第12期ナンバーワンブランド研究会では、「価格決定力を生み出すブランド経験価値をデザインする」をテーマに、先進企業の事例から学び、企業の持続的成長を目指している。
第4回は、三陽建設より採用力と定着率の向上を実現してきたインナーブランディングの実践を、オプテックスよりニッチトップのブランドを更新し続けるための戦略と実践について講演いただいた。
滋賀県を代表する2社から経営改善に役立つ具体的なヒントを探った。
開催日時:2026年3月4日(滋賀開催)
はじめに
オプテックスは、1979年に滋賀県大津市で創業したセンシング技術の専門企業である。世界初の遠赤外線式自動ドアセンサーの開発を起点に、防犯・自動ドア・水質計測・車両検知など特定用途に特化したセンサー製品を次々と市場に投入し、グローバルニッチトップ企業へと成長を遂げた。2017年に持株会社体制へ移行し、現在はオプテックスグループの中核事業会社として子会社21社を擁する。2025年度のグループ連結売上高は310億円、営業利益49億円、海外売上比率は約70%に達する。世界15カ国に拠点を構え、80カ国以上に製品・サービスを提供している。経済産業省「グローバルニッチトップ企業100選」にも第一回(2013年)・第二回(2020年)と連続認定されている。本講演では、同社がいかにしてニッチ市場でナンバーワンの地位を築き、変化する市場環境の中でブランドを進化させ続けているのか、その戦略の全体像が語られた。
オプテックス本社外観
出所:オプテックス提供
「BRANDED」の本質——約束の積み重ねが信頼を築く
上村氏が講演の冒頭で強調したのは「ブランドは“作る”ものではなく“築き上げる”ものである」という考え方であった。同社はブランド戦略として「BRANDED(ブランデッド)」という概念を重視している。市場の期待に応える行動を起こし、課題解決・特殊現場対応といった約束を1つ1つ積み重ねることで顧客の信頼(信用)を獲得。その結果として高性能・高品質・専用化という「築き上げたブランド」が形成されるという構造である。
しかし、上村氏は同時に、市場は常に変化しており「期待に応え続けなければ信用が落ち、ブランド力は低下する」と警鐘を鳴らした。だからこそ、顧客との約束を進化させ、変化する市場・顧客の期待に応え続けることが不可欠であり、その変革の軸となるのがパーパスとビジョンであると説いた。ブランドとは、過去からの実績(信頼)の蓄積であると同時に、未来への約束でもあるということだ。

オプテックス本社の1階ショールーム
パーパス・ビジョンを軸にした「Inner DX」と「Business DX」の両輪経営
2009年のリーマンショックは、創業30年を迎えた同社にとって潜在的な経営課題が表面化する転機となった。同社はパーパス「社会課題・特定市場課題をビジネスで解決し、安心・安全・快適な社会・暮らしを世界中に!」と、ビジョン「特定用途向けセンサ&ソリューションでグローバルNo.1を次々に生み出していく会社に!」を明文化し、経営の軸を明確にした。その上で、取り組むべきテーマとして「グローバル業務改革(Inner DX)」と「ビジネスモデル変革(Business DX)(後述)」の2つを同時に進めた。パーパスとビジョンという「不変の軸」があるからこそ、大胆な変革に全社で踏み出せたという点は、DX推進に悩む多くの企業にとって道しるべになるだろう。

オプテックス社におけるDX推進の考え方
出所:講演資料より一部抜粋
ニッチトップを更新し続ける市場創造の仕組化
Inner DXではデジタル化の推進、セキュリティー強化、グローバル物流改革、SAP S/4 HANAによるERP導入、人員配置の最適化、オフィス環境改善の6領域を体系的に推進。人員を増やすことなく一人当たりの売り上げを約170%(導入前比)に伸ばした。
Business DXの重点は代理店経由の「モノ売り」ビジネス中心から、ダイレクトマーケティングによる「ソリューション提供」ビジネス中心への転換だった。従来の代理店ビジネスでは、良い仕様・性能・品質の製品を提供すれば売れた。しかし既存事業の成長が鈍化し、市場・顧客との距離が開き、変化への対応が遅れるという課題が顕在化した。そこで「顧客はセンサーが欲しいわけではない。ソリューション・サービスが必要なのだ」という発想に立ち、デザイン思考で顧客の本質的な困りごとを捉えるダイレクトマーケティングへとかじを切った。
自動ドアを点検する人手が不足している市場課題に対しては、遠隔モニタリングサービスをデータプラットフォームとして確立。自動ドアにビーコンを搭載した情報シェアリングサービス「OMNICITY」で人流データマーケティングとして新たなプラットフォーマーとしてのビジネスを展開した。地位を築いた。注目すべきは、ニッチ市場を「小さな市場」と捉えるのではなく「カテゴリー」として捉える思考法である。1つのカテゴリーで成熟期を迎えたら、自社の強みを生かせる次のカテゴリーを創造し、市場ライフサイクルの先頭を走り続ける。この「一回やって終わりにしない、絶えず変革を繰り返す」姿勢こそが、同社がニッチトップブランドを更新し続ける原動力である。

ダイレクトマーケティングの考え方
出所:講演資料より一部抜粋
オプテックス 取締役会長
(オプテックスグループ株式会社 代表取締役)