ナンバーワンブランド研究会では、自社のベース価値に、顧客の潜在的な「不」への約束や独自の体験価値を付加するブランドストーリーの構築を学ぶ。大手とは異なる「尖った価値」を定め、中長期的な信頼を築く収益モデルの創造を目指す。
第3回は、三和酒類に創業の背景から現在に至るまでの事業の発展や、「いいちこ」を軸としたものづくりとブランディングについて講演いただいた。工場・ワイナリーの見学と講演を通じてより深い理解を得られた。
開催日時:2026年1月22日(大分開催)
はじめに
三和酒類は1958年設立の酒造メーカーであり、麦焼酎「いいちこ」をはじめとして、清酒、ワイン、ブランデー、リキュール、スピリッツなど幅広い酒類を手掛ける総合醸造企業である。全国に流通網が発達し、他地域の日本酒が大分県内に広がる中、地元の酒蔵3社(その後、さらに1社参画)が協業することで設立し、現在に至る。
大手酒造メーカーとの競争の中で、日本酒や果実酒を展開する中、1979年に「いいちこ」の販売を開始。以降、いいちこのブランドや2度の焼酎ブームを通して、全国的に麦焼酎として確固たる地位を築いた。
当初より「いいちこ」ブランドをアートディレクターである日本べリエールアートセンターの河北秀也氏に、ボトルデザイン、プロモーションツールなどを一任することで、「下町のナポレオン」という独自アイデンティティーを確立している。
主力製品である「いいちこ」
出所:三和酒類ホームページより
ものづくりの挑戦
三和酒類の「いいちこ」は、同社のものづくりへの飽くなき挑戦から生まれた。日本酒を祖業とし、当初はワイン製造から始まった同社は、社名に「酒類」を掲げ、多様な酒造りに挑んで歴史を刻んできた。
麦焼酎「いいちこ」のベストセラー化に加え、「いいちこスペシャル」「いいちこフラスコ」などの製品群、さらには自社ワイナリーによるワインやブランデーなど、製品ラインナップを拡充し、総合醸造企業としての確固たる地位を確立している。
現在では「麹プロジェクト」を始動し、酒造りの原点である麹と向き合うことで、さらなる酒の深みを追求。技術と伝統の継承・発展に取り組んでいる。
「麹プロジェクト」の4つのキーワード“CCRN”
出所:麹プロジェクトページより
価値の進化と新市場への挑戦
焼酎は現在では全国で一般的に飲まれるお酒であるが、販売開始当初は市民権を獲得できておらず、バーやスナックではあまり日の目を見ない酒であった。そこで「新たな酒」という世界観の創造を目指し、アートディレクターである河北氏はアルファベット表記を初採用し、ボトルの形状から設計。そうして生まれたのが「いいちこシルエット」だ。以降、河北氏の織りなす世界観の元、新たな酒と新しいボトルを組み合わすことで市場の醸成・拡大を図ってきた。海外向け製品は、認知度がない、流通網が整備されていない、焼酎を飲む文化がない、”三重苦”の中、バー文化に活路を見出し「和(わ)スピリッツ」として、市場拡大を目指している。
自社製品の提供価値を尖らせ、新市場を切り開き、価値の進化を続けている三和酒類の戦略は高い技術・価値を保有する日本企業の手本となるだろう。
1985年発売の「いいちこシルエット」
出所:三和酒類ホームページより
バー向け焼酎「iichiko 彩天」
出所:三和酒類ホームページより
プロデザイナーに「任せる」という選択 アライアンスによるブランディング
「いいちこ」の販売当初からパッケージに記載されている「下町のナポレオン」という愛称は、一般公募から生まれた名称でありながら、焼酎の高付加価値化というブランドアイデンティティーを見事に具現化したものだった。河北氏が一貫してデザイン、プロモーションを手掛けたことで、「いいちこ」は親しみやすい庶民的なイメージから、洗練された「下町のナポレオン」へとブランド価値を確立してきました。「いいちこ」の世界観を表現することで製品展開の幅を広げたのは、自社が提供する価値を顧客に対して長期的に約束(保証)し続けている好例と言える。
河北氏が手がけた「いいちこポスター第1号(1984年4月)
出所:三和酒類ホームページより
三和酒類株式会社 常務取締役