「オールシーズン マウンテン リゾート」への変革を目指す ~隠れた資産の発見と磨き上げた顧客創造~ ズクトチエ
デフレからインフレ経済へと移行する中で、企業が適正な利益を確保し成長するには、新たなファンを創造することが不可欠である。そのためには、営業活動の一環としてではなく、中期ビジョン実現の一環として顧客創造を捉え直し、仕組み・体制・制度を経営者主導で構築する必要がある。顧客創造モデル研究会では、顧客創造の仕組みだけでなく、体制や制度にも注目し、時代に合った“顧客創造モデル”を実現している企業を研究する。
第6回は「会社のファンを作る」をテーマに、ヤッホーブルーイングの佐藤順氏、ズクトチエの共同代表である和田寛氏の事例から、縮小する国内マーケットの中で、いかに会社のファンをつくり、自社の製品・サービスを付加価値として昇華させたかを学んだ。
開催日時:2025年12月17日
はじめに
地方の山岳リゾートは、国内スキー人口の激減、供給過剰による安値競争、そして老朽化したインフラへの過大な設備投資ニーズという三重苦に直面している。ズクトチエの和田氏が主導した白馬岩岳マウンテンリゾートの再生は、万年赤字体質に陥り存続さえ危ぶまれた事業が、わずか数年で来場者数を大幅に増やし、夏だけで冬の収益を上回るV字回復を成し遂げた事例である。
この劇的な変革の成功は、従来の「スキーをする場所」という機能に縛られたビジネスの定義を捨て、「大自然の中でさまざまな非日常感を提供するリゾート」へとドメインを大胆に再定義したことにある。同社は、ターゲットを市場の数パーセントに過ぎないスキーヤーから、残りの95%以上を占めるノンスキーヤーを含む通年型の顧客へと広げ、新しい顧客価値を創造した。
地方の山岳地帯を取り巻く現状。生き残るための「覚悟」を決め、存続のためのビジョンを再定義
出所:和田氏講演資料より
縮小市場を突破するドメインの再定義
国内スキー市場が縮小し、冬期の稼働日が約100日しかない「スキー場ビジネス」のままでは、残りの265日以上が遊んでいる状態となり、白馬岩岳マウンテンリゾートは存続の危機にあった。この危機に対し、同社は事業ドメインを「スキーをする場所」という機能的な定義から脱却させ、「非日常的な空間で快適に滞在する場所」として「世界水準のオールシーズン・マウンテンリゾート」へと転換することをビジョンに掲げた。
この戦略転換により、顧客ターゲットを「スキーヤー(市場の数%)」から、「ノンスキーヤー」やグリーンシーズン(夏から秋)の来場者へと拡大し、通年での収益機会を創出。その結果、スキー場でありながら冬期を上回るグリーンシーズンの集客を実現し、季節波動を克服した。自社のビジネスを「顧客へどのように非日常的な体験価値を提供するのか」という視点で捉え直すことが、縮小市場における「客数減の中での安売り」といった商習慣から脱却し、自社のサービスの付加価値向上を図るための原点となった。
社長に就任した2017年以降、和田氏はビジョン達成に向けた施策を矢継ぎ早に展開した
出所:和田氏講演資料より
付加価値に基づく適正価格設定と再投資サイクルの確立
観光産業全体に蔓延する安易な安売り競争は、次の投資の足かせとなり、施設の老朽化、観光地の衰退に拍車をかけていた。同社は、安売りに走らず「非日常的な体験を提供する」という付加価値に見合った金額を設定した。例えば、絶景を見渡せるブランコは、「柵のない映える写真が撮れる」という付加価値をつけ、代わりに代金を支払う仕組みにした。「価格決定は経営者の決断であり、現場の弱気に流されず、次の投資に回す財源を確保するために、収益性を堅持する姿勢が不可欠である」と和田氏は説く。その結果、万年赤字体質から脱却しただけでなく、売上高の1.5倍に相当する約21億円の巨額投資となる、新ゴンドラリフトを建設するための資本力を有することができた。
ライバルを「ディズニーランドやUSJ」と見立て、得られた利益は将来の顧客体験を高めるための投資へ積極的に回し続けることで、持続可能な経営サイクルを確立したことに戦略的な意義がある。
2020年夏に開業した大型ブランコ「ヤッホー!スウィング」
出所:和田氏講演資料より
外部視点と内部の知恵による隠れた資産の掘り起こし
ゼロベースでの投資が難しい中堅・中小企業にとって、新規事業や新商品を開発する際には、既にある「隠れた資産」へ目を向けたい。和田氏は、地域スタッフが「当たり前」すぎて価値に気付いていなかった「夏の山頂からの大絶景」を、「最大の武器」として再評価した。また、社内の若いメンバーなどから湧き出る「想い」を尊重しつつ、そこに外部の客観的な目線(ビジネスリスクや収支計画)を加えて収益化することで、眠っていた資産に日の目を当てた。さらに、新しい価値を創造する前提として、リゾートの景観を損なっていた廃屋や不要なリフトの残骸などを数年かけて徹底的に撤去。開発だけでなくマイナスを排除する取り組みも並行して実行した。
隠れた資産には、土地や景色といった物理的なものだけでなく、既存ビジネスを通じて培った「社内のノウハウ」や「ネットワーク」も含まれる。これらを集約し、外部に発信することで「自走するコミュニケーション」の状態を作り出すことが、付加価値創造戦略として重要である。
山吹味噌(小諸市)がプロデュースする「山吹食堂」を開業。海外からの観光客が求める泊食分離といった新しいニーズに対応
出所:和田氏講演資料より
ズクトチエ 共同代表