アグリサポート研究会は、「アグリ関連分野の持続的成長モデルを追求する」をコンセプトに掲げている。
今回は当麻農業協同組合を訪問し、成長戦略、高級ブランド化、先進設備投資、トップセールスをテーマに視察と講演を実施した。先進事例を通じて、産地が長く選ばれ続けるための条件を、仕組み、信頼、人材育成の観点から考察した。
開催日時:2026年7月10日(北海道開催)
はじめに
当麻農業協同組合は、北海道当麻町を拠点に、米・きゅうり・ミニトマト・「でんすけすいか」などを取り扱う農協である。同組合は、育苗、選果、物流、販売までを一体で支える体制を構築し、単なる「集荷組織」から、産地全体の価値を高める「経営体」へと劇的な進化を遂げた。
「皆で儲ける」ことを原点に据え、生産者が利用し続けたくなる仕組みづくりを徹底している。また、事務所で来訪者に職員が丁寧に挨拶するなど、基本を当たり前に徹底する組織文化が根付いており、こうした日々の積み重ねこそが、選ばれ続ける産地経営の盤石な土台となっている。
当麻農協の施設視察風景。右手に見える白い建屋は接ぎ木定着促進室であり、農協単位での保有は全国的にも極めて稀な先進設備である
「集める努力」から「集まる仕組み」へ
農協経営において集荷率の向上は至上命題であるが、「毎年出してほしい」と生産者へ働きかけるだけのプッシュ型営業ではいずれ限界を迎える。当麻農協は、育苗施設や選果施設を戦略的に整備し、生産者が負担を感じやすい工程を前後から支えることで、自然に利用が集まるプル型の流れを確立した。
「皆で儲ける」を実現するには、部会組織の意思統一と職員教育が不可欠である。受注後の支援や運用まで含めて顧客接点を設計し直すことが、価格競争に陥らない基盤づくりに直結する。営業力を属人化させず、「利用し続ける理由」をシステムとして実装することこそが、市場から長く選ばれるための絶対条件である。
ブランドは「信頼を守る判断」で育てる
看板商品である「でんすけすいか」は43年の歴史を持つが、過去に大雨の影響を受け、露地栽培において出荷を断念せざるを得ないという痛烈な教訓を経て、ハウス栽培による安定生産へとかじを切り、現在では約4万玉規模の供給体制を築き上げている。ブランドは順調な成功のみで形成されるのではなく、失敗に対する真摯な対応と仕組み化によって鍛え上げられる。
ブランド化の本質は、単なる高価格化ではなく「信頼を守り抜く判断の積み重ね」である。その実現には、組織力、マーケティング力、そしてチームワーク・ネットワーク・フットワークの「3つのワーク」が欠かせない。短期的な売り上げよりも長期的な信頼を優先し、職員が高い目標を掲げて生産者と共に高みを目指し続ける姿勢が、他産地には模倣できない強力な競争優位を生み出している。

「でんすけすいか」には「秀品」「優品」「良品」の3段階の等級があり、ラベルには等級と生産者の名前が記載されている
選果機で重さ・空洞・色・形・糖度などの品質を一つ一つ検査。傷が付かないよう丁寧に箱詰めし、出荷している
「魅せる現場」と「トップの発信力」が人を動かす
同組合の施設は、見学通路を備えた選果場、徹底した衛生管理、ドライバーの負担を減らす物流設計など、関わる全ステークホルダーに配慮した現場づくりが徹底されている。設備投資は単なる省力化の手段ではなく、来訪者に圧倒的な安心感と説得力を与える「魅せる現場」として機能しており、現場そのものが最強の営業ツールとなっている。
トップセールスの本質とは、価格を交渉することではなく「人間性と信頼関係を売ること」である。「自分が変わらなければ、相手は変わらない」という信念のもと、育苗施設の林業への転用など、既存資産の活用にも挑む姿勢は、不可能を可能に変えるトップの意思を示している。 現場が品質と信用を語り、トップが組織の確固たる意思を示す。中堅・中小企業においても、設備投資、現場の演出、そして経営者自身の発信力を三位一体で磨き上げることが、次なる成長機会を確実に呼び込む実践策となる。

きゅうりの選果と段ボール詰めを行う施設。上部の白い部分は来訪者が見学できる通路になっている
当麻農業協同組合 代表理事組合長