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研究リポート
ナンバーワンブランド研究会
コロナ後の新しい時代に合わせた最新のブランディングを研究し、参加者の皆様が自社で実装するために、コンサルタントがアドバイス・サポートいたします。
研究リポート 2026.06.04

人員不足が叫ばれる建設業界における人材を確保するためのインナーブランディング 三陽建設

ナンバーワンブランド研究会

第4回の趣旨
第12期ナンバーワンブランド研究会では、「価格決定力を生み出すブランド経験価値をデザインする」をテーマに、先進企業の事例から学び、企業の持続的成長を目指している。
第4回は、三陽建設より採用力と定着率の向上を実現してきたインナーブランディングの実践を、オプテックスよりニッチトップのブランドを更新し続けるための戦略と実践について講演いただいた。
滋賀県を代表する2社から経営改善に役立つ具体的なヒントを探った。

開催日時:2026年3月3日(滋賀開催)



はじめに

三陽建設は、1920年に宮大工の棟梁である船田粂一氏が建築請負業を開業したことを起源とし、1954年に法人として設立された総合建設会社である。本社を滋賀県甲賀市に置き、京都や大阪にも拠点を展開。社員数73名の組織体制で売上高88億3000万円(2024年度)を計上し、元請比率95%という高い事業自立性を確立している。

 

帝国データバンクの調査では建設業の正社員不足割合が約7割に達し、全業種で最も深刻な水準にある。本講演では、大都市圏に人材を奪われやすい地方の建設会社が、いかにして社員の定着と採用力を強化させてきたのか、その鍵となる「インナーブランディング」の実践知が体系的に共有された。

  三陽建設本社外観

三陽建設本社外観
出所:三陽建設提供






「やらないことを決める」ことによる、ブランドポジション確立

三陽建設のインナーブランディングを語る上で、まず注目すべきは事業領域の大胆な「選択と集中」である。同社はかつて下請け比率が高い体質だったが、住宅事業と公共工事から段階的に減らし、「近畿一円における民間の一般建築」へとターゲットを明確に絞り込んだ。当初は現場からの反発があったものの、この戦略転換により、現在の売上構成は民間比率9割・公共1割になっている。山本氏は「事業の“何をやるか”を明確にすることで、社員一人一人が自社の強みと存在意義を自分の言葉で語れるようになる」と述べた。自社が何者であるかを社内で共有できている状態こそがインナーブランディングの出発点であり、それが対外的な発信力や採用競争力にも直結するという構造が、同社の事例から明確に読み取れた。



「SANYOアカデミー」と独自評価制度による人材への投資

同社のインナーブランディングの中核を担うのが、教育制度「SANYOアカデミー」と独自の人事評価制度「SNES(SANYO Never Ending Story)」である。新入社員は入社後、特定の部署に配属されず、まずアカデミーに所属する。最初の2週間はビジネスマナーや安全衛生の集中研修を行い、その後約半年かけて全部署をジョブローテーションする。この仕組みは、新入社員が会社全体を理解するだけでなく、既存社員が新人を「認知する」双方向の機会にもなっている。

 

人事評価制度では、年間目標を社員自身が設定し、毎月上長と1on1面談で進捗を確認。加えて「SANYOマインド」として36項目の定性評価を導入し、社員の個性や成長を多面的に評価する。属人的な判断に頼らない「共通の価値基準」を全社で共有する仕組みが不可欠であり、それ自体がインナーブランディングとして機能しているのである。

 

SANYOネバーエンディングストーリー体系図

SANYOネバーエンディングストーリー体系図
出所:三陽建設提供


SANYOアカデミー制度

SANYOアカデミー制度
出所:三陽建設コーポレートサイトより



「常識に捉われない改革」が生み出す、業界水準を超える組織づくり

三陽建設の成果の中で最も際立っているのは、建設業界の常識を覆す社員構成に表れている。20〜30歳代の社員が全体の7割を占め、女性比率は30%と業界平均(15%)の倍にもおよぶ。リーマンショック時に新卒採用を止めなかった経営判断が、この若い組織の礎となった。同社はこれを支える施策を多層的に展開している。

 

例えば「ともだち作戦」は、同業他社をライバルとせず、一緒に仕事をする仲間にしたいという考えから生まれた。県内・県外の他社と交流会や情報を共有し、施工協力できるような信頼関係を強化することで共創する文化を醸成した。また、海外研修も特徴的だ。あみだくじで4人1組の班を編成しミッションを遂行する実践型プログラムとして設計されている。技術継承においてはマニュアル作成ツールを活用し、1000件超のコンテンツを蓄積。新入社員にも作成を義務付けることで「教わる側が教える側になる」循環を生んでいる。「心豊かな人生を送る」というビジョンを具体的な制度と文化に落とし込んでいる点が、同社のインナーブランディングの神髄といえよう。

 

海外研修の様子

海外研修の様子
出所:講演資料より一部抜粋

PROFILE
著者画像
山本 貴光 氏

三陽建設 取締役経営企画部長