企業価値を持続的に高めるためには、成長戦略に基づいた投資を実行するだけでなく、投資が収益力やキャッシュフローの向上につながっているかどうかを継続的に検証することが重要だ。そのためにも、投資目的に応じたKPI(重要業績評価指標)を設定し、財務・非財務データを活用して投資対効果を可視化する必要がある。
データに基づき成長領域への資本配分や低収益事業の見直しを行うと、限られた経営資源を企業価値向上に集中投下できる。タナベコンサルティングの企業価値を高める戦略CFO研究会の第3回は、投資実行後に検証し、次の意思決定へつなげるデータドリブン経営の実践方法について紹介をいただいた。
開催日時:2026年5月22日(東京開催)
はじめに
現在の企業成長戦略の前提は、単に売り上げ拡大を目指すのではなく、正しいデータを全社でつなぎ、意思決定と現場行動のスピードを高める経営基盤づくりにある。講師を務めた日本オラクルのNetSuite(ネットスイート)事業統括・玉井健志理事(コンサルティング統括本部 統括本部長)は、製造業をはじめ幅広い業種のDX推進とデータ活用の支援に携わってきた実務家。講演ではSSOT(Single Source of Truth:信頼できる唯一の情報源)による可視化にとどまらず、AIを活用して原因分析、予測、打ち手の提示まで進め、企業価値の向上につながる経営変革をどのように実装するかが示された。

出所:玉井氏講演資料より
SSOTは成長の土台であり、“到達点”ではない
多くの企業がERP(統合基幹業務システム)、DWH(データ専用倉庫)、BI(ビジネスインテリジェンス:大量のデータを収集・分析・可視化して意思決定に役立てる仕組み)を導入し、部門ごとに異なる数字を統一する基盤整備を進めている。ただ、数字の整合性が取れても何を意思決定すべきかが明確にならず、経営会議が「どの数字が正しいか」の確認で止まる企業は少なくない。
近年、注目されているSSOTは、組織やシステムにおいて「参照する正しいデータは常に1カ所に存在すべき」という概念だが、「正しいデータの土台」に過ぎない。それ自体が経営を動かすわけではない。重要なのは統合されたデータを起点に、原因把握、優先順位付け、打ち手の選択まで一気通貫で進める設計である。成長企業ほどデータ整備を目的化せず、意思決定の変革に結び付けている。

出所:玉井氏講演資料より
AIの本質は業務自動化ではなく「判断の粒度と速度の変革」
従来のBIが可視化を進めた一方で、指標が増え過ぎて人が処理し切れず、原因分析や次の行動提案に時間を要する限界が指摘されている。それに対し、AIは重要指標の抽出や複合要因の分析、将来予測、次のアクション提示をリアルタイムで行える。
AI活用の価値は単なる省力化ではなく、「月次から秒単位へ」「平均値から個別単位へ」「経験則から確率ベースへ」などと経営判断の粒度と速度を変える点にある。つまりAIは結果を眺める経営から、結果を先回りして変える経営へと転換させる戦略装置ともいえる。

出所:玉井氏講演資料より
CFO組織の競争力は、集計能力ではなく「示唆提供力」で決まる
CFO(最高財務責任者)実務のボトルネックは、数字そのものではなく、CFOに届く前の確認、照合、差異分析、論点整理の〝重さ〟にあるという。これらにおいてAIを活用すれば、全件スクリーニング(ふるい分け)と例外抽出を先に行うことにより、人は重要案件の判断に集中できるため、精度向上とスピードアップの両立が図れる。
これからのCFO組織は「数字を集めて説明する部門」ではなく、「重要論点を抽出し、原因を示し、打ち手を支援する部門」へ進化すべきだろう。中堅・中小企業にとっても本質は同じであり、限られた人材を集計作業から解放し、改善の方向性や意思決定につながる示唆の提供に振り向けることが企業価値向上の近道となる。

出所:玉井氏講演資料より
日本オラクル株式会社 理事
NetSuite事業統括 コンサルティング統括本部 統括本部長