タナベコンサルティングの顧客創造モデル研究会は、デフレからインフレ経済へと移行する中で、企業が適正な利益を確保し持続的に成長するには、新たなファンを創造することが不可欠であるという問題意識のもと、営業活動の一環としてではなく、中期ビジョン実現に向けた顧客創造モデル(仕組み、体制、制度)の構築を目指し、先進企業を研究する場である。
第3回では、より身近な事例として中堅・中小企業の実践から学ぶことを目的に小友木材店を訪問し、自社の特徴をどう武器に変え、実践可能な形で顧客創造につなげていくかを考察した。
開催日時:2026年6月23日
はじめに
小友木材店は、1905年創業、岩手県花巻市に本拠を置く老舗木材店である。講師の小友康広氏はIT企業に勤務していたが、29歳の時に父が病に倒れたことをきっかけに4代目として家業の小友木材店を継いだ。
就任後、「何も変えない、学びの1年」として現場を理解した上で「世界で一番、『カッコイイ』木材店」というビジョンを掲げ、ブランディングを軸とした経営へ転換。木材を売るのではなく体験を売るという発想の下、木材事業を変化させつつ、別会社として保険代理店やまちづくり会社、百貨店再生、飲食事業承継、音楽フェス運営など、複数事業を並行して経営している。
本講演では、「体験を売る」発想で、地域を巻き込んだ独自の顧客創造モデルを築き上げてきた実践知について学んだ。

出所:小友木材店コーポレートサイト
危機感を起点に、競争軸を変えるブランド再設計
同社の出発点は、木材業界の常識の中で戦わないと決めたことにある。小友氏は、業界の構造的縮小から「性能・大量×低価格」という既存市場で戦うのではなく、「共感・希少性×高価格」で選ばれる企業への転換を進めた。そこで半完成品の体験販売や、おもちゃ美術館等の体験施設の運営へと事業領域を広げ、素材生産にとどまらず新たな価値を生み出す6次産業化を実現している。
業界の構造的縮小に対する正しい危機感を起点とし、具体的な新市場・新商品開拓へと多角的に転換する。その姿は、縮小市場に置かれた企業が持続的に顧客を創造していく上での本質を示している。
偶然を必然に変える実験と投資の規律
新市場の開拓は、計画通りに進むことばかりではない。小友氏は、百貨店再生や新規事業の多くを「偶然やってきた必然」と表現した。おもちゃ美術館の設立や閉館した百貨店を巡る高校生の署名活動、地元スケーターの「空きフロアで滑りたい」という一言から生まれたスケボーショップ、餃子店の事業承継など、いずれも自ら未知の場所に足を運び、見て、語ることで舞い込んだ偶然の縁である。
また、小友氏はこの偶然を必然に変えるため、まず「天地人」の確認を行う。大きな目標を掲げた上で、段階的な投資やテストマーケティングで検証する実験を重ねるのだ。特に、「実験のための実験にしない」という規律こそが、偶然を再現性のある事業へと転換させる顧客創造モデルの核心と言える。

小友木材店本社
「任せ、頼り、支援する」組織運営でファンを増やす
ファンマーケティングは、顧客だけでなく社員や地域住民をファン化することによっても機能する。花巻おもちゃ美術館の立ち上げは「いつかおもちゃ美術館を岩手に作りたい」と語っていた社員に託され、米国ホットスプリングスへの「木育施設」の輸出は「子どもと英語に関わることが自身の役割」と語る社員が中心となるなど、社員の興味・関心に沿って任せることで推進力を高めている。
また、「ファンの拡大数」「付加価値の創出」を指標として評価。ファンを単なるリピーターではなく、案件・人材・承継機会・協業先を連れてくる存在として捉えている。このように、ファンを核に付加価値が連鎖する構造をつくることが、同社のファンマーケティングの本質であると言える。

花巻おもちゃ美術館
株式会社小友木材店 代表取締役CEO