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研究リポート
アグリサポート研究会
アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート 2026.05.09

みつばの水耕栽培における高収益モデル構築のポイント エスアンドエム

第4回の趣旨
アグリサポート研究会は、「アグリ関連分野の持続的成長モデルの追求」をコンセプトに掲げている。
第10期4回となる今回は群馬県にて、みつばの水耕栽培で新規就農を果たし、高収益モデルを構築しているエスアンドエムを訪問した。
初期投資の大きいみつば栽培での新規就農を、いかにして成功へ導いたのか。全くの異業種である広告業界から転身し、同社をけん引する代表取締役社長の八須賀松夫氏よりご講演いただいた。

開催日時:2026年3月18-19日



はじめに

群馬県前橋市で土を一切使わない「みつばの水耕栽培」を営むエスアンドエムは、『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)の特集「儲かる農業(中小キラリ農業部門)」などで常に上位にランクインする、話題の高収益農業モデル企業である。

 

代表取締役社長の八須賀氏は、長きにわたり広告業を営んでいた。しかし、紙媒体の衰退とともに業界全体が縮小していくのを目の当たりにし、時代の波に左右されにくいファーム事業への転換を決意する。

 

みつば栽培は多額の初期投資を要するため、新規就農のハードルが高いと言われている。同社はあえてそこを逆手にとり、独自の経営戦略を展開した。大型ハウスを整備し、害虫リスクの低減や徹底した温度管理を実施。さらに、生産から安定出荷、販路の確立まで、川上から川下までのあらゆる工程にこだわり抜いた。その結果、「通年の安定供給」を武器に、一般的なみつば栽培の約3倍という高い収益性を達成している。

 

また、自身が大病を患った経験を機に、従業員が働きやすい環境整備にも注力しており、単なる生産管理にとどまらない総合的な経営手腕を発揮している。

  新規就農が難しいと言われるみつば農業

新規就農が難しいと言われるみつば農業
出所:エスアンドエム講演資料






土を使わない水耕栽培による衛生性と品質の安定

同社のみつば栽培の大きな特徴は、土を使わず、養分や殺菌剤を溶かした水を循環させて育てる「水耕栽培」を採用している点である。土壌栽培は、土に由来する害虫や病害の影響を受けやすく、収穫物の品質にもばらつきが出やすい。

 

その点、同社は井戸水ではなく水道水を使用し、循環機を用いて養分などを適切に行き渡らせることで、徹底した水質管理を行っている。これにより、みつばの生育を揃え、品質の均一化と安定出荷を実現している。

 

具体的には、2022年夏の猛暑被害を契機に、水槽内の水温上昇と酸素不足の対策として栽培環境の見直しと改善を積極的に行っている。

 

こうした最新設備への惜しみない投資と、丁寧な循環管理こそが同社独自のノウハウであり、これらが一般的なみつば栽培の約1.3倍という高い収益性を実現している。

  ハウス内の環境管理などについて説明する八須賀氏

ハウス内の環境管理などについて説明する八須賀氏



高度な環境制御による安心・安全の生産体制と通年栽培の実現

2つ目の特徴は、衛生管理が行き届いた「県内唯一の設備」と自負するビニールハウス内で栽培し、害虫被害のリスクを抑え、農薬散布の回数を低減している点にある。

 

一般的に葉野菜は虫害の影響を受けやすく、その被害が品質や出荷量に直結しやすい。しかし同社は、水耕栽培とビニールハウス内での精緻な管理を組み合わせることで、みつばの生育に適した環境を年間を通して維持。結果として、「安心・安全」で美味しいみつばの提供を実現している。

 

高度な環境制御によって年間を通じた安定出荷を実現している点こそが同社のノウハウであり、県内随一の強みとなっている。

  水耕栽培と、「県内随一の設備」と自負するビニールハウスでの精密な管理がエスアンドエム社のノウハウとなっている。

水耕栽培と、「県内随一の設備」と自負するビニールハウスでの精密な管理がエスアンドエム社のノウハウとなっている。



エスアンドエムを支える「攻め」の経営戦略

3つ目の特徴は、八須賀氏の独自の経営視点と戦略にある。広告業から「ファーム事業」へ転身した同氏だが、農業特有の課題や後発の農業経営体としての苦労に直面し、その解決に奔走してきた。大手生産者や歴史ある農家に真正面から挑んでも太刀打ちできないと考え、 「農業の常識は他産業の非常識」という考え方のもと、従来の経営セオリーに捕らわれない数々の施策を盛り込んだ、5ヵ年計画の策定や現場責任者となる生産者の育成など、さまざまな経営施策を打ち出したのである。

 

加えて、年間を通じた「安定出荷」によって市場(スーパー、飲食チェーン、食品加工会社など)からの確固たる信頼を勝ち取り、さらなる販路拡大という好循環を生み出していった。

 

一方、自身が体調を崩し過度な労働ができなくなった経験から、健康経営の実践にも注力している。福利厚生の充実に加え、「年間休日156日」を実現すべく社員間で「カイゼン協議」などを実施。

 

さらに、理学療法士によるボディーバランス生体(月2回30分)を実施するなど、従業員のストレスケアや健康サポートを手厚く行うことで病気や欠勤頻度を抑え、結果的に仕事のパフォーマンスや生産性向上に繋げていった。

 

人口減少に伴い労働者減少が待ったなしの日本において、健康経営を最重要課題として捉え、健康経営優良法人なども取得している。

 

こうした既成概念にとらわれない「攻め」の経営戦略こそが、同社の強固な地盤となっている。

 

従業員のストレスケアや健康サポートの充実で離職率の低下や個々のパフォーマンス向上をサポート

従業員のストレスケアや健康サポートの充実で離職率の低下や個々のパフォーマンス向上をサポート
出所:エスアンドエム講演資料

PROFILE
著者画像
八須賀 松夫 氏

有限会社エスアンドエム 代表取締役社長