アグリサポート研究会は、「アグリ関連分野の持続的成長モデルを追求する」をコンセプトに掲げている。
第10期の第3回研究会では、鹿児島県志布志市で農業ビジネスを展開する株式会社さかうえを視察。受注の仕組みによる生産ロスの削減や、耕作放棄地の活用などを軸とした持続可能なビジネスモデル構築への取り組みについてご講話いただいた。
開催日時:2026年1月29~30日
はじめに
鹿児島県志布志市に位置するさかうえは、消費者志向の「おもてなし」を軸に、生産・物流・小売りをつなぐサプライチェーンを設計・運営している。
JA(農業協同組合)による流通の価値を認めつつも、従来の農業における分業化が招く「部分最適」の弊害を断ち切り、より消費者に近い視点で品質・規格・納期に応える体制を構築した。常に変化する顧客のニーズや規模の拡大等に合わせ、生産体制の最適化を図っている。
また、売り上げをつくる仕組みづくりへ積極投資し、「一歩先を行く仕組みづくり」という経営方針のもと成長を加速。首都圏から志のある人材が集う「哲学重視」の組織づくりで、100億円規模を見据える。環境変化に対応し、物を売るのではなく、「仕組みをつくる」という考えを重視し、現場省力化と雇用の持続性を両立させている。
同社の経営最大の特徴は、事業構造に先立つ「哲学」にある。「経営とは不安と向き合う営みであり、哲学こそが意思決定の安定装置となる」。この考え方が、同社の長期的な事業運営を支えている。
生販一体モデルで高い価値を実現
同社の収益は、契約栽培事業・牧草飼料事業・畜産事業の3分野からなる。中でも、売り上げの約8割を占める契約栽培事業において、その成長を支えるポイントは、「売れるものを売れる状態で売る」という生販一体モデルにある。
具体的には、生産前の段階で営業部門が全国約50社のスーパーマーケットと商談を行い、顧客ニーズを生産現場へフィードバック。作付け量や出荷時期を緻密に調整することで、市場とのミスマッチを未然に防いでいる。主力のピーマンは年間約2600トン出荷し、全国流通量の約2%を占める規模だ。太陽熱消毒による土づくりや周年栽培による安定供給など、顧客要望に応える生産技術を磨き、収穫後の選別・袋詰めまでを自社で完結させている。
「営業が先行し、生産が追随する」という逆転の発想が、5年で売上4倍増という急成長を実現した。同社は、農業を「機能が分業化された産業」と捉えている。環境変化により機能再編が進む中、「分断された機能を再統合する主体が必要だ」と坂上社長は続ける。これこそが、同社の事業戦略の出発点となっている。
2025年のピーマンの取扱量は約2600トンにのぼる。2026年2月現在で日本の総流通量の約2%を占めており、将来的には10%を目指している
耕作放棄地の活用
同社の事業展開の根幹にあるのが、約200ヘクタールに及ぶ耕作放棄地の再生である。志布志市は畜産が盛んな一方、推定1000ヘクタールもの耕作放棄地を抱えている。保水力に乏しい火山灰土壌に加え、農家の高齢化により荒廃が進んでいた。
1995年の創業以来、同社は「預かった農地は必ず再生する」という約束を守り続け、地域の信頼を獲得しながら農地を集積してきた。個人農家や農地中間管理機構から借り受けた土地は、契約栽培用ハウス(20ヘクタール)、牧草・飼料生産(160ヘクタール)、畜産放牧(12ヘクタール)と、事業特性に応じて使い分けている。
特筆すべきは、荒廃農地という制約条件を前提に事業設計を行っている点だ。土地条件の悪さを無理に克服するのではなく、「どの土地にどの機能を配置すれば最大効率になるか」という考えのもと、機能を最適配置している。大型機械が入る場所は牧草地、狭小地は放牧地、集約管理が可能な場所はハウス栽培など、条件の悪い1400筆以上の分散農地を組み合わせ、最大活用するこの経営手法は、地域課題の解決と企業成長を両立させる先進モデルである。
牧草飼料事業と自社ブランド「里山牛」を通じた持続可能な畜産
耕作放棄地を「里山牧場」として再生し、自然放牧で育てる黒毛和牛「里山牛」。これは、さかうえの次世代事業として注目されている。地域の農家から供給される堆肥を活用して牧草を栽培し、それを発酵・圧縮して製造した自社飼料を与える。ストレスフリーな環境で育成することで、ビタミン・ミネラル・鉄分が豊富な健康志向の牛肉を実現した。現在、JR九州の観光列車「ななつ星」へのメニュー採用や、結婚式場とのコラボレーションなど、高付加価値販路を開拓中である。
耕作放棄地の再生と畜産の地域循環を両立させ、ブランド価値を高めるこの経営モデルは、地方農業の新たな可能性を示している。資源を無駄なく循環させる取り組みは、単なる環境への配慮にとどまらず、飼料コストの削減と地域からの信頼獲得という「経営的合理性」を兼ね備えた戦略でもある。
①経営は思想を基盤とする営みであること、②分業化された機能を再統合することが競争優位の源泉となること、③環境は制約ではなく「設計条件」であること、これら3つは普遍的な経営要素であり、同社の取り組みは産業横断的に参照可能なモデルと言える。
里山に生える牧草を食べ、放牧により活発に動き回る牛の肉は、良質な赤身で引き締まり、柔らかい肉質と程よい脂を楽しむことができる
株式会社さかうえ 代表取締役