アグリサポート研究会では、アグリ関連分野における持続的成長モデルを探ることを目的に、先進的な取り組みを行う現場の視察を重ねている。今回の視察では、三重県鈴鹿市で農福連携を実践する社会福祉法人朋友を訪問し、代表理事長である伊藤良一氏の講話と現場視察を通じて、障がいのある方の特性に応じた就労の場づくりと、それを支える事業運営の考え方について学んだ。
開催日時:2026年5月25-26日
はじめに
社会福祉法人朋友は、三重県鈴鹿市を拠点に、障がいのある方の就労支援と地域に根差した事業運営を展開している。農業分野では、水耕栽培と露地栽培の双方に取り組むほか、加工・販売までを含めた事業を展開している。
伊藤理事長は1995年、40歳のときに転落事故に遭い、身体障がいを負った。自身も障がいのある立場となる中で、同じように障がいのある方々と対話を重ねるうちに、中途障がい者の多くが「障がいを負った後に戻る場所を持てずにいる一方で、これまで培ってきたスキルを生かして働きたいと考えている」ことを実感したという。また、生まれつき障がいのある方の中にも、自分がやってみたい仕事を持つ人が多いことを知った。こうした思いに触れる中で、障がいのある方が働くためのスタートラインをつくる必要があると考えたという。

ビニールハウスでは比較的生育難易度の低いサニーレタスを中心に水耕栽培を行っている(左)、
遮光カーテンを用いることで製造原価を抑えながらハウス内の室温を調整(右)
ハードとソフトの両方で働きやすい環境を整備する
現場では、水耕栽培と露地栽培の双方に取り組んでいた。水耕栽培は設備位置が高く、腰への負担が少ない。加えて、遮光カーテンを活用した温度調整も行われており、ローコストでの作業環境改善が図られていた。露地栽培では耕作放棄地を活用し、収益の確保につなげている。また作業場では、野菜の調整作業(根・茎などの不要部の切断)や、梱包作業を行っている。
伊藤理事長は、就労支援において、「障がいのある方が働きやすい環境づくりをすることが何より大事」と語る。上記のようなハード面での環境整備のほか、仕事を細かく分割し、工程ごとの役割を整理するというソフト面での整備も重要であると続けた。
特に、単純な作業を長時間、集中力を切らさず続けられることは障がいのある方の大きな強みであり、その強みを存分に生かせる環境づくりが肝要である。

画像手前が作業場、奥がビニールハウス(左)、業務の様子。社員の要望に合わせて勤務開始時間は柔軟に対応している(右)
農福連携を促進する「農業ジョブトレーナー」の育成
農福連携の推進においては、農家側に「障がいのある方に農業は難しいのではないか」という先入観があり、福祉側にも「利用者に農作業は難しいのではないか」という不安がある。
こうした相互の理解不足を埋め、現場で就労を成立させるために生まれたのが「農業ジョブトレーナー」である。農業ジョブトレーナーは、障がいの特性と農業現場の双方を理解し、作業の切り出し、受け入れ支援、定着支援を担う橋渡し役として機能している。
特に三重県では、農福連携を現場で実装する上でこの人材の重要性が強く認識されており、朋友も県内でその育成に力を入れてきた。農家と福祉の双方に理解を広げながら、一人一人の特性に応じた就労の場を地域に広げていく上で、農業ジョブトレーナーは極めて重要な基盤になっている。
事業の裾野を広げ、一人一人が活躍できる場所を提供する
朋友では、農業を中心とした「わか菜の杜」「コスモス」、製造業である「アクティブ鈴鹿」のほか、「Cotti菜」における弁当やパンの製造・販売までを含めた事業展開を行っており、結果として6次産業化を実現している。
業種・職種を多様に広げることで、障がいのある方の特性や希望に応じた就労機会を提供できている点が、同法人の大きな特徴である。
重要なのは、6次産業化の実現そのもの以上に、その工程の広がりを通じて、一人一人に合った雇用を提供している点である。農業が合う人もいれば、サービス業のほうが力を発揮しやすい人もいる。さらに農業においても、栽培が好きな方もいれば、野菜の調整・梱包作業が好きな方もいる。朋友では、事業の多様性を生かして就労の受け皿を広げており、それが継続就労と能力発揮の両立につながっている。

「Cotti菜」の販売風景。栽培した野菜を使ったお弁当や総菜パンが並ぶ。
店舗内での飲食も可能
社会福祉法人朋友 代表理事長