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研究リポート
ナンバーワンブランド研究会
コロナ後の新しい時代に合わせた最新のブランディングを研究し、参加者の皆様が自社で実装するために、コンサルタントがアドバイス・サポートいたします。
研究リポート 2026.08.06

茶と山城と九代目
~伝統を革新し続けるブランド戦略の全貌~
福寿園

第5回の趣旨
第12期ナンバーワンブランド研究会では、「価格決定力を生み出すブランド経験価値をデザインする」をテーマに、先進企業の事例から学び、企業の持続的成長を目指している。
第5回は、福寿園より伝統を次世代へ繋ぎ「本物」を届ける体験価値のデザインについて講演いただき 、よーじやグループより形式ではなく実質的な価値を高めるブランディングの重要性を講演いただいた。
京都を代表する2社から経営改善に役立つ具体的なヒントを探った。

開催日時:2026年5月12日(京都開催)



はじめに

福寿園は、1790年に京都府山城町上狛で創業した宇治茶の老舗である。木津川水運の要衝であり大和と伊賀の街道が交差する立地を生かし、貿易茶の産地問屋として生糸と並ぶ輸出の花形産業を支えた歴史を持つ。1952年には京都駅に直売店第1号を開店し、メーカー直販の先駆けとなった。2004年には「伊右衛門」のブランドコラボレーションにより、茶文化を現代のライフスタイルへ浸透させた。現在は国内57カ所の直営店を展開し、世界50カ国以上に製品を輸出するなど、広範な市場で存在感を示している。2015年には同社を含む山城地域が日本遺産第1号に認定されるなど文化的評価も極めて高い。本講演では、同社がいかにして伝統を次世代へつなぎ、ブランド価値を進化させ続けているのか、その戦略の全体像が語られた。

  福寿園CHA遊学パーク

福寿園CHA遊学パーク
(出所:福寿園コーポレートサイトより)






徳と信頼を“蓄積”するブランド哲学「無声呼人」

同社の根幹を支える精神的支柱は、古くから伝承されてきた「無声呼人(声なくして人を呼ぶ)」という福井家の家訓にある。これは「徳のある所には自ら宣伝せずとも自然と人が集まる」という教えである。まだ、宇治茶が京都の名産品でもなく、知られてもいなかった第6代目福井正巳氏の時代に大きな転機があった。当時の当主は「宇治茶を広く伝えたい」という強い情熱から、1952年に直売への挑戦を決断。卸に比べて梱包作業や配送などが大変だったものの、風味豊かな宇治茶を直接消費者に届けることに心血を注いだ。生活のあらゆる場面にお茶が関わるからこそ、単に物を売るのではなく「どのような場面で関わってもらうか」を丁寧にデザインする姿勢がここにある。目先の利益を追わず、不便や手間を厭わずに顧客との約束を「徳」として積み重ねる哲学は、社是で掲げる「五つの蓄積」にも息づいており、同社にとって長期的な信頼関係を構築する要諦であることが分かる。

 

家訓である「無声呼人」

家訓である「無声呼人」


福寿園CHA遊学パークの室内展示。「京都の茶」のストーリーを伝える

福寿園CHA遊学パークの室内展示。「京都の茶」のストーリーを伝える



「伝統」と「革新」を融合し、地域と歩む

代々の当主は社業の枠を超えて公的な活動を広げ、「地域全体の価値」を底上げしてきた。第7代目である正典氏は茶業界や商工会議所、防犯協会など多方面で活躍し 、続く第8代正憲氏は自社ブランド商品の海外展開を強化するとともに 、茶の集散地である山城地区の「地域ブランディング」をけん引。その源流には、脈々と受け継がれてきた「伝統と家訓を重視し、自然に還せる仕事で本物を届ける」という一貫した組織風土がある。230年以上の歴史を支えるのは、伝統を単なる保存物として捉えるのではなく、時代の潮流に合わせて提供価値を常に更新し、地域社会とともに歩む姿勢がブランドの信頼性を揺るぎないものにしている。形式に固執せず、本質を守るための大胆な変革をいとわない組織風土は、持続可能な経営を目指す企業にとって極めて重要であることを示唆している。

 

茶の集散地「山城地区」そのものをブランディングする

茶の集散地「山城地区」そのものをブランディングする
(出所:講演資料より抜粋)



変わりゆく世代に「本物」を届ける体験価値

これからの時代に向けて、当代は急須を持たない若年層へ向けて新しい宇治茶の可能性を探求している。カフェ「茶寮 FUKUCHA」でのハーブティーやスイーツの提供に加え 、一本数万円の高級ボトルドティーという新たな商品開発にも挑戦している。さらに、お茶を知る接点として茶文化体験施設を拡充。社員向けに就業時間中の茶道教室を許可するなど、文化の体現者としての教育にも投資している。お茶はあらゆる場面に関われるからこそ、「どのようなタイミングで、どのように関わってもらうか」をデザインすることが極めて重要である。多様な接点を創出しながらも、根幹である「本物のお茶」からは決して離れない。一時期の小売り強化から、現在は「世界から京都・福寿園へ」と方針を転換し、顧客の体験価値を最大化していく方針だ。本質を見失わずに変革を続ける姿勢こそが、ブランドを更新し続ける原動力であることが明確に読み取れた。

 

幅広い世代に本物を届ける体験価値デザイン

幅広い世代に本物を届ける体験価値デザイン
(出所:講演資料より抜粋)

PROFILE
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福井 正興 氏

福寿園 代表取締役社長