企業価値を持続的に高めるためには、成長戦略に基づいた投資を実行するだけでなく、投資が収益力やキャッシュフローの向上につながっているかどうかを継続的に検証することが重要だ。そのためにも、投資目的に応じたKPI(重要業績評価指標)を設定し、財務・非財務データを活用して投資対効果を可視化する必要がある。
データに基づき成長領域への資本配分や低収益事業の見直しを行うと、限られた経営資源を企業価値向上に集中投下できる。タナベコンサルティングの企業価値を高める戦略CFO研究会の第3回は、投資実行後に検証し、次の意思決定へつなげるデータドリブン経営の実践方法について紹介をいただいた。
開催日時:2026年5月22日(東京開催)
はじめに
講師を務める粕谷茂氏(ぷろえんじにあ代表)は、ソニーや富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)などの大手メーカーで技術開発・人材開発に携わり、現在は技術・新製品開発、R&D(研究開発)戦略、経済性工学などのコンサルティングやセミナー、執筆活動を精力的に行っている。
企業が成長戦略を実行する上では、設備の更新・新増設やソフトウエアの導入、R&Dなど、将来の成果を見込んだ投資判断とリスクの検証が重要となる。粕谷氏は「利益を逃さない意思決定をするための設備投資効果/R&Dテーマ評価の実践法」をテーマに、将来のキャッシュフローや投資効果を定量的に捉え、経済合理性に基づいて意思決定する方法について解説した。

出所:粕谷氏講演資料より
投資判断は「埋没原価」ではなく、これから発生する差額で考える
設備投資の効果分析において重要なのは、「過去に支払った費用やすでに支払いが決まっている費用である埋没原価を判断材料に含めない」ことである。既存設備の簿価や過去の投資額にとらわれると、本来選択すべき投資機会を見誤る可能性があるからだ。
投資判断では、これから発生する費用と収益に着目し、投資案件ごとの差額を比較することがポイントである。また独立案(自由選択可)は「効率」、排反案(1つのみ選択可)は「利益金額」、両者が混ざった混合案は「利益額合計」で判断するなど、投資案の性質に応じて評価軸を使い分ける必要がある。総額ではなく変化点と差額を捉えることが、利益を逃さない意思決定につながる。


出所:粕谷氏講演資料より
NPV・IRR・回収期間を用いて
投資効果とリスクを「見える化」する
成長投資の可否を判断するには、将来に生み出すフリーキャッシュフローを現在価値に換算し、投資金額を上回る価値を創出できるかを確認する必要がある。その代表的な指標が、NPV(正味現在価値)とIRR(投資収益性)、投資回収期間である。NPVがプラスであれば、投資によって価値を生み出す可能性が高い。一方で、投資判断ではNPVだけでなく、IRRや回収期間も同時に確認することが重要である。特に、変化の激しい事業環境では投資回収までの期間や事業継続の見通しを踏まえ、収益性とリスクの両面から判断することで、投資判断の精度を高めることができる。

出所:粕谷氏講演資料より
R&Dテーマは定量評価とステージゲート法で成果につなげる
R&Dのテーマは成果が見えにくく、従来は定性的・感覚的な評価をされがちであった。しかし、成長戦略投資としてR&Dを位置付けるためには、投入したコストに対してどれだけの収益貢献が見込めるかを可能な限り定量化することが重要である。すなわちR&D生産性は、「R&D貢献利益」を「投入R&D費」で割ることで把握できる。またオルセン法(研究開発プロジェクトを経済的指標で評価する方法)などを用い、R&Dの成果を経済的価値として捉えることができる。さらに、ステージゲート法(新製品・新規事業開発のプロジェクト管理手法)により開発テーマを段階ごとに評価し、成功確率の低いテーマは適切なタイミングで見直しを図るなど、R&D投資を企業価値向上につながる成長投資へと高めることができる。


出所:粕谷氏講演資料より
ぷろえんじにあ (Proengineer-institute) 代表