活性促進型のCSV経営」

九州教具グループはCSRを越え、本業でCSV(共有価値の創造)を体現し、地域と企業の持続的成長を両立する。その実践として、文具販売はアスクルに委ねて非生産業務と固定費を削減し、浮いた資源を企業のDX支援へ再配分した。

 

さらに、意思決定はバックキャスティングに基づき、福岡の大型計画より波佐見の木造ホテルを選択、陶磁器文化が根付く波佐見町でクラフトツーリズムの核をつくって地域事業者と連携し、年間110万人規模の来訪を共創している。

 

並行してHD化を進行。キュービックソリューションズを中核にWi‑Fi整備、教育ICT、内装・空間設計を一体展開し、学校やオフィス、宿泊施設のネットワーク整備から端末運用、内装機能設計までをワンストップで提供することで、地域のデジタル基盤と学習環境の向上に寄与している。

 

こうした取り組みを本業を通じた共有価値創造という軸で束ね、資源配分とオペレーションを継続的に見直し、地域との共創で成果を可視化する。これが九州教具グループのCSV経営の姿勢である。

 

<ホテルブリスヴィラ波佐見> 波佐見町の陶磁器文化を活かしたクラフトツーリズムの拠点として、地域活性化と企業成長を同時に実現する象徴的な施設「ホテルブリスヴィラ波佐見」 波佐見町の陶磁器文化を活かしたクラフトツーリズムの拠点として、地域活性化と企業成長を同時に実現する象徴的な施設「ホテルブリスヴィラ波佐見」

バックキャスティングと時代観

当社は経営の意思決定において、過去の延長で未来を当てるフォアキャストではなく、望ましい未来像(ナラティブ)から逆算するバックキャスティングを意思決定の軸に置く。

 

まず「本業で地域課題を解く」「教育をICTで支える」といった物語を明確化し、その像から今やること、やめることを具体化する。価値観や理念は不変だが、枝葉の技術・戦術は状況に応じて更新されている。

 

また、時代は政治→経済→文化→政治へと螺旋的に移り変わり、価値基準も変わっているが、日本は依然、経済期の発想に留まりがちである。だからこそ物語を先に置き、資源配分や優先順位を合わせている。

 

具体的には、ホテルを365日稼働の「実験場」に据え、組織運用・ICT・CSVを継続的に検証。文具・教材からタブレットなどのDX支援へと資源を大胆に転換し、執着を捨てる意思を示した。社内理念「すべての人が笑顔に」は判断のフィルターとして機能し、SDGsは2030年から逆算する思考の訓練として活用している。

 

事実前提の経営から価値前提の経営へ。物語で合意し、やる/やめるを明確化することが、環境変化の非連続性に備え、組織の持続可能性を高める最短距離であると考える。

 

<社是> 創業以来受け継がれる『誠実にして正確を旨とし社会に貢献すべし』という不変の価値観が、すべての意思決定の基盤となっている。 創業以来受け継がれる『誠実にして正確を旨とし社会に貢献すべし』という不変の価値観が、すべての意思決定の基盤となっている


人材および働き方の多様化

当社は「労働=指示通りにやる」「仕事=課題を見立て、やり切る」を峻別し、現場の自律を高めた。

 

象徴的な例として、採用条件の日本語必須を外し、中国籍スタッフなどの多国籍人材が勤務している。中国語サイトの整備と多言語化が新規顧客・事業を生み出し、社内では英語・日本語の相互学習も推進している。

 

また、支配人の働き方について3人の子どもの子育てと両立できる「残業ゼロ運営」をAIで設計し、シフト自動化・在庫予測・清掃動線の最適化により実現した。職場の健全度は「笑い」を指標にし、会議・休憩スペースの空気感を醸成している。

 

組織編成に関しては、固定的な適材適所ではなく、点(個人ミッション)→線(連携)→面(横断)→立体(事業全体)という比喩で段階的に組み立て、未来と現在を行き来する時間軸で運用している。

 

多国籍人材の活躍、残業ゼロ運営、笑顔あふれる職場づくりなど、人材の多様性と働き方改革を実現する現場。 多国籍人材の活躍、残業ゼロ運営、笑顔あふれる職場づくりなど、人材の多様性と働き方改革を実現する現場

PROFILE
著者画像
船橋 修一 氏

九州教具株式会社 代表