第12期ナンバーワンブランド研究会では「価格決定力を生み出すブランド経験価値をデザインする」をテーマに、先進企業の事例から学び、企業の持続的成長を目指している。第5回は、福寿園より伝統を次世代へ繋ぎ「本物」を届ける体験価値のデザインについてご講演いただき 、よーじやグループより形式ではなく実質的な価値を高めるブランディングの重要性をご講演いただいた。
京都を代表する2社から経営改善に役立つ具体的なヒントを探った。
開催日時:2026年5月13日(京都開催)
はじめに
よーじやは、1904年に京都で「國枝商店」として創業し、1915年に現在の屋号となった老舗企業である。1921年には同社の代表的な製品であるあぶらとり紙を考案。1965年に誕生した「手鏡」のロゴマークは京都を象徴するブランドとして広く定着した。90年代のブームにより年商40億円規模へ急成長を遂げた一方、「観光みやげの店」という固定化された形式的なイメージが強まり、実態との乖離を生む深刻な課題となっていた。現在は化粧品・スキンケア用品の展開に加え、地元住民を主なターゲットに据えた十割蕎麦店など飲食事業も多角的に展開し、グループ年商は約29億円、従業員数は約190名を数える。全国20店舗の半数を京都府外の生活圏へ配置し、日常を支えるブランドへの実質的な転換を模索している。本講演では、この「脱・観光依存」を軸とした、ブランドの実体と実質を取り戻すための壮大な再定義の歩みが、その戦略の全体像とともに詳細に語られた。

よーじや 四条河原町店
(出所:よーじやコーポレートサイトより)
「形式」ではなく「実質」を追求するための「社内の意識改革」
國枝氏の経営哲学の原点は、幼少期より「よーじやの息子」という形式的な評価と抗い続け、自らの実質の価値を追求してきた日々に遡る。あぶらとり紙ブームの陰で危機感を失い形式に依存した組織を「第二創業」として打破すべく、理念やミッションの再定義を断行した。重要だったのは単なる施策提示ではなく「なぜ、何のために行うか」という本質を浸透させた点にある。社長自らが直接思いを伝える一方、年功序列の撤廃や店舗配属必須ルールの廃止など、従来の仕組みを抜本的に見直すことで社内の意識を変革させていった。その結果、直近3年の新卒離職率が0%を維持するなど、人が育つ土壌が着実に整いつつある。形式的な評価に惑わされず自社の実体を見抜き、存在意義を問い直し続けるこの覚悟こそが、停滞していた老舗組織を内側から突き動かす。形だけの価値提供から脱却し、真に必要とされる存在へと転換を図る意志が、今、組織の隅々へと波及し始めている。

まず取り組んだのは「社内の意識改革」
(出所:講演資料より)

「よーじや らしくない」商品を開発
(出所:講演資料より(左)、よーじや 四条河原町店にて撮影(右))
実質的な価値創出を軸とした「脱・観光依存」の推進
同社が掲げる「脱・観光依存」の本質は、単なる観光需要の否定ではなく「形式的な観光価値の提供から実質的な価値向上へ舵を切る」という、方針転換の意志表明である。本来、観光資源としての価値とは、その土地で日常的に必要とされ、実生活の中で認められた実質の高さが積み重なった結果として、自然に観光客をも引き付ける力を持つべきものだ。「観光客に求められるから形だけを整え販売を強化する」という従来の表層的な流れを同社は排する。この信念に基づき、あぶらとり紙という象徴的な形式に安住せず、日常使いできる新商品開発や全国のショッピングモールへの進出など、日常ブランドとしての地位確立を進めている。実体を欠いた形式的なイメージ戦略を排し、顧客の日常を真に豊かにする質を愚直に研ぎ澄ます歩みは、今後さらに加速していくだろう。

「脱・観光依存」に向けたブランディング発想
参照元:講義レジュメより
「みんなが喜ぶ京都にする」をスローガンにしたリブランディング
コーポレートスローガン「みんなが喜ぶ京都にする」は、形式上の言葉ではなく実質的な地域貢献への決意を示したものだ 。地元住民に誇りに思ってもらえる存在を目指し、日常に根差した「おなじみの店」へと着実に歩みを進めている。
その中でも、長年親しまれたロゴの刷新は大きな決断だった。浸透したロゴが強みであるとともに「伸びしろの限界」となっている事実と向き合った。ロゴによる形式的な評判が実質的な提供価値を上回って先行していたため、同社は多くの批判を覚悟で刷新を断行。当初は反発も寄せられたもの、徐々にブランドイメージを塗り替えたという。
ほかにも地元客が通う飲食店の展開やプロスポーツチームへの協賛など、同社の新たな取り組みは、地域住民との関係を構築し新たな価値を生み出し始めている。過去の成功体験という安全地帯を自ら手放し、痛みを伴ってでも本質的な存在意義を問い直す覚悟こそが、老舗が次代を生き抜く新たな生命力となる。

批判を覚悟で変革への意志を示したブランドロゴの刷新
参照元:講義レジュメより
よーじやグループ 代表取締役