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研究リポート
アグリサポート研究会
アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート 2026.07.28

小さな農家が自立する直販ビジネスの極意 寺坂農園

第6回の趣旨
タナベコンサルティングのアグリサポート研究会は、「アグリ関連分野の持続的成長モデルを追求する」をコンセプトに掲げている。

第6回は、北海道中富良野町で、3.2ヘクタールの小規模農地を舞台に、年間売上1.8億円・直販比率98.4%を実現した寺坂農園の代表取締役である寺坂 祐一氏を招き、収益性の高いダイレクトマーケティングの戦略と、顧客リストを核とした利益最大化の仕組みについてご講演いただいた。

開催日時:2026年7月9日(北海道開催)



はじめに

北海道・中富良野町に広がる寺坂農園は、3.2ヘクタールの農地から年間売上高1.8億円を叩き出す、小規模農家の圧倒的な成功モデルである。売り上げの98.4%を中間業者を介さない直販(通販1.5億円・軒先直売3200万円)で構成している。

 

同農園はインターネットやSNSをいち早く駆使し、立地条件の不利を逆手に取る「小規模農家のダイレクトマーケティング」を確立した。累計5万人(うちアクティブ顧客1万人)の自社顧客リストを保有し、中間業者への依存からの脱却こそが中小・零細農家の生存戦略であることを証明している。本稿では、その具体的な戦略と経営数値の管理手法をひも解く。

 

寺坂氏による講演の様子 ハウス内で栽培方法を説明する寺坂氏






顧客リストこそ最大の経営資産

「顧客リストは、仮に火事になっても火の中に飛び込んで取りに行くべき最重要資産である」。これが直販ビジネスの根髄である。農業を従来の「土地×労働×資本」ではなく、「見込み客×成約率×単価×頻度」というマーケティングの方程式で捉え直すことで、経営改善の打ち手は明確になる。

 

スマホとSNSの普及により、立地条件に関わらず全国の顧客と直接つながる時代が到来した。同農園は公式YouTube(登録者1万人超)や8000ページを超えるブログを駆使し、広告費を極限まで抑えながら純利益を最大化している。

 

デジタルを武器にした「クロスメディアマーケティング」は、リソースの限られた小規模企業が取り組むべき一手である。



「厚利少売」を貫く利益率経営

同農園では全商品の限界利益率を算出し、独自の販売基準を厳格に設けている。「安売りは経営体力を削る」という信念のもと、仮に売れ残っても値引きは一切行わない。「厚い利益を少ない件数で確実にとる(厚利少売)」モデルを徹底することで、多忙なだけで利益が出ない労働集約型経営からの脱却を果たしている。

 

マーケティングの核心は、作り手の「こだわり」を語ることではなく、顧客にとっての「ベネフィット(未来に得られる幸せ)」を提示することにある。贈答品選びの裏にある「失敗したくない」という顧客の深層心理に対し、蓄積した「お客さまの声」を証拠として提示し信憑性を高めている。

 

商品の付加価値を最終的に決定付けるのは、言葉の力(コピーライティング)である。

 

直売所では自社栽培のメロンを販売

直売所では自社栽培のメロンを販売



直販ビジネスの普遍的な原理

寺坂農園の取り組みが示すのは、農業という枠を超えた「直販ビジネスの普遍的な原理原則」である。規模や立地に関わらず、顧客と直接つながり、関係性を深め、リピートを生む仕組みを構築することこそが、中小・零細企業が自立して高収益を上げ続けるための決定打となる。

 

あらゆる企業は、自社の顧客リストを「最重要資産」と再定義し、デジタルツールを活用した継続的な接点づくりに取り組むべきである。「見込み客×成約率×単価×頻度」の方程式は、全業種の経営改善に直結する。この現地現場の実践知を、自社の経営変革の起点とすべきである。

 

直売所の運営を説明する寺坂氏

直売所の運営を説明する寺坂氏



熱狂的なファンをつくる

売上安定の核心は、「増客システム」と呼ぶ顧客データ管理にある。累計5万人のリストから抽出した1万人のアクティブ顧客に対し、住所・氏名・購買履歴を一元管理し、定期的な接触によってリピート購買を促している。

 

季節性が高く「一見客」で終わりがちな農産物ビジネスにおいて、継続的なコミュニケーションこそが熱狂的なファンを生み出す。売上の方程式における「頻度(リピート)」を高める最大の武器が顧客リストである。「新規獲得コストは既存維持コストの数倍に上る」というマーケティングの鉄則を踏まえれば、リストの蓄積と活用がいかに利益を左右するかは明確である。

 

ハウスで栽培されているメロン

ハウスで栽培されているメロン



人がやりたがらないことを、徹底的にやる

大規模化・機械化へ向かう業界の潮流に対し、同農園はあえて逆張りの戦略をとる。3.2ヘクタールの小規模農地を守り、手作業に固執する。「他者が避ける非効率な手間を徹底的にやり抜く」こと自体が、強力な差別化の源泉となっている。

 

マーケティング(売る力)がどれほど優れていても、プロダクトの品質(作る力)が伴わなければ顧客は確実に離反する。手間を惜しまず極限まで土作りに向き合い、最高品質のメロンを育てる実直な姿勢こそが、顧客との強固な信頼関係を築く最大の武器である。

 

「売る力」と「作る力」の高次元での両立。これこそが直販モデルを成立させ、長期的なリピーターを生み出し続ける本質である。

 

収穫したメロンは自社の基準で等級を分けて販売される

収穫したメロンは自社の基準で等級を分けて販売される

PROFILE
著者画像
寺坂 祐一 氏

寺坂農園株式会社 代表取締役