アグリサポート研究会は、「アグリ関連分野の持続的成長モデルを追求する」をコンセプトに掲げている。
第10期の2回目は、奄美大島・加計呂麻島にしかない素材から生み出す付加価値の高い「きび酢」の魅力や今後の展望について、奄美せとうち地域公社の事務局長である植村翔太氏にご講演いただいた。
開催日時:2025年12月4~5日
「かけろまきび酢」。ほかにも、きび酢を使ったドレッシングやジャムといった加工品も展開している
はじめに
加計呂麻島は、奄美大島の南に位置する人口966人(2025年9月現在)の小さな島である。この島でしか作ることができない「かけろまきび酢」は地域特産品としての独自性を持ち、消費者へ高い付加価値を提供している。
原料はさとうきびのみであり、自然の力に委ねてゆっくりと発酵させる製造工程が特徴だ。島固有の酵母菌や酢酸菌から作られる「幻のきび酢」は、一般的な食酢に比べてポリフェノールやカルシウム、ミネラルなどの栄養素が豊富である。血圧サポートや血糖値の安定、美容、疲労回復に効果があるとされ、健康志向の高い消費者から厚い支持を得ている。
400年以上前に島民が自家用に作り始めたのがきっかけのきび酢は、今もなお、さとうきび100%・完全無添加の製法で受け継がれている。
島の産業としての「きび酢」
自家用であった「きび酢」を地域産業として発展させ、さとうきびの付加価値を高めるため、あまみ農業協同組合が製造に着手した。
1983年に県の補助事業を活用して、「かけろまきび酢工場」を建設し製造を開始。2016年にはテレビ紹介を機に使用量が前年度比3倍に達するブームが約2年続いた。ブーム沈静後も、獲得したファン層のリピートにより安定した売り上げを継続した。
しかし、2019年に注文への供給が追いつかず原酢不足に陥ったほか、コロナ禍による供給力の低下、さらには顧客の高齢化に伴う需要減という課題に直面する。
そこで、生産の安定と製造技術・伝統の味の継承を図るため、2025年4月に同組合から奄美せとうち地域公社へ事業が譲渡された。現在は年間20トンのきび酢を生産している。公社化により、ふるさと納税や奄美群島振興交付金の活用が円滑化し、地域資源を最大限に生かした事業展開が可能となっている。
1983年に建設されたかけろまきび酢工場
製糖の様子。収穫したさとうきびを手で圧縮した後、絞った糖水加熱。タンクで発酵し貯蔵・熟成される
ふるさと納税やネット通販で活路を見い出す
奄美せとうち地域公社の主な事業は、➀きび酢の製造(醸造~瓶詰)、➁製品および加工品の卸売り、➂原酢の販売、➃ふるさと納税返礼品への出品、➄直販(コレクト販売)の5項目である。
現在は卸売りが大きな割合を占めるが、その依存からの脱却と収益性向上のため、➃および➄の事業に注力している。
具体的には、ふるさと納税において地域の魅力を伝えるストーリーを展開を進めている。ネット通販では多様なラインナップを揃え、消費者の利便性を高めた。その結果、売上増加と地域認知度の向上を実現した。
今後はさらなる新規層の獲得に向け、認知度の向上が不可欠である。その一環として、加計呂麻島内での商品無償提供を通じた地域発のプロモーション活動を推進している。
工場の看板に書かれた島民の子どもたちのイラスト。島民に愛されていることが分かる
工場横の直売所では、きび酢・関連商品を手軽な価格で販売
人々の共感を呼ぶストーリーの構築
今後、植村氏は加計呂麻島の豊かな自然と400年の伝統を背景に、「かけろまきび酢」でしか語れない物語を消費者に伝え、事業の再構築を目指すという。具体的には、きび酢を食だけでなく、シャンプーや化粧水といった美容分野にも展開し、「体にいいものを作る」というストーリーを構想している。
そのためには、製糖工場を含めた島内外の事業者との連携を強化し、共同での商品展開や宣伝活動を行うことが重要である。また、売り上げの一部を環境保護活動へ寄付して社会貢献につなげ、それをプロモーションに生かす「コーズマーケティング」を実施し、消費者が購入する「理由」を提供することも手法の1つとして検討している。
地域資源を生かしたビジネスは、今後も多くの可能性を秘めている。
奄美大島・加計呂麻島が持つ唯一無二の大自然やブランド力・伝統を生かしたストーリーづくりで、顧客が買いたくなる「理由」づくりを提供
合同会社奄美せとうち地域公社 事務局長