顧客創造モデル研究会は、個人の営業活動依存から脱却し、経営者主導で「時代に合った顧客創造モデル」を構築することを提唱している。市場環境が急変する中で、仕組み・体制・制度を整備し、持続的なトップライン成長を実現するための哲学と実践を探求する。
ミスミは、製造業向け部品調達の分野で大きな存在感を持つ企業であり、その中でmeviyは、3Dデータをアップロードするだけで即時見積もりや短納期出荷を可能にしたサービスである。
製造業が抱える大きな課題に向き合いながら、顧客にとっての本当の価値をいかに形にするかを考え抜いて事業化した点は多くの企業にとって自社の価値を創造するヒントとなろう。
開催日時:2026年4月22日
はじめに
ミスミは1963年に設立し、売上高4413億円、世界に100以上の拠点を持つ製造業向け部品供給企業である。世界最大級の品ぞろえと確実短納期を強みに、製造業における「社会インフラ」ともいえる存在感を築いてきた。
同社が一貫して提供してきた価値は、顧客側の革新と生産側の革新を同時に実現することである。1977年のカタログ販売開始により、顧客は部品を“選ぶだけ”で調達できるようになり、同時に標準化と半製品化によって低コスト・短納期も実現してきた。
一方で、日本の製造業は現在、深刻な人手不足と時間不足に直面している。人口減少、働き方改革、業務負荷の高止まりにより、生産性改革はもはや成長戦略ではなく生存要件となった。設計・製造・販売の各領域でデジタル化が進む中、調達領域にはなお紙図面や見積り待ちなどの非効率が残っており、ここが製造業DXのボトルネックになっていると柳沢氏は指摘した。この構造的課題に対する解として誕生したのが、製造業DXプラットフォーム「meviy」である。
社会課題を起点に「時間価値」を再定義し、事業の大義へ昇華する
「meviy」を構想した背景には、単なる新規事業ではなく、日本のものづくり産業が抱える構造課題への強い問題意識があった。製造業の調達現場では、「作図の手間」「見積もりの手間」「待ち時間」という「時間の3重苦」があり、1案件で約1000時間かかる場合もあるという。これを社会全体で見ると、年間3.8億時間、間接コストは2兆円超。同社は、この大きなロスを価値創造の余地と捉えた。
重要なのは、同社がこの課題を単なるコストや利便性ではなく、「時間の創出」という本質的な価値として捉えている点である。時間が生まれることで、人はより創造的な仕事に向き合える。この考え方は「ものづくりに創造と笑顔を」というmeviyのミッションにも表れている。meviyは単なる見積り自動化ツールではなく、ものづくり産業の創造性を支える基盤として位置付けられている。さらに、時間不足という共通課題を起点に、自社の存在意義を社会的な言葉で示している点も印象的であり、この大義の明確さが事業推進の力になっていると感じた。

(出所:講義資料より)
顧客側の革新と生産側の革新を同時実現することで、新たな価値を生む
「meviy」の強みは、単に顧客接点をデジタル化したことではなく、顧客側の使いやすさと生産側の仕組み変革を同時に実現している点にある。顧客は3Dデータをアップロードするだけで、価格や納期をすぐ確認でき、最短1日で部品を受け取れる。これにより、従来の見積り依頼や回答待ちなど、調達にかかる手間が大きく減っている。
この利便性は、裏側で製造プログラムを自動生成する仕組みがあるからこそ成り立っている。つまり、「AIによる自動見積もり」と「製造連携の自動化」が一体になっていることがmeviyの価値だといえる。その結果、meviyは累計23万人の顧客、3700万件の設計データアップロード、国内オンライン部品調達サービスで4年連続シェアNo.1という実績をあげている。新しい顧客価値を生むには、顧客向けの見せ方だけでなく、提供側の仕組みまで含めて変えることが重要だと感じた。

(出所:講義資料より)
価値創造を実現するのは、Why・Who・Howを揃えた組織づくり
価値創造の成功確率を高める問いとして、Why(なぜやるのか)/Who(誰とやるか)/How(どう進めるか)の3点が挙げられた。
まずWhyでは、30年にわたり図面品への挑戦を続けてきた歴史と、「ものづくりに創造と笑顔を」という存在意義が事業推進の原動力になっている。単なる市場機会ではなく、自社が取り組むべき必然性が明確である点が特徴的だ。次にWhoでは、ウェブ技術、3DCAD/CAM、AI、製造ノウハウ、形状認識技術など多様な専門性が求められる中で、「やるべき」「できる」「やりたい」の3つが重なる仲間を集めることが重要である。トップ自らが大義を発信し、社内外の人材を巻き込む姿勢が、難易度の高い挑戦を前進させる。
そしてHowでは、価値創造を成功させる組織として「速さ」を意識した組織へと変革を進めている。組織文化自体も、ウォーターフォール型から、アジャイル型へと転換し、全てを完璧にするのではなく、7割程の完成度でもとにかく先に進めていくようにすることで事業の推進スピードを上げている。このように、目的意識(Why)を持った専門家(Who)がスピード感を持って(How)進めていくからこそ成果につながる。
(出所:講義資料より)
株式会社ミスミ IDビジネス・ハブ 社長代行