デフレからインフレ経済へと移行する中で、企業が適正な利益を確保し成長するには、新たなファンを創造することが不可欠である。そのためには、営業活動の一環としてではなく、中期ビジョン実現の一環として顧客創造を捉え直し、仕組み・体制・制度を経営者主導で構築する必要がある。顧客創造モデル研究会では、顧客創造の仕組みだけでなく、体制や制度にも注目し、時代に合った“顧客創造モデル”を実現している企業を研究する。
第5回では、福田刃物工業株式会社、光洋陶器の2社が登壇。福田刃物工業の講義では、新規顧客開拓を実現する社員主導型の経営体制の在り方を学び、光洋陶器の講義では、成熟市場における中小企業生存のためのオンリーワン戦略を学んだ。
開催日時:2025年10月22日
はじめに
1964年に創業した光洋陶器株式会社は、主にレストランやホテル向けの陶磁器を製造している。日本における陶磁器生産量シェア50%以上を誇る岐阜県東農地方で、同社のテーブルウエアは国内外の食のプロフェッショナルに愛され続けてきた。
成熟から縮小傾向にある陶磁器製造市場において、自社ブランドの製品を複数保有し、多品種少量生産のマーケット開拓により世界70カ国に輸出するグローバル企業へと成長した。その背景には、常識を疑ったマーケットインのブランディング戦略がある。特定マーケットでの第一想起を獲得できたことが成功の大きな要因と言えよう。
今回は、代表取締役社長の加藤伸治氏に、中小企業が存続するためのヒントとして、ブランディングを活用した顧客創造戦略についてご講演いただいた。
1万点以上の商品の在庫をストックし、出荷率は94%
出所:光洋陶器レジュメより
常識に捉われないブランド構築
同社のブランド構築が成功した大きな要因は、マーケットの常識を疑ったマーケットイン戦略である。ブランドを構築する際に重要なのは、「自社の強み」を「市場競争の少ないところ(ブルーオーシャン)」で展開することである。常識的に考えて、中価格帯のマーケットは特徴がなく価格競争に巻き込まれるためレッドオーシャンと考えられている。しかし、大量生産が強みである大手企業が苦手とする中価格帯にこそ、ニッチなニーズがあると考えた。DXやロボットを活用した多品種少量生産のマーケット開拓により、参入障壁の高いブランドを築き上げた。その結果、特定マーケットでの第一想起となる企業に成長し、自社企画・開発ブランドの売り上げが全体の90%以上を占めている。
細やかなニーズに対応するブランドを展開し、販売国数は70カ国を突破した
出所:光洋陶器のレジュメより
ブランドの魅力を可視化するブランドストーリー
ブランドは構築するだけでは意味がない。ブランドのこだわりや価値観を落とし込んだブランドストーリーを展開し、ブランドの理解、共感を覚えてもらいファンになってもらうことが大切である。ブランドストーリーを展開することでブランドを可視化することが可能になる。
同社は、ブランドストーリー戦略において「Made in Japan」と「高品質・憧れ」を重視した。コーヒーツールブランドである「ORIGAMI」は、各国のバリスタの大会や世界チャンピオンを決定する大会と積極的にコラボレーションを行っている。製品が大会で使用されることで、世界から評価の高い「Made in Japan」ブランドとしての品質の高さを認識させ、トッププロではない愛好者にはブランドへの憧れを感じてもらい、ファンを増やすことに成功した。
コーヒーツールブランド「ORIGAMI」。国内外のバリスタに愛用されるコーヒーのプロユースアイテムを展開
出所:光洋陶器株式会社レジュメより
モノ売りからの脱却
近年、生活者のニーズは消費価値から体験価値へと変化している。企業も単に製品(モノ)を売るのではなく、モノに体験や感動という付加価値を乗せた「コト売り」のビジネスモデルを開発し、競合と差別化を図ることが重要である。
同社は、器の複合体験施設として2023年に「KOYO BASE」をオープンした。ワークショップやプロのシェフが講演等を行うことで、器を通して「食べる、知る、学ぶ、買う」を体験できる場となっている。取引先をはじめ、異業種の方や一般の方など年間の来場者は2万人を超る。幅広い方に訪れてもらうことでブランドのファンを増やすだけなく、交流を通して新たなニーズを発掘する場としての側面も持ち合わせている。新しい気づきを得ることで新たな市場を開拓し、顧客創造へとつなげている。
KOYOBASEの内観。体験やランチ、ショッピングを楽しめる
出所:光洋陶器公式Instagramアカウント「koyobase.official」より
光洋陶器 代表取締役社長