第12期ナンバーワンブランド研究会では、「価格決定力を生み出すブランド経験価値をデザインする」をテーマに、先進企業の事例から学び、企業の持続的成長を目指している。
第6回は、キヤノンマーケティングジャパンより長期経営構想を推進するためのコーポレートブランディングの意義と浸透までの過程をご講演いただいた。
開催日時:2026年7月7日(東京開催)
はじめに
キヤノンブランドは高い知名度を持つ一方、顧客からは「機器メーカー」という印象が強く、ITやソリューション分野まで含めて相談できる相手としては十分に認識されていなかった。そこで同社は、親ブランドの強みを生かしながら、自社が社会や顧客に対してどのような価値を提供する存在なのかを改めて整理し、課題解決に取り組む企業としての姿を明確にした。ブランドを単なる広告表現ではなく、事業成長を支える経営基盤として捉えるこの考え方は、親ブランドとのつながりを維持しつつ、自社ならではの価値を打ち出す実践例として多くの示唆を与える内容であった。
キヤノングループの企業理念
(出所:キヤノンマーケティングジャパングループコーポレートサイト)
外部環境・ビジョンに併せて発揮価値を再定義・発信する
「未来マーケティング企業」として、キヤノン製品以外も含めたソリューション事業を成長させるためには、たとえ強い親ブランドを持つ企業であっても、自社独自の価値を改めて明確にする必要がある。キヤノンマーケティングジャパンは、キヤノンブランドという大きな強みを持ちながらも、市場では依然として「機器製品を販売する会社」という印象が強く、ITや業務改革、課題解決型のソリューションを提供する企業としては十分に認識されていなかった。さらに、親会社であるキヤノンが従来のイメージング、プリンティング事業に加え、メディカル、インダストリアルといった新たな成⾧領域へ事業ポートフォリオの転換を進める中で、キヤノンマーケティングジャパン個社として、社会との新たな接点を広げる独自の取り組みも求められていた。こうした状況を踏まえ、同社は親ブランドと切り離して新たな価値をつくるのではなく、キヤノンブランドへの信頼を土台にしながら、「まず相談したい企業」として選ばれる存在を目指し、ソリューションを軸とした価値づくりを進めている。このブランディングは、単に対外的な見せ方を整えるものではなく、自社を取り巻く環境の変化を踏まえて事業ポートフォリオを進化させるための、経営上の重要な取り組みといえる。

キヤノンマーケティングジャパングループ パーパス
(出所:キヤノンマーケティングジャパングループコーポレートサイト)
パーパス策定とパーパスを起点とした一気通貫の経営基盤
同社は、コーポレートブランドを経営課題として継続的に議論するため、経営会議直下にブランド戦略委員会を設置した。委員会では、自社の歴史や強み、事業環境の変化を改めて見つめ直し、「自分たちは何者で、今後どのような価値を提供していくのか」について議論を重ねた。その過程で、自社の存在意義や目指す姿を整理し、パーパス「想いと技術をつなぎ、創造を超える未来を切り拓く」を策定した。
さらに、社員がこのパーパスを日々の業務の中で実践することが、何よりも重要と捉え、パーパス、ビジョン、マテリアリティ、中期経営計画とパーパスから自身の業務までの関係を明確に設計されている。ここでいうパーパスは、理念を美しく掲げるためのスローガンではない。経営としての意思や進むべき方向を組織全体で共有し、実践につなげるための基盤として位置付けられている。

パーパスと顧客満足(CS)・従業員エンゲージメントとの関係
(出所:キヤノンマーケティングジャパングループコーポレートサイト)
IOESPで進める社内浸透発のアウターブランディング
IOESPとは同社独自のコミュニケーションモデル「社内広報(Internal)」「自社発信(Owned)」「社外広報(Earned)」「SNS拡散(Shared)」「広告宣伝(Paid)」の頭文字をつなげた標語である。同社のアウターブランディングとは、ブランドをまず社員に深く浸透させ、その体現者である社員とともに社外へ価値を発信することで、外部評価まで高めていく考え方である。
同社では、ポスター、eラーニング、上司部下の対話、部門別の解釈づくり、評価制度などへの反映を通じて、パーパスの理解と実践を促している。その上でIOESPの考え方に基づき、社員自身が顧客への提供価値や社会課題への向き合い方を語る動画発信などを展開し、社内浸透を起点としたアウターブランディングへつなげている点が特徴である。社員に焦点を当てた発信は社員の主体性向上にも寄与し、結果としてブランドの信頼性と共感性を高めるアウターブランディングに貢献している。

同社社員が自社のブランドを発信するオウンドメディア「ミライアングル」
(出所:キヤノンマーケティングジャパングループコーポレートサイト)
キヤノンマーケティングジャパン ブランド戦略部戦略企画グループ