顧客創造モデル研究会は、個人の営業活動依存から脱却し、経営者主導で「時代に合った顧客創造モデル」を構築することを提唱している。市場環境が急変する中で、仕組み・体制・制度を整備し、持続的なトップライン成長を実現するための哲学と実践を探求する。
第1回は、複合機販売最大手からデジタルサービス企業へと変革を遂げるリコージャパンを迎え、「営業DXで実現する“課題創造型営業”への挑戦」をテーマに講演いただいた。旧来の「モノ売り」から脱却し、顧客の課題解決に寄り添う「コト売り」へと転換するプロセスと、データとAIを駆使した新時代の営業への挑戦に迫る。
開催日時:2026年2月19日
はじめに
リコージャパンは、1959年の創立以来、複合機・プリンターの販売・保守を中核事業としてきた国内最大手のドキュメントサービス企業である。2017年度に売り上げの過半を占めたオフィスプリンティング事業は、ペーパーレス化の波を受け、 2024年度には縮小傾向にあった。この構造変化とコロナ禍での業績停滞を背景に、経営層は「OA機器販売会社からデジタルサービス会社へ」という大転換を決断した。
その変革の核心が、約20年ぶりとなるSFA/CRMシステムの全面刷新である。このプロジェクトは単なるシステムの入れ替えではなく、リコージャパンの営業プロセスそのものを変える挑戦として位置付けられた。本稿では、その挑戦の軌跡から顧客創造の本質を探る。
ViCreA(ヴィクレア)東京~明日も出社したいオフィスへ~
出所:リコージャパン提供
※ ドローン撮影によるオフィス内の動画
経営トップの決断と「現場の困り事」の両輪が、変革を動かす
リコージャパンの変革は、経営層の決断から始まった。コロナ禍で業績が伸び悩む中、経営層は「デジタルサービス会社へ」という明確な方針を打ち出し、約20年間利用し老朽化していた旧来のSFA/CRMシステムを刷新する一大プロジェクトを始動させた。
このプロジェクトの特徴は、プロジェクトメンバーをシステム部門だけでなくビジネス部門の現場担当者を全国から100%専任で選抜・招集した点にある。まず、メンバーは2つのチームに分かれて要件を定義した。一方は、現場が日常的に抱えるExcelの重複報告やスケジューラーとの二重入力といった「困り事」を徹底的に洗い出す「As-Is(現状)」チーム。もう一方は、事業の在るべき姿を描く「To-Be(目指す姿)」チームである。現状の課題と目指す姿の両観点からシステム要件を設計したことが、プロジェクトを成功させた第一の要諦である。

経営層の決断(アフターコロナを見据た変革加速)
出所:小只氏講演資料より抜粋
「課題解決型」への転換が、案件単価1.8倍の価値を生む
新しいSFA/CRMの導入は、単なる業務効率化が目的ではない。営業スタイルを「モノ売り」から「課題解決型」へと転換させることこそが本質である。その成果は数字に明確に表れており、顧客の課題に基づいて提案された案件は、そうでない案件と比べてアプリケーション案件の単価は向上した。2025年9月実績では前年比で売り上げも粗利も増加し目標を達成した。
成果を生んだ要因の1つが、ダッシュボードの「使い方」へのこだわりである。データを可視化するだけでは、現場は数字を眺めるだけになってしまう。そこで同社は、ダッシュボードに「マネジメントガイド」を添えた。この数字を見たら次に何を確認すべきか、どのようなアドバイスをすべきかという行動指針をセットで設計することで、データが実際のマネジメントと結び付く仕組みを構築した。結果として、営業担当者の意識は「入力させられている」という受け身の姿勢から「データを活用して成果につなげる」という能動的な姿勢への変化につながった。

新システム導入における導入効果:定性面
出所:小只氏講演資料より抜粋
AIが「個の知見」を「組織の力」に変え、次世代の顧客創造を拓く
同社の取り組みは、SFA/CRMの刷新に留まらない。新しいシステムには、リコーのAI機能セールステック(SalesTech)が連携されており、営業担当者が入力した活動履歴や顧客の課題情報を基に、最適なソリューションをリアルタイムでレコメンドする仕組みが組み込まれている。現段階ではまだ基本的な予測の段階にあるとしながらも、実用的なレベルへの改良が日々続けられている。
さらに、26年度に向けたチャレンジとして、顧客の許可を得た上で商談内容を録音し、AIが自動で文字起こしから要約までを行い、新SFAへ活動記録として自動登録する仕組みの実装が進んでいる。これにより、移動時間や記録入力の負担が大きく軽減されるだけでなく、蓄積された商談内容をAIが解析し、想定される顧客の課題を自動で提案できるようになる。個人の感覚では見逃されがちだった顧客の小さな一言や潜在的なニーズに、AIが気付きを与えることで、新たなビジネスチャンスの創出につなげていく構想である。
同社はデジタルの力と人の力を掛け合わせながら、顧客の「はたらく」に寄り添い続けることを目指している。

オフィスシンボル「BRIDGE」
出所:リコージャパン提供
リコージャパン株式会社
デジタルサービス営業本部マーケティングセンター
CRM企画室 CRM推進グループ